きみと見る朝日にミルクをたらして


 たとえばぼくが空を飛べたとして、何かが変わることはあっただろうか。たとえば僕が目からビームを出せたとして、何かが変わることはあっただろうか。きっとない。そうなのだ。それらは、ぼくが一輪車に乗れないことと同じくらい、世界にとっては些細なことなのだから。
「また難しいこと言ってる。今度はなんなの?」
「……や、ぼくが目からビーム出せたらどんな感じかなって考えてただけ」
「目からビーム? 別にいいけど、あたしの家だけは壊さないでよね」
「……きみはそういうやつだよ」
 コトコトと腹に心地よい音を鳴らしながら、ポタージュスープの入った鍋はコンロの上で踊る。うん、今のを彼女が聞いたら「なかなか詩的ね」と言ってくれることだろう。いいや、「そんなことよりお皿並べてよ」と言うのかもしれないが。
「ほら、できたよ。あんたの好きなポタージュスープです」
「うん、ありがとう。美味しそうだね」
「まあね、市販のやつだしさ」
「知ってる」
 たとえばぼくが空を飛べたとして、何かが変わることはあっただろうか。たとえば僕が目からビームを出せたとして、何かが変わることはあっただろうか。きっとない。変わらなくていいのだ。ぼくがどんなスーパーヒーローや天才や、たとえ世界を壊す悪者だったとしても、きみはぼくの隣にいて、市販の美味しいポタージュスープを作ってくれるのだろうから。
「これって、けっこう幸せなことだよね」
「あら、なかなか詩的ね。何でもいいけどお皿並べてよ」


20140705 執筆

 BACK 

- ナノ -