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永遠に雨の中

17歳の秋に祖母は他界した。あれは17歳の春だった。朝起きてご飯だよと扉を叩くとか細い声で祖母は部屋に入るよう言うので私はゆっくりと部屋に入りベッドの椅子に座った。祖母を震える手で1枚の紙を私に渡してきた。字面を読むとそれは祖母が息を引き取ったらやることが書いてあった。『こ、これ。』「もう、これだけ生きていれば終わりが近いのが分かるもんさ。もうすぐ私は居なくなる。その紙の通りにきっちりとやるんだよ。」私の頬に涙が伝う感覚がした。「遺産なんて贅沢なもんはあるわけないさ。この家は私が逝ったら好きにするといい。売りなり焼き払うなり。」『お、おばあ、ちゃん、』「私はいい祖母ではなかった。お前もそう思うだろう。」『うう、ん。おばあちゃんは、私には料理を、教えて』「死に急いでたのさ。お前に残してやれるのはあれぐらいしかないからね。別に旅立つことは怖くないさ。けどお前が、1人になるのは少しばかり胸が痛むね」と祖母は泣いているようだった。祖母は確かに私に必要最低限の事しかしてくれなかった。けどマフラーを買ってくれたり、料理はいつも必ず手作りだった。料理を覚えた私はその大変さが身に染みてわかった。そんな祖母はちゃんと、私を育ててくれたんだ。そこに愛はあったんだ。『お、おばあちゃん。私は1人にならないよ。わ、私のことを1人にしないって、言ってくれる人がいるん、だよ。』とぼろぼろと涙を零しながら伝えると祖母は「そうかい、そんな人が名前にはいるんだね。これで心置き無くいつでもあの人の元へ行けるよ」と子供のような無垢で純粋な笑顔で笑ってくれた。初めて名前を呼んでもらえた嬉しさもあったが私はちゃんと愛されていたんだと言う嬉しさの方が上で私はおばあちゃんの膝の上でわんわんと久しぶりに泣いたのだった。それから祖母は眠るように亡くなっていた。覚悟していたがやはり現実は想像してたよりつらかった。祖母がくれた紙を必死に読み、祖母の葬儀は本人の意向で私だけでひっそりとすませた。祖母が少しだけ残してくれた蓄えで花のリースを買い墓石に引っ掛けた。私は悲しさで前が見えないくらい泣きながら誰も待つことの無い家に帰った。家の中はあまりの静けさで怖くなった。 『……トム、おばあちゃんが死んじゃったの。私、1人になったよ…。トム、私を1人にしないんじゃなかったの』 トムに届くことの無い私の想いはシャボン玉みたいにパチンと消えた。 祖母が居なくなってから初めての誕生日だった。18歳になった私は祖母が死んでからあまりトムの事を考えないようにしていた。望みを抱くと悲しくなるから駄目なんだ。と思ってもなかなかトムのことは忘れられなかった。私はやっぱり1人だ。やだやだ。そんなことを考えだしたらまた泣いてしまう。私はコポコポとコーヒーを注ぐと自室へと閉じこもった。うとうととしていると「もう少しだけ」とトムの声が聞こえた気がした。振り返るが何も無い。やだ、どれだけトムの事を待っているのよ。幻聴まで聞こえ始めた。冷めてしまったコーヒーを入れ直すためにキッチンへと降りる。いつの間にかこの暗さや静けさに慣れてしまった。どうやら雨が降っていたようでキッチンは雨漏りでびしょびしょだった。私はバケツを濡れた床へと置きぴちょんと言う音を数え始めた。窓に流れている雨が途中で繋がり窓の下へと流れていく。いっそのことこの雨が私も下へと流してくれたらいいのに、とまた涙をこぼした。