babble


「あのメアリーのどこがいいって言うのよ? ねえ、あんたはさ?」
 栗色をしたくるくるの巻き毛を揺らしながら、目の前の彼女はぼくと……ぼくのメアリーを馬鹿にしたように笑った。彼女はいつもこうだ。ぼくがメアリーのことを話したり、褒めたり、考えているような素振りを見せるたびに彼女はこんなことを言ってくるのだった。
「どこがいいかだなんて……そんなの、ぼくには分からないよ。でも、ぼくはメアリーのことを愛しているし、メアリーもぼくのことを愛している。これだけは確かなことさ」
「ね、あんたがあの子のことをどんなに愛していたとしてもさ、あの子があんたを愛しているとは限らないんじゃないの?」
「いいや、そんなことはない。あっちゃいけないんだよ。分かるだろ……ぼくと、あの聖母のようなメアリーは運命で結ばれているんだよ……」
「あんたってほんとのほんとに、馬鹿!」
 そう話しているうちにも、ぼくの優しいメアリーはミルクをたっぷりと注いだ器をふたつほど抱えてぼくたちの前に姿を現した。器のひとつはぼくに、もうひとつは意地悪な彼女に差し出していつもの穏やかな、まるで聖母のような笑顔を見せ、そしてぼくたちの柔らかな髪をそっと撫でた。
「さて、これでいいわ。ねえ、かわいこちゃんたち?今日のおやつはクッキーとチーズ、どちらがあなたたちのお気に召すかしら?」
「それはもちろん、チーズだよ、メアリー?」
「そうね、クッキー。もちろん分かっているわ。じゃあ、楽しみにしていなさいね」
「メアリーって、あんまりぼくの話を聞いていないよね。そんなところも好きだけれど。でも、まるでぼくが何を言っているのか分からないみたいだ」
 そんなことをぽつりと呟けば、意地悪な栗色はひどく冷たい表情をしてこちらを一瞥した。そして目の前のミルクに舌を少しつけた後、やっぱり氷のような声色でぼくに向かっておかしなことをいくつか言った。
「そりゃ、分からないでしょうよ。だってメアリーって生き物はヒト≠チてやつでしょ? あたしたちとは違うもの、話す言葉だって違うわけよ。あたし、あのメアリーが何を言ってるのかだって、さっぱり……ちょっとくらいしか……分からないし」
「仕方ないよ、君はヒト≠カゃなくてネコ≠ネんだから。でも、ねえ、ぼくは違う。ぼくはヒトなんだから、メアリーがぼくの言ってることを分からない理由はないだろう? ぼくだってメアリーがなんて言ってるか、ばっちり分かるんだから」
「……冗談でしょ」
「本気さ」
 ぼくたちがそんな馬鹿げた会話を続けていると、メアリーが小さな袋を抱えてこちらに戻ってくるのが見えた。ぼくたちのところに戻ってくるなりぼくの愛しいメアリーは、袋から魚の形をしたクッキーを取り出し、ぼくに差し出しながらこんなことを言って、また、いつものように笑った。
「おやつの時間よ。わたしのかわいい子猫ちゃんたち!」


20140720 執筆

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