「寝てるの」
ぼくが掠れた声でそう呼びかけてみても、きみからは何の返事もない。それが少しばかり寂しくて、どくどくと唸る心臓の鼓動を抑えたくて、ぼくはそっとため息をついた。きみはどうやらぐっすり眠っているらしい。そうだ、こんなところで。こんなところで、寝息もたてずにぐっすりと。
「ねえ、聞いてる?」
何度呼びかけてもやはりきみからの返事はなくて、白い、ただ白い色が目に入ってくるだけだった。熱くなった左目を押さえながら、ぼくはちょっとしたいたずらを思い付く。きみの周りを花で埋め尽くしてみよう。きっと、起きたときにきみはびっくりして、それから笑うのだろう。いつもみたいに、花みたいな笑顔で。
「……いつまで、寝てるの?」
滲んだ声と水に埋もれた視界のすみでぽつり、そう呟いた。両の目から溢れる涙のわけをぼくは知っている。知っているのに。きみの周りに植えた色とりどりの小さな花たちが、まるでそう、金平糖のようで、きらきら光るそれらにぼくは、ぐつぐつとひどい吐き気を覚え、ついには雪の上に崩れ落ちた。
何が、白雪姫だ。もしもきみが白雪姫だったのだとしても、ぼくなんかじゃあ、きみの王子様にはなれないってこと、ぼくが一番分かっていたはずなのに。
20140707 執筆