ストーンキーパー | ナノ


「オリバー、本当に有難う!一緒の宝物にするわ!」

「どういたしまして」


ロックハートにサインをしてもらった本を一番上に、今年必要になった5つの教科書をしっかりと抱きしめる。

あのロックハートが、私の顔を見てニッコリと笑った。「ホグワーツの生徒だね?」そう言って、彼は私の名前を聞いた。「覚えておこう」と。
オリバーが隣で呆れたようにため息をついていたから、きっとその時の私はトマトのように真っ赤な顔をしていたのだろう。握手をした手が、未だに熱い。


「僕がプロのクィディッチ選手になったときに、僕のサインがナマエにとってソイツと同じくらい価値のあるものになるか疑問だよ」


オリバーが眉を下げながらそう言うが、憧れの人と好きな人は違うのだ。

何を勘違いしたのか、ロックハートはオリバーを見て「最近は男性のファンも増えてきたみたいだね?彼女をダシに使わずとも、恥ずかしがらずにサインをねだってもいいんだよ!」と笑顔でオリバーの教科書をひったくり、そこにサインをした。「恥ずかしがり屋の少年へ」というメッセージを添えて。
そこでオリバーは私の手首を掴み、ロックハートから逃げるように人混みの中へ歩き出した。その時に掴まれた左手首は、ロックハートと握手した右手よりもずっと熱い。


「勿論そうなるわ!それ以上よ!」


その手首を眺めながらそう言えば、オリバーは手で口元を隠しながら「有難う」と呟いた。


「それにしても、最初に小さい買い物からするべきだったな。これじゃ本当にデッカい買い物だよ。はっきり言うなら邪魔だな」

「ええ、確かに……少し重いわね」


ジェイプス悪戯専門店の前を通りすぎ、突然羽ペンが全部使い物にならないことを思い出したオリバーが百貨店に行きたいと言い出すまで、私達はアイスクリームパーラーで一休みをした。オリバーはチョコレート、私はキャラメル。

お店の前に置かれている机に向き合って座り、二人でアイスを食べている様子は果たして周りからどう見えているのだろうか。

───恋人に見えていたら嬉しいのだけれど。

そんな事を考えながらアイスを食べ終わり、オリバーの羽ペンを買いに百貨店へ行き、ついでに私も羊皮紙を買い足した。


「あーあ。お楽しみを最後まで取っといた僕がバカだった」


両手いっぱいに荷物を抱えたオリバーが、その中でも一番大きな荷物を恨みがましい目で睨み付ける。


「これじゃ、ゆっくり見ることもできないよ」


それにどっちつかずの返事をして、腕の中で不安定に揺れる荷物達を支え直す。ため息をついて、それでもオリバーは足を止めることはしなかった。

オリバーの目的は、もちろん高級箒用具店。
五年生のときからクィディッチのキャプテンとして活躍している彼は、ダイアゴン横丁へ訪れるたびにこうやって箒の専門店を覗きこんでいるらしい。


「見ろよ、ナマエ!新しい箒だぞ、ニンバス2001だ………来月販売開始かあ………お金さえあったらすぐにでも予約してたのに………」


どうやら、今年もニンバス社から新しい飛行用箒が発売されるらしい。オリバーはニンバス2001の見本品を食い入るように見つめ、永久粘着呪文がかけられてしまったかのように、そのまま動かなくなってしまった。
「ちょっと、オリバー」ためしに名前を読んでみても、「ああ………」とか「そうだな………」と上の空な返事を返してきたら、もうこちらが諦めるしかない。クィディッチのこととなると、なにしろオリバーはマクゴナガル先生でさえ手に負えなくなるくらい暴走してしまうのだから。




*




「すまない、ナマエ………ついニンバス2001に見とれて……ナマエをほったらかしにするつもりは無かったんだけど………」

「もういいわよ」


一時間後。ようやくニンバスから目を離したオリバーは、高級箒用具店の外壁に寄りかかって不貞腐れている私を見つけ、慌てて頭を下げてきた。
オリバーがクィディッチを愛しているのはよく知っている。だけど、自分から誘っておいて一時間も待たせるなんて。言いたいことは山ほどあったけれど、どうやら本気で反省しているらしい表情を見て、私はオリバーの謝罪を受け入れることにした。
とはいえ、磨きあげられてピカピカに光る新しい箒の柄も、そこに書かれている金文字も、暫く好きになれそうにないけれど。


「……ナマエ?まだ怒ってるのか?」

「もう怒ってないってば。…………でも、そうね。もしオリバーが気になるなら、バタービールで手を打とうかしら?」


ウインクをしながら私がそう言えば、一瞬ぽかんと口を開けた後オリバーが嬉しそうに笑う。


「ああ。それじゃ、バタービールにお菓子も一つ付けるから、僕と一緒にホグズミードに行ってくれるかい?」


クィディッチの練習が無い日にだけど。

最後に付け足された一言を聞いて、頷くのを躊躇った私は悪くないと思うの。








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