novel | ナノ

自覚したら負け【倉天】

最初は嫌いだった。



入学式があったあの日、実は柄にも無く後輩が出来るのを楽しみにしていた。
どんな奴が来るのか、実力はどのくらいなのか、先輩と後輩で良い関係を築けるか、とか、とにかく色々と考え、楽しみにしていたのだ。(他の奴等には死んでも知られたくなかったから言ってねぇしそんな素振りも見せてねぇが。)
なのに、あの日来たのは新入生とは言え、フィフスセクターのシードと黒の騎士団とかいう奴等、そして茶髪天パの、フィフスセクターや、ましてや今の中学サッカーを全く知らねぇあいつ…松風天馬だった。

黒の騎士団との試合はボロボロ、みっともねぇ。そんな中監督は南沢さんと交代であいつを入れてきた。なんで入れたか全く分からなかった。
あいつはヘタクソで、少しドリブルが他と比べたら比較的に上手いだけで、素人同然。俺等が来る前にあいつは剣城と戦っていたんだから監督はこいつがいかにヘタなのか知っていたはずだ。入部テストすら受けてねぇ、しかも実力は素人同然、そんなあいつが入って来た事に対し、俺は疑問ももちろんあったが、それ以上にイラついた。
なげぇから省略するが、結果、神童はあの都市伝説だと思われていた化身を出した。

何がどうなろうが、多分、俺はこの時からあいつの事が気に食わなかったんだろう。



その次の日には入部テストがあった。もちろんあいつはいた。昨日のプレーも知っているが、こうして改めて見るとやっぱりこいつはドヘタクソだ。ボールを取りに行こうとするもかわされてすっ転び、取ってもすぐにカットされる。けれども、どんなに上手くいかなくても、諦めず、向かってきた。その姿が、何も知らず、純粋にサッカーを楽しんでいるその姿が、凄く、ムカついた。

そして発表された合格者。その中にはあいつとその親友とかいう西園がいた。二人して互いに互いを褒め、喜び合う。
何故だ。どうしてだ。どうしてあんなやつが、どうして…そんな事考えても、監督が決めた事。どう言おうが無理なんだろうな、と早々に俺は、疑問と収まらないイラつきの中小さく溜息を吐いた。



それから、俺は更にあいつが嫌いになっていったんだ。

サッカーを人間みてぇに言うところ、

何度ボールをぶつけられたりしても諦めず立ち上がって向かうところ、

反乱してるっつーのにそれでもなお走り続けているところ、

何より、あいつがいるから南沢さんがいなくなった。
それが一番ムカついた。

「雷門サッカー部を潰そうとしてるのはフィフスセクターでも剣城でもない。ほんとはお前の方じゃないのか!?」

あー言っても仕方ない。と、今でも少し思ってはいる。
あの時、一番あいつを嫌っていた。
あいつがいなければ、何度もそう思った。

それでもあいつは続けた。
走り続けた。

その姿がムカついていたはずなのに、
嫌っていたはずなのに、
乗ってもいいかなって思っちまったんだ。
ほんとのサッカー、取り戻したいって思ったんだ。



今ではあいつの事は気に入ってるし、俺のあいつへの対応も好意的になった。はず。
自分の性格上、上手く出来てるかは不安になったりしてる。
それでも、名前を呼べば笑顔で俺の方にちょこちょこついてくるんだ。これは、あいつにとって俺はいい先輩になれていると自惚れてもいいよな…と思ってる。

そう、ここまでだったんだ。
浜野が余計な事言わなければ、俺の感情はここまでで自覚しなくて済んだんだ。





「ちゅーかさ、倉間。お前天馬の事ぶっちゃけどう思ってんだよ?」

今日の昼休み、飯を食い終わって牛乳を飲んでいた俺に浜野は自分の弁当のおかずであるミートボールを持った箸で俺を指しながら聞くとぱくりと食った。
箸で人を指してはいけないと速水が注意した。

「は?なんだよいきなり?」

「いやー、だってさぁ。お前何かと天馬に構ってんじゃん。」

「んな事ねぇよ。」

「いや、あるだろ。」

「俺から見ても倉間くん、結構天馬くんを構ってま…ひっ、に、睨まないでくださいよ…!」

つい睨んでいたみたいだ。速水がいつもみてぇに怯えてる。
と、ここで昼休みを終えるチャイムが鳴った。各々自分達の席へ戻り午後の授業を受ける。その間、俺は真面目に話を聞かず二人が言っていた事を考えていた。
…俺が、あいつを何かと構ってる…?
そんな事ない、と先程は即答したが、良く良く自分の行動を思い返せば確かにと頷かずにはいられなかった。
見かければ名前は呼び、準備や片付けの時も何かとあいつに一番に声をかけていた。あいつが部活の挨拶した時は毎回必ず返事してるな…話しかけられたら先に誰かと話していてもあいつを優先していた気が…最近は休日の部活後、飲み物を買う時もあいつに声かけてねぇか…?帰りに時間があったりすれば途中まで一緒に帰ってたな…そういえば休憩の時あいつのドリンクを自分のよりも先に持ってその後自分のを取りあいつに渡して………、

-----…そこまで考えて俺は勢い良く頭を机に打ち付けた。
(決して自分から打ち付けさせたくてやったのでは無く動揺して頭を勢い良く下げたら打ち付けた。)

ガンッ、という割と大きい音が教室に響き皆驚いていた。が、その事は俺の頭の中には無かった。あるのは

『気っ持ち悪ぃくらいあいつの事構ってんじゃねぇか!俺!!!』

自分の行動に対する羞恥心と動揺。
ウソだろ。
ただの後輩にここまで構うか?答えはNOだ。確実に。ならなぜ?なぜ俺はあんなにもあいつを構っていた?なぜこんなにあいつが気になる?あれ、なんか一度考えれば考える程あいつの事ばっかりになってねぇか。つか待てほんと俺構い過ぎだろ。あー、でも構ってる時のあいつの顔いっつも笑顔だなー、可愛、………待て、何考えてる俺。あいつは紛れも無い男だぞ。何考えてんだよ。こんなんじゃ、まるでーーー…

「倉間くん!」

「はいっ!!」

頭上から来た声に反射的に顔を上げてみればそこにはにっこりと目が笑っていない笑顔を貼り付けた、数学の担当先生が………ぁ、そういえば今授業中だったわ。

「今さっき説明した方式で、問三、答えてくれるかな?」

「話を聞いてなかったので無理ですすみません。」

怒られたのは言うまでもない。

そしてその後の六限でもまともに話を聞けずまた怒られたのも言うまでもない。





「くーらま?大丈夫かー?」

「大丈夫に見えんなら眼科行け…。」

「………重症、ですね…。」

午後の授業全てボロボロだった俺は現在進行形で机と仲良し状態。HR終わった瞬間に駆け付けて話しかけたのは俺がこんなにも悩んでいるきっかけを作った奴等。ちくしょう。

「なになに?どったの?」

「…………………………。」

「…とりあえず、歩きながら話しませんか…部活、行きましょう…。」

ああそうだ、部活。あいついるんだ…今会ったら確実にヤバイ気しかしない。だが、休むわけにもいかねぇしな…。
フラフラしながら俺は仲良ししていた机から離れる。じゃあな、机。もしかしたら明日も宜しくしてくれや。
そのまま二人と一緒にサッカー塔へ向かう。

「ちゅーかさぁ、ほんとどーしたよ、倉間?なに?もしかして好きなやつの事でも考えてたとかー?」

浜野にとっては茶化すつもりだったのだろう。が、

「っ、」

ぼふっ、と音が出そうな程一気に赤くなったのが自分でもわかった。その反応に二人は更に驚く。くそぅ。

「えぇ!?マジ!?マジで倉間!?」

「えぇぇぇ!?」

「うるせぇ声がでけぇ!!」

大袈裟に驚きやがって!くそっ!!

「ゃー、でも、ふーん。」

「ニヤニヤしてんじゃねぇ浜野。」

「ちゅーかさ、誰?誰なん?誰の事が好きなんだよー?」

「言わねぇよアホ!!」

こいつに話したら確実に本人にバレる。
つか、うん、浜野じゃなくても普通に無理。同性が好きとか言えるかよ。

「浜野くん、分かってるのに聞くのは野暮ですよ。」

「ちゅーかー、だーって面白ぇじゃん!やーっと自覚したんだぞ?あーんなにわかりやすいのに自覚してなかったのに!ついに!自覚したんだ!聞かなくてどーすんよ!」

「確かにそうですがこれは本人達の事なんですし」

「おい待て。」

とんでもねぇ爆弾落とされた。はぁ?

「どーゆー事だ!?自覚!?」

「ぇ、そのまんまの意味ですよ?」

「いや、え、は、ぁ、え?え?」

「ちゅーか倉間動揺しすぎだろー!落ち着けー!」

キョトンとする速水とケラケラ笑っている浜野。いや落ち着け言われても無理だろ!ぇ、嘘だろ。は?まさか…

「…お前、ら………まさか」

「先輩方!こんにちは!」

真相を確かめるため聞こうとした瞬間後ろから聞こえた声。聞き慣れた、今は正直言えば聞きたくない、それでも聞きたいという矛盾が生じる声。
振り返ってみて………やっぱりな、と別な奴であってくれという願いは音を立てて崩れる。
案の定そこにいたのはある意味さっきまでの会話の中心人物でもある、後輩にして俺が自覚した想い人-----…松風天馬だ。

「よー天馬ー!」

「天馬くん、こんにちは。」

2人は天馬の姿を見ると直ぐに挨拶をする。
自覚する前までの俺であれば直ぐに返事をしただろう。ただ、今はもう自覚をしてしまい、上手く言葉が出てこない。

「倉間先輩?どうしました?」

そんな俺を不思議に思ったのか、気付けば俺の目の前に天馬の顔があった。思わず後ずさる。

「なっ、なん、でもねぇよ!オラ!練習すんぞ!!」

最初の言葉は裏返った。格好付かねぇ…。
やや乱暴にいうと天馬は小さく首を傾げてから「はい!」と元気良く返事をすれば直ぐに部室に入って行った。馬鹿で良かったと思う。残念だと思ってるとか知らねぇ。
と、感じる視線-----………

「倉間ー…もーっと素直になれよー。」

「そんなんでは進展しませんよ…。」

「その生暖けぇ目をやめろ!!そっ、………それに、進展って………別に、期待なんざ」
「「してるだろ(でしょぅ)。」」

ハモんなよ。即答すんなよ。

「そのとおりだよクッソがっ!!!!!」

部室棟で俺の叫びが響いた。





部活はまぁ、うん、散々だった…。
上の空になってボール顔面に当たるわ、すっ転ぶわ、天馬にパスしようとすりゃなんか意識しちまって力入れ過ぎたり変な方向に飛ばしちまうわ、休憩でドリンク持った時に天馬のを持っちまって慌てて自分の取って飲もうとすりゃドリンク握り過ぎてぶちまけるわ…散々だった。
(もちろんこっ酷く怒られたし、休憩のドリンクぶちまけ事件ではすげぇ心配された。)



「………はぁ…。」

ため息がつい零れる。
そりゃ零しても仕方ねぇと思う。だって………

(天馬と2人っきりだぞ!?色々とやばいっての!!!)

今部室にいんのは俺と天馬だけ。なんでも一年達は天馬以外用があるとかであいつ残して全員帰っていったし、三年の先輩方もそうらしい。神童や霧野、速水や浜野まで………ぁ、でも錦はなんか連れて行かれてたな。ってまぁんな事良いんだよ。うん。

「………あの、倉間先輩…。」

「あ?」

やっべ言い方キツイ。て思ってもおせぇんだよ。

「あ、その………やっぱり、体調、悪かったりしますか…?」

「は?どこも悪くねぇよ。」

強いて言えばお前の事で頭いっぱいだ、とか言えるか。んな恥ずかしい事。

「…でも、今も………なんか、悩んでるみたいですし…。」

お前の事だよ。

「ヘーキだっての。んな事気にすんな。」

「気にしますよ!だっておれ、倉間先輩の事好きですもん!!」

…………………………。

……………。

………。




…………………………は?

「…………………………は?おま、何言って、…本気かよ…?」

「本気ですよ!!」

ウソだろ。
だって、こんな、都合の良い事………、

「仲間じゃないですか!!」

…………………………。

……………。

………。

「俺の期待を返しやがれ!!!」

「へぁ!?」

「はっ!!?」

つい声に出た。いや仕方ない。だって事実だし。ってそうじゃねぇやばい。

「あーーーもーーー!!もう帰んぞ!!鍵!!閉めとけよ!!!じゃあな!!」

「え!?ぁ、ちょ、待、倉間先輩?!」

天馬を置いて俺は帰った。仕方ねぇだろ。

(こんな顔見せられるかっての!!!!!)











「倉間ー…進展は…?」

「あると思うんなら眼科行けバカ浜野。」

次の日、俺は昨日の約束通り机と仲良くなってる。くそぅ。



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