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なにかの運命

次に名も知らぬ彼に会えたのは8歳の中頃。最後に会ってからやく半年後だった。私はその日窓から公園を眺めていると私と年端も変わらない子たちが元気に走り回っていた。おずおずと体が疼き、私は家を飛び出しその子らの元へ向かうと『いっ、一緒に、遊び!たい…』とはっきり言った。その子たちは「こいつってあの変な子って呼ばれてる」「一緒に遊ぶと友達ができないって聞いた」「ただの悪魔じゃないか。」「おい、行こうぜ。」と辛辣な言葉を並べられ萎縮した私は足から根っこが生えたようにその場から動けなかった。動けるようになったのは家の時計が夕方7時を指している時間だった。祖母の夕食が夕方5時でそれに間に合わないと私は夕食抜きになる。今日は食べれなかった。しょうがない。私が悪いんだもの。と納得しこの部屋に昔からある古い古い絵本を開きぼんやりとした絵柄を見ながら文字を読んだ。本の中の男の子は両親に囲まれて幸せそうな表情をしている。私はぽつりと男の子の頬の上に涙を落とすとぱたりと閉じて元あった場所へと戻した。幾度なく溢れでる涙を拭ってくれる人物など傍にはおらず私はまた泣いたのだ。気づけばまたあの男の子と会える場所だった。私は前のめりになりながら木まで必死に走るとやはり彼はそこに居た。「やぁ、半年ぶり?かな。どうやら今日の君は泣き虫みたいだね」と頭を撫でてくれる。私はその彼の優しさがじんわりと私を支配した。『…ぅぅうぅーーー』1人でいる時よりもさらに私は大粒の涙をぼろぼろ零した。2人でいて寂しくないのにどうして1人の時よりも涙が流れるの?と聞きたくても私はずっと嗚咽をもらすだけだった。彼は少し古びたハンカチで涙が零れるたびに拭ってくれた。そしてなにも言わないで待っていてくれた。『目の違和感がすごいよ』「それだけ泣けばきっと明日はもっと酷いはずだよ。寝る時にでも濡らしたタオルを目に当てて寝るといいよ。」『うちには、そんな余計なタオルはないの。それより前回は私の名前を聞いていながら消えたわね。私、失礼だと思ったし、その、悲しかったわ。』「はは、ごめんね。これは僕の夢だから体が起きたら消えちゃうんだよ。」『私は目を瞑るとここにこれるのよ。』彼は私の話に気持ちよさそうに耳を傾けていた。『私は、私はね苗字名前って言うの。』「名前か、僕はトム」『トム…うん、私覚えたわ。トムっトムっ』「恥ずかしいからそんなに呼ばないで。呼ばれ慣れてないんだ。」『そう、ね。私も名前って呼び慣れてないわ。だって誰も読んでくれないんだもの。そのうち自分の名前が名前ってことも忘れちゃうんじゃないかしら』「大丈夫だよ名前。僕が覚えてるから。僕が覚えてる限り名前は消えないよ。」『そんなこと言ってくれるのはトムだけだわ。今日ね、私ね、私ね。寂しくて公園で遊んでる子たちに勇気をだして遊ぼう!っていったの。したら、ね。変な子とか悪魔とか言われちゃった。悲しくて私はその場から動けなかったのよ。もう人間は信じないわ。近寄りたくもない。』「そんなに怖い顔しないで。せっかくのかわいい顔が台無しだよ。」トムは長い足の太腿をぽんぽんと叩く。私は呼ばれたのだと思いトムの足を跨ぐように正面にトムの太腿に座った。トムはびっくりしたような顔をして吹き出した。「…ふふっ、違うよ名前。こうされた時は頭を乗せるんだよ。」『あ、やだ、私。恥ずかしい』急いで太腿から降りようとする私をトムは制した。「別に大丈夫だよ。好きなだけ乗っていて。」『トムは、トムは実在してるのよね?』「名前の言う実在がどの事を指しているのか分からないけど、僕の世界ではちゃんと僕は存在しているよ。」『トムは家族と幸せにできてる?』トムの表情が少し暗くなった。「僕は、孤児院生まれなんだ。両親の顔すら見たこともないんだ。」『私と、私とトムはどこか似ているね。トムはふと寂しくてなったりお母さんと手を繋いでいる子供を見たりすると胸が痛くならない?』「……そうだ、ね。昔はそうだった。けど、今はこうやって名前と会えるしそんなに寂しくはないかな。」『私はトムと出会ったからこそ寂しいわ。だって毎日会えるわけじゃないもの。』「そうだね、僕はあまり夢を見たくないんだ。あっ、違うよ。名前に会いたくないってことじゃない。僕も実は名前と同じなんだよ。孤児院のやつらは僕に嫌がらせをするんだ。だから僕も意固地に不思議な力を使って復讐したんだ。それから皆には忌み嫌われてる。友人だって居ない。僕も人は嫌いだ。」トムは苦虫を噛み潰したような顔をして話し出した。話終わるとトムの黒い深い瞳から綺麗な1粒の涙がポロリと頬に伝わる。私はスカートの端をもってかれの頬を拭うと「初めてだ。涙を拭われたのは」とまた泣きながら言うから私も貰い泣きをし『私も初めてだったんだよ。人に涙を拭われたのは』と言うと2人で大声で叫ぶように泣いた。トムも私も余りにも泣くので私はそっと壊れ物を扱うかのようにトムの肩を抱いた。トムもそれに答えるかのように私の腰に腕を回し死にそうなぐらいきつい力で抱きしめた。 木の後ろにある透き通った小さな湖で2人で顔を覗かせてると腫れぼった目が私たちをより1層ブサイクに映し出した。「名前、寝る時にでもタオルを乗せても無駄なようだよ。」『私もね、そう思ってたんだ。』と2人で吐き出すように笑った。『トム、よかったら友人になって、ほしい。』「え、今更?僕はもう友人のつもりだったんだけど」とトムは頬をポリポリかいている。私は初めて出来た友人に飛びつき2人で柔らかな地面を転がった。その日は人生で1番いい夜だった。