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秋風君恋し

続いた猛暑も収まり、ようやく秋めいてきた某日ネオドミノシティの街路。日は沈み、乙撫の髪と同じ色の暗幕に覆われた空を仰ぎ見れば、小さな光がいくつもきらめいていた。

「もうすっかり秋だねぇ」
「そうだな。日が落ちるのもずいぶん早くなったしなー」
「ねー。こないだまで全然明るかったのに」

季節の移り変わりをしみじみと感じながらクロウと乙撫、二人並んでタイル敷きの舗道を歩く。通勤ラッシュでごった返している中央街から離れた旧サテライト地区の通りなので、人通りはあまりない。その分一人で返すのは心配だということで、ガレージまで遊びに来た乙撫をマーサハウスまで送っている道中だった。

「あたしねー、この時期の街灯の明かりが好き」
「へぇ。で、なんでまたこの時期なんだ?」
「さぁ」
「おい」
「でも街灯の明かりがじわーってしみ出す気がして、なんか好きなんだよね」
「ふーん……」
「街灯の色なんて年中変わんないのにねぇ」

等間隔で設置され、道を照らす街灯を見上げた乙撫がどこか楽しそうに呟く。言われてみれば段々と、この涼気の中佇む街灯の暖色が中々味なものに思えてくるから不思議である。
クロウがぼんやりと街灯を眺めながら歩を進めていると、隣からくしゃみが聞こえてきたはないか。顔を向ければ鼻をすする乙撫の姿が目に入る。

「………」

肌を撫でる夜気は秋涼としていて、クロウにとっては心地よい。そう、クロウにとっては。体感温度の違う乙撫にしてみれば、この気温は肌寒いに違いない。だが乙撫ときたら、寒がりのくせに服装は何時も通りで、肩と腕は剥き出し状態。きっと夜風に体温を奪われ、ひんやりとしていることだろう。まだ日中は暖かいため、油断したのかもしれない。
クロウは呆れ顔で、小脇に抱えていた黄色のジャケットを差し出した。

「ったく……ほら」
「 え 」
「寒いんだろ。着ろよ」
「でもクロウが着るやつがなくなっちゃうじゃん。あたしなら全然大丈夫だよ」
「鼻声で言われても説得力ないんだっつーの。オレはこれでちょうどいいくらいなんだよ。ほら」

ずい、と強引に押し付けられたジャケットを、申し訳なさそうに乙撫が羽織る。微かに残ったクロウの体温が、正直冷えた身体にはありがたかった。

「ありがと、クロウ。あ、寒くなったらいつでも言ってね!すぐ返すから」
「へいへい」

適当にあしらうような返事をするクロウだが、内心はジャケットを持ってきといて正解だったぜ、なんてことを考えていたりして。
クロウにとってこの程度の気温なら、何の問題もなく過ごせる。いっそ快適だと感じるくらいである。それなのにクロウは要りもしないジャケットを持って来た。

つまり、そういうことである。

「クロウクロウ」
「なんだよ」
「あったかいです!」
「そりゃよかったぜ」
「へへー。クロウの匂いがするー」

何が嬉しいのか襟を口元に手繰りよせてにこにこしている乙撫を、クロウが横目で覗う。そしてしばし思案すると、わざとらしく咳払いした。

「あー、ちょっと冷えてきやがったぜ」
「あ、ジャケット返すよ!」
「いや、それはいいんだけどよ。…………ん」

促すようにクロウが肘をつき出し、手を腰に当てる。一瞬きょとんとした乙撫だったが、クロウの言わんとしていることを察すると破顔して、剥き出しの腕に抱きついた。

「あったかい?」
「お、おう」

本当は最初から肌寒くもなんともないというか、むしろほてってきたぐらいだけども。それを伝える気にはこれっぽっちもならなくて。

並んでいた影は寄り添い、少し歩きづらそうながらも楽しそうに夜道を進んで行ったのだった。

111003

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