小説 | ナノ
ルドルフの鼻先

 12月25日、午前1時。
 乙撫はマーサハウスの窓辺で、今か今かとクロウを待ちわびていた。
 今年のクリスマスは、シティとサテライトが統合されてから初めて迎える特別なもの。クロウと一緒に奮発して準備した子供たちへのプレゼントが、ついに日の出を見る時がやって来たのだ。密かに準備していた、クロウへのクリスマスプレゼントも。

 クロウが時間を知る方法といえば、デュエルディスクやDホイールなどに内蔵されている時間表示を見ることくらい。つまりちゃんとした時計というものを持ってはいなかった。そこに目をつけた乙撫は、ゾラに頼んで特注の時計を設えてもらったのである。
 黒のクールなメタルボディに、曜日・日付表示を搭載した文字盤はオレンジのビビットカラー。時刻を示すのは数字ではなくバータイプのインデックス。特殊顔料により暗闇でもバー及び長針短針が認識でき、更にDホイールのハンドルを握ったままでも見やすいようにと、文字盤は斜め向きになっている。ベルトは手首によくなじむようにボディと同様の黒革で仕立ててもらった。
 クロウのことを想って、クロウのためにデザインした世界で一つの腕時計。渡したら、クロウはどんな顔をするだろうか。その瞬間が本当に待ち遠しくて仕方ない。

 子供たちへのプレゼントの保管は、子供たちにバレてしまわないようにとポッポタイムでしてもらっていた。仕事を終えたクロウから、今からプレゼントを持って向かうとメールを受信したのが数十分前。やがて到着するだろうと落ち着きなく外を眺めていると、白い欠片が視界を掠めていった。

「……!雪だ……!」

 次から次へと降り注いでくる、柔らかな白い結晶群。その光景に乙撫が爛々と目を輝かせる。

「わぁあ…ホワイトクリスマスだぁ……!」

 思わず窓を開け、身を乗り出して夜空を見上げる。手を伸ばせば、掌にはらりと舞い落ちた天花は一瞬の冷たさを残して溶けてしまった。

 積もるかな。積もったらいいなぁ。

 朝目覚めた子供たちの喜びようを思うと、そう願わずにはいられない。いや、結局は乙撫自身が楽しみなのだが。
 そんな乙撫の鼓膜に届いた、微かな振動。それは乙撫の耳にあまりにも馴染んだエンジン音だった。
 その正体を目視する前から乙撫は玄関へと走り出す。
 確認するまでもない。

「クロウ!メリークリスマス!!」

 待ちきれずに玄関から飛び出せば、乙撫の読み通りクロウがBBを玄関ポーチ脇に停めるところだった。ためらいなく飛び付いてきた乙撫を、ヘルメットを外す間もなくクロウは慌てて受け止める。

「遅かったね!」
「ああ、配達の量は多いわ道は混んでたしで中々片付かなくてよ……悪ぃ」
「ううん、全然いいよ。お仕事お疲れさま!」

 乙撫がぎゅっと抱きついて嬉しそうに顔を上げる。ヘルメットのシールド下で、クロウも笑ったのがうっすらと見えた。

「寒かったでしょ、中に入ろう。あったかいココア作ったげる!ケーキもね、クロウの分取っといたんだよ」
「サンキュー。ちょっと待ってろ、荷物取るからよ」
「うん!」

 クロウがBBから子供たちへのプレゼントを入れたバッグを取り出しているうちに、乙撫は玄関へと上がる。ほどなくして入ってきたクロウはBBに置いてきたのだろう、ヘルメットを外していた。
 今日初めて直に見たその顔に、乙撫は目をぱちくりとさせ、破顔する。

「クロウ、鼻真っ赤」
「あ?あぁ……寒かったからな。雪も降り出したし……」

 どことなく気恥ずかしくて鼻を擦るクロウの頬を、段差の上から乙撫の手が包む。クスクスと楽しそうに忍び笑いを漏らしながら、乙撫はクロウの鼻先にひとつ、キスを贈った。

「赤鼻のトナカイみたい」

 悪戯っぽく告げられた言葉に、冷えきっていたはずの顔が熱を帯びる。鼻と言わず耳まで赤く染まったクロウを見て、乙撫はいひ、と一層楽しそうに笑った。

 シティとサテライトがひとつになったことを祝福するかのような、まっさらな和毛が降りしきる或る聖夜の出来事だった。


121215
クリスマス拍手お礼ログ。
毎年シティとサテライト統合後初のクリスマス話書いてる気がする…

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