小説 | ナノ
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「もしもし、クロウ?」
「乙撫!!乙撫、ちょっと聞いてくれよ!!」
電話先のクロウは、これ以上ないくらいに興奮している様子だった。何かいいことでもあったのかな、なんて思いながら乙撫は先を促す。
「うん、どしたの?」
「ついに当たったんだよ極光のアウロラが!ほら、前オレが欲しいって言ってたカード!!覚えてるか!?」
「 え 」
「一パックぐらい買えそうな余裕が出来たもんだから、買いに行ったんだよ!そしたら入ってたんだよぉおぉおお!!」
店主の言を借りるなら、乙撫は相当なラッキーを手繰り寄せた一方、クロウは正真正銘デュエルの神に愛されたのだろう。言うなれば一流のデュエリストというやつである。
「そ、そっかぁー…」
「そうなんだよ!!お前に一番に報告したくってよ!」
愕然とする乙撫の胸中など露知らず、クロウは声を弾ませている。電話の向こうではきっと輝かんばかりの、満面の笑顔を浮かべているに違いない。
なんでここでカード買っちゃうの、しかもなんでアウロラ引き当てちゃうの。
込み上げそうになる自分でもよくわからない憤りを、何とか呑み込んでやりすごした。
「……クロウ、よかったじゃん!ずっと欲しいって言ってたもんね!すごいよ!」
「へへっ!そうだろそうだろ、すげぇだろー!」
「うん。きっといつも頑張ってるクロウへの、神様からのクリスマスプレゼントだよ!」
神様じゃなくて、あたしがプレゼントしたかったんだけど。そんな言葉を喉の奥に押し込んで、少しのやり取りの後通話終了ボタンを押した。うんともすんとも言わなくなった携帯を、呆然と見下ろしながら立ち尽くす。
乙撫は今、これ以上ないくらいに打ちのめされていた。さっきまでの晴れ晴れとしていた気持ちから一転、いっそのこと両目からいつ雨が降り出してもおかしくなかった。
クロウにとってはいい事だし、自分の持っているアウロラのカードもあげればデッキの足しになるだろう。
わかっているのに、わかっていても、やりきれないやら悲しいやら。今までの努力が全て水の泡になった気分だ。
アウロラのカードを引き当てるため、有り金全部を詰め込んだような現状。今から新しいプレゼントを用意するには、どう考えても財布の中身が苦しかった。残されたものといえば、デュエルをしないのにデッキをゆうにいくつか組めるほどの、大量のカードぐらいである。
途方にくれて俯いていた乙撫は、ふとある事を思い出す。
アウロラのカードを包装してもらうついでに買った、別パック。せめてこの中に、クロウの役に立つカードが入っていれば――魔法や罠でもかまわないから。僅かな期待と共に開封した乙撫に
「……これ、BFだ……」
あたたかな西風が、吹き抜けた。
「こんなカード、クロウ持ってたっけ……」
パックに入っていた中の一枚をまじまじと見ながら、乙撫が呟く。カードの名は精鋭のゼピュロス。見覚えも聞き覚えもないBFシリーズのモンスターだった。
実はこのカードが、極光のアウロラにも勝るシークレットレアカードだと乙撫が知らされるまで――
「うわぁああぁあうちの店からゼピュロスまで出たあぁあああ!!?」
あと、十数分。
231222
べべべ別にリアルで最後までゼピュロス出なかったとかそんなことないですしおすし
*前