T-1


「ニュース! 大ニュース!」
「なんだよ?」
「タブリスが、あのタブリスが死んだって!」
「まさか」
「うそだろ」
「ホントだって! 帰省中に親から聞いたんだけどさ…あ、でもこんなこと言っていいのかな…」
「なんだよ、もったいぶってないで早く言えよ」
「僕の母さんのいとこがタブリスの家の遠縁なんだけど、そのいとこがタブリスの葬式に行ったんだって!」
「それで?」
「海から落ちたって言ってた」
「落ちた? 事故か?」
「それが…家族は事故だって言い張ってるらしいけど、ここだけの話、本当は自殺っぽいよ」



春期休暇の最終日。続々と帰省先から戻ってくる生徒たち。その中のひとりが持ち帰った話が衝撃的な噂となって寮内を駆け巡った。        

「それほんまか? ガセとちゃうか?」
「なんでまた海なんかに」

各部屋で共有ラウンジで廊下で庭で。学生寮のいたるところで生徒たちが集まり興奮気味に話している。                         

「こりゃえらいスキャンダルだ。学院一のアイドルが謎の自殺!」
「アイドルって?」
「なんだおまえタブリスを知らないのかよ?」
「ここでタブリスを知らないなんてモグリだ」
「野郎ばかりのこの学院でまさに掃き溜めに鶴。あの美形を二度と拝めないのかと思うと、神様はなんて無慈悲なんだ!」
「おい、不謹慎だぞ」
「俺が知ってるだけでもここの半数はヤツの崇拝者だったな」
「なんでもファンクラブまであったらしいぜ」
「ファンクラブ? まじかよ」
「碇はどないしとる?」
「委員長? どうして?」
「だって、タブリスはさ、その…碇のこと」
「おい、おまえたち黙れって。碇は関係ないだろ!」

たったひとり騒動を静観していたケンスケはラウンジでたむろしている寮生たちのグループにすばやく割って入った。くだらない噂話に親友の名が出たことが我慢ならなかったのだ。

「なんだよ、相田」
「噂ってのは必ず尾ひれがついて回るんだ。軽々しく碇を巻き込むなよ。迷惑じゃないか」
「なにムキになってんだよ。タブリスが碇のこと好きだったのは本当のことだろ」
「碇だってまんざらじゃなかったんじゃないの?」
「うるさい、黙れ! まだ真偽もはっきりしない噂話なんか広めるんじゃない」
「嘘じゃないったら! 僕の母さんのいとこがタブリスの葬式に…」
「もう一回言う。その耳障りなキンキン声で噂話を広めるのをやめろ」

ケンスケは噂の主の胸ぐらを掴み凄む。眼鏡越しの怒りをはらんだ鋭いまなざしが、相手をまっすぐに睨めつける。

「どっちにしろ学院側から正式に発表があるまで黙ってることだな」
凄みを利かせ言い捨て、力の限り相手を突き飛ばす。普段は物静かなケンスケの豹変ぶりに一斉に静まりかえるラウンジ。

「だって本当のことなのに!」
「フン、相田の偽善者!」
「何とでも言え。まったくくだらないな、暇人どもめ」

投げられた罵声を気にする風でもなく、却って呆れながらケンスケは隣接する学院の方へと歩いて行く。



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