小説 | ナノ
君は知らない

君に悪意はない。他意もない。そこにあるのは混じりけのない、純粋な好意だけ。

無邪気だからこそ君は、残酷だった。

「ピーアースンっ!」
「うわっ!乙撫……いきなり驚かさないでくれないか」
「えへー」

地べたに座ってパーツの接続作業をしていたら、突然背後からの襲撃に遭った。犯人は面倒を見ている子供たちの誰でもない、もう16にはなろうかという乙撫だ。作業に支障がでない絶妙のタイミングで仕掛けてきた辺りは、流石同じメカニックというところか。
乙撫は私の背中からぎゅっと腕を回して抱きつくと、いかにもご満悦な笑みを浮かべた。無理にでも引き剥がして、作業をてこでも続ける必要はない。それに――好きな子に抱きつかれて、嬉しくない男などいないだろう。私は工具を置き、一息つくことにした。

「はー……ピアスンの背中って、落ち着くー……」

乙撫の言葉に、私はなにくわぬ顔でそうか、と返す。自然と口元は自嘲に歪んだ。
乙撫。君は私の卑しさを知らないから、そんなことが平然と言えるのだ。ああ、何度――何度。夢想の中で君を私の好きにしただろうか。無垢な肌を暴いて、この仄暗い情欲をぶつけただろうか。
ほら、私は最低な男なんだよ。……まぁ、知られるわけにはいかないんだが。

「? ピアスン?」
「……私の背中が落ち着くって、クロウの背中はどうなんだ?」
「ぅえっ!?く、クロウ!?」

黙りこんだ私を不審に思ったのだろう。そんな乙撫をごまかすように話題をふれば、あからさまにうろたえた反応を返された。予想外の反応を意外に思っていると、恥ずかしいのかごにょごにょとくぐもった声が聞こえてくる。

「クロウの背中は落ち着くっていうか……どきどきしちゃうもん」

そう呟くと、乙撫は私の背中に頭を預けてきた。わずかにかかる重み。



ああ――やっぱり君は、残酷だ。



「あーーっ!!乙撫、何ピアスンの邪魔してんだよ!」
「クロウ!邪魔してないよー!あたしはただ、ピアスンに休憩を取ってもらおうとだな」
「なら抱きつく必要はねぇだろーが!ピアスンも困ってるだろ…!」

私達の現状を見咎めたクロウがすかさず乱入してきて、二人の賑やかなやり取りが始まる。なんだかんだ言ってはいるが、クロウがやきもちを妬いているのは明白だ。苦々しい気持ちを腹の底まで押し込んで、私は胴へ回っている乙撫の腕をほどいた。

「ほら乙撫、もう離れなさい」
「え、……うん。ピアスン本当に迷惑だった?」
「いや、私はかまわないよ。でも――クロウがやきもちを妬いてしまうからな」
「ちょっ!ピアスン余計なこと言うなって!!」
「ははは」

耳まで真っ赤にして噛みついてくるクロウを軽くかわして、笑い声を上げて見せる。いい人のふりをして、善良な大人の仮面を貼り付けて。

なんてことはない風を、装いながら。


111205
ピアスンめんご(色んな意味で)

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