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もやもやの形

とても暑い夏だった。祖母の部屋の前を通るとドアの下から涼しい冷気が流れ込んでくる。私は祖母にバレないようにドアの下に顔を近づけて涼むのが毎年の夏の過ごし方だった。何故ならこの家は祖母の部屋にしかクーラーが無いからだ。祖母が動く音を察知すると私は一目散にドアを離れる。その行動がまた私に熱いと気づかせるのだ。私はもう15歳になっていた。12歳を最後にトムには全く会えていなかった。その代わり夏になるとトムなら手紙が毎度一通届くのだ。この手紙のお陰でトムは私を忘れていないと深く思う。内容は相変わずホグワーツでの日常の話といつも最後に会いたいと書いてあるだけの手紙だ。私は返信できない手紙を書いてはトムに渡すために、クッキー缶に溜めている。まだ数通だかそこにはトムとの繋がりが感じる。ある時の早朝、祖母が言った「お前の親が会いたがってる。」と。私の目の前は一瞬にして真っ白になりただ立ち尽くす。「返事もできないのかい。まぁ会うのは好きにおし。」と祖母は杖を震える手で掴むと涼しい自室へと戻って言った。どうしよう。どうしよう。なんで今更。なんの用なの。私はそれから落ち着かない心をなんとか落ち着かせようと色んなことを気分転換にするが、てんでダメだった。私はこのもやもやした気持ちを消費したいし、なにより私になんの用があるのか気になっていたから祖母に一言両親に会ってくる。と言うと私は祖母の返事は聞かず家を後にした。 ここに来るのは久々だ。約6年振り…。久しぶりだとしても今度は窓から覗くんじゃなくてちゃんと玄関から入れるんだと思うと私の鼓動は速く息がしづらくなる。ちゃ、ちゃんとインターホンは押せるかな。どもらず話せるかな。家の柵に手を着いて深呼吸をすると「ねぇ、」と話しかけれてるのに気づいたのは随分経ってからだった。だって外で私には話しかけてくる人は皆無だし、友人すら知り合いすらいないから。「君って昔からこの家よく覗いてたよね。」震えながら振り返るとトムとは違い貧相な体つきの少年が立っていた。『………』「そんなに怪しまないでくれよ。俺そこに住んでるんだけど昔よくここに来てただろ。話しかけたくてやっと勇気を出したら君が来なくなるから…。俺それから後悔ばかりで。」『わ、私は、私は…』と言うとこの少年の口からあの聞きたくない馬鹿にしたような笑いが聞こえた。私は耳を塞ぎその場を急ぎ離れた。後ろから少年の声が遠く聞こえるが耳を塞いでいて聞き取れないし聞き取りたくもなかった。どれくらい走ったか分からない程私はずっと走っていた。気づけばあまり来たことがない場所で私は浮浪者の様にそこらへんを歩き回ると細い暗い路地に当たりその路地を真っ直ぐ進むとかなり大きな通りに出たようだ。ここ、スクールに行く時にのる駅…。スクールに最後に行ったのはかなり前だけどこの場所は記憶にあった。私の家の周辺よりキラキラ輝くお店が沢山あって人がザワザワと賑わい初めて来た時はとても感動した。ここに来ると皆無関心で迫害されることが無い私はこの場所が好きだったなぁ。と思う。帰り道は分かったところで両親の所へ行くのどうしよう。あの少年は何が言いたかったのかな。とりあえず今日はもうやめとこう。と帰路に着こうとするとまたあの酷く優しい友人だった声が背中から伝わってきた。「名前ちゃん、だよね?」振り返りダークブラウンの彼女を見ると、彼女はあのあどけない顔からきらきらと輝く綺麗な女性へと変貌を遂げていた。彼女のてかてかと光る小さな爪のネイルポリッシュ、ピンクのほんのり光を放つピアス、いい所へ連れて行ってくれそうなハイヒール。ダークブラウンの長い髪は良い高さで結われ少し派手目のシュシュが彼女の髪と相まって綺麗だった。彼女はパッチリとしたシャドウが乗る目で私を上から下へと見ている。私は自分の格好を恥ずかしくなり彼女から顔を逸らした。「名前ちゃん、もう学校には来ないの?」と彼女は小鳥が囁くように話しかけてきた。私は恥ずかしさで声が喉に引っかかって言葉にできない。「ねぇ、シャーリーがあんたみたいな子に話しかけてあげてるのに無視っていい性格してるわね。」と彼女の後ろから少しふくよかな女子が私を蔑むギョロリとした目で私を睨みつけている。『あ、あの、私は、』「ごめんね、私の友人。思ったことをすぐに言っちゃう子だから。」大丈夫、大丈夫だよ。と私は口にしたいけれど彼女の後ろから覗くギョロリとした目が怖くて怖くて仕方なかった。「シャーリー、止まってどうした。」と今度は男性が近づいてきて彼女の腰に手を回している。それだけで世間に疎い私でも彼女と男性の間柄が分かった。「久々に懐かしい友人に出会ったから…」と彼女は口にした。その時私の頭の中ではるか昔に彼女が言った「ごめんね」と言うシーンが過ぎった。私は友人じゃない。私はあなたの友人じゃない。だってあなたが友人じゃないってごめんねって言ったんだよ。「友人?…あぁ、あの変な子か」と彼は私を舐め回すかのように見るとそう言った。「変な子?まぁ、シャーリーの話を無視するぐらいだから変な子には間違いわね。」と声が頭を反響する。「こーら、私の友人だからあんまり酷いことは言わないで頂戴。ごめんね」と彼女は私の顔を覗き込んでハンカチを伸ばしてきた。私はそれを手で叩き言いたいことがうまく纏められていない頭を必死にフル稼働させながら叫んでいた。『は、ハンカチとかまた私が、私が泣いているとでも思ったの?それに私はあなたの友人じゃない。あなたは友人じゃない!』と肩で息をするほど私は叫んでいた。左右を通る人達はこんなに大声で叫んでも誰一人とて気にする素振りは無かった。彼女を睨むと「や、やっだー。何この子。頭おかしいんじゃない?もうシャーリー行こうよ。遅刻しちゃうよ。」「ごめんね、名前ちゃん。そうだよね。友人じゃないもんね。ごめんね」と消え入りそうな声で言うものだから私はどこの口で友人じゃないと言っているのか、なぜ彼女が悲劇のヒロインぷりを見せているのかと腸が煮えくり返りそうになっていた。「おまえ、二度とシャーリーに近づくな」と男性が近寄ってくる。私が近づいたんじゃないよ。彼女が話しかけてきたんだよ。と言っても信じて貰えないと確信して私は肩に来るであろう痛みを前もって目を瞑り体に力を入れた。けど、痛みは来なく代わりに肩にはふんわりと暖かい温もりが乗ってきた。「彼女に何をしているのかな?」聞きたかった声が聞こえた気がした。私は横を見を見るとトムが男性の腕を掴み怖い笑顔で少しだけ笑っていた。トムがトムがいる。私はトムの胸に飛び込み泣き声をあげると優しく頭を撫でてくれた。男性は「…っ、、離せよ。」と言うと遠ざかる足音は段々と小さくなって言った。友人じゃない彼女は「名前ちゃん…」と言うけれど私はトムを感じることに精一杯でそんなの気にしてられなかった。そしてまた彼女は昔の声色で「ごめんね」と言うと離れていった。