甘く溶けてく(シルレノ)

「よう、ちびっ子」

オレがそう呼び掛けると、そいつはジロリとオレを睨みつけ、そっぽを向いた。

暗めの赤紫色の長い髪がさらりと揺れた。

「なあ、今ヒマ?どっか遊びに行かね?」

「悪いけど暇ではないの、もしも暇だったとしても貴方と遊びたくなんかないわ」

「あんたさ、一言余計なんだよいつも」

オレの目の前のちびっ子ーーレノールは、どうにも変わったやつだ。

だってさ、オレに声を掛けられて喜ばない女なんていないのに、こいつはむしろオレに敵意剥き出しなんだもん。

見かける度に話し掛けてるから、最近は益々ウザがられてる。けど、こいつの反応面白いんだよねーー他の女は皆一緒に見えるのに、こいつだけは全然違ってた。

「私は貴方が分からないの」

「はっ?」

「貴方の周りには女の子が沢山居るでしょ?なのに何で私に構うの?」

「何でって、あんたに興味があるからだよ。じゃなきゃ話し掛けない」

「からかうのが面白いってことね」

「あはは!まあそれもあるかもねえーーでも、あんた可愛いし、オレは気に入ってるんだけど」

「…変なひと」

「それお互い様じゃね」

お、何かふつーに会話してくれてんじゃん。
これなら誘えるかも。

「遊びに行こうぜ」

「だから嫌よ、何処に行くって言うの」

「あんた甘いもん好き?最近出来た店あんだけど美味いって評判なんだよ。そことかどう?オレもチェックしたかったし」

「他の女の子とのデート用に、でしょ」

「まあねー、いいじゃん行こうよ」

「嫌!絶対に行かない!」

「…レノール?」

らしくもなくレノールが叫んだ。

「それなら私と行く必要なんてない。そのへんの女の子を誘って行けばいいじゃないの」

「ちょ…レノール、あんなの冗談だし」

「……」

「ごめん。怒らせたなら謝るよ。」

「……怒って、なんか」

「嘘、マジギレだったじゃん。レノール、それって嫉妬って思っていい?」

「…ちが、」

「顔赤いけど?」

「……っ、」

あーどうしよ。これ、やばいな。

「オレとデートしてよ、レノール」

屈んで、レノールを見つめてみるーー
真っ赤になった顔が、物凄く可愛かった。




「…おいし…」

フルーツたっぷりにチョコレートソースがけのパンケーキを一口食べたレノールがぼそっと呟いた。
一人じゃ多いって言うもんだから、二人で一人分を食ってる。

「良かった。機嫌直った?」

「……」

レノールは無言でケーキをパクついてる。

「チョコレート付いてるよ、あんた」

一緒に付いてきた紙ナプキンでレノールの口を拭いてやった。

「…ないで」

「は?何か言った?」

「誘わないで、他の女の子」

「え?」

「…私以外の子、誘っちゃ駄目」

「それって、」

「……そしたら、これからもデートしてあげる…」

驚いて、持ってたフォークを床に落としそうになった。

「分かった、じゃああんただけだよ」

レノールが俯く。
なに、耳まで赤いじゃん。思わず笑ってしまった。

ちびっ子、それ可愛すぎない?反則だよ。



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