色黒テレビ | ナノ
「パーティー、行こうぜ一緒に」
ふと、あの日あいつが言った台詞を思い出した。
どうしてそんな事になったのかは残念ながら憶えていない。ただ、珍しくシリウスがネームを引き合いに出さず、私の目だけを見てそう言ったということは憶えてる。
「…オッケーしなければよかった」
そう、あの時から私はおかしくなったのだ。
**
「ナマエ?どうしたの?」
「……別に、なんでも」
消失呪文の練習をしていたネームが杖を止めて視線をあげる。机の上にはネズミの頭部だけが残っていて、どうしても眉をひそめずにはいられなかった。何これ気持ち悪。カバンの中から杖を取り出して呪文を唱えればそれも消える。
私もネームも変身術は得意なほうじゃない。だけど二人がそろえば得意になる。魔法の腕は同じなのにどうしてこうも違うんだか。
「そういえば、今年も近づいてきたわね。クリスマスパーティー!」
「…ああ…」
なるほど。よくよく注意して耳を傾けてみれば、周りにいた生徒達はみんなその話で大盛り上がり。だからあんなこと、思い出したのか。はあとため息をつけば、周りの女の子と同じように顔を輝かせたネームがにっこりと笑って言った。
「ナマエは今年もシリウスと行くんでしょう?」
「は!?何であり得ない!」
机をバンッと叩いて立ち上がれば女の子達が一斉に私を見る。それを気にせずネームにもう一度あり得ないから!と言ったら、周りの視線に堪えきれなくなったネームが「お願いだから座ってちょうだい」と若干の涙目でそう言った。それに従って周りを睨みつつしぶしぶ座る。(これくらいで何で涙目になるの?いつも見られてるんだからいいでしょうが!なんて思ったけど!)
私達の会話を盗み聞きしていた上級生2人が、負けじとギロリとにらみ返した。彼女達を私は知っている。2人とも大人しい印象だが、どちらもシリウスに熱烈な好意を持っている2人だ。私がシリウスと口喧嘩をするとよく後ろから睨み付けてくる2人。
「ったく…なんなの皆!」
「だって…」
「あのね、ネーム。今年もって言ったけど、私は一昨年あいつと“間違いで”一緒に行っただけであってもう二度とあいつとはいかないの分かる?」
「いいえ、分からないわ。だってあの時の貴方達はとてもお似合いだったもの」
「だからそれも間違いだって!その証拠に去年は行かなかったし」
確か去年シリウスは下級生の可愛い女の子と一緒に行ったはずだ。まるでネームのような雰囲気の女の子と。
「つまり私には入る隙間なんて1ミリもないの!」
「何の話?ナマエ」
「べっつに!」
もう一度、今度はネズミの変わりに羽根ペンを使って消失呪文を唱える。消す対象が簡単なものだったからか、あっさりと消えた。それを見ながら、ネームが「でも」と口を開く。右手を上げてそれを制したらちょうど同じタイミングで談話室に入ってきた仕掛人の奴ら。周りの女の子達が小さく黄色い歓声をあげる中、私を見つけてニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたアイツを睨み付けた。
「へーえ?変身術でもネームに教えてもらってたのか?」
「…」
「でもなあ、お前のネズミの脳ミソみたいな頭脳じゃネームは教えるのが大変なんじゃないか?嫌ならはっきり嫌って言っていい…」
「シリウス!」
ジェームズがシリウスの肩を強く叩いた。ムカツクほど整った顔をしかめてシリウスが小さく唸った。「うるせえな」と一言添えて。
「ねえシリウス、それはいくらなんでも───」
「ネーム、もういい」
「え…ちょ、ちょっとナマエ?どこいくの?」
「部屋」
机の上に乱雑に置かれた勉強道具をカバンの中に放り込んだ。シリウスに何か言い掛けたネームの呼び掛けを無視して階段をかけあがる。自分がスカートを穿いているのだということも忘れて。
**
大きな音を立てて扉を閉める。ルームメート達が飛び上がったのを視界の端に収めてベットのカーテンを引いた。向こう側で何か私のことを話していたみたいだけど、すぐに飽きて彼女達はクリスマスパーティーの話に夢中になったようだ。
(うっざ…)
話すなよそんなこと。そんなこと言ったって彼女達は私の気持ちなんて知るはずもなくて、何を話すかなんて彼女達の勝手なんだけど。だけどやっぱりその話をされると思い出す。
『…そういう格好も似合うんじゃないか?』
なんて、あの時の言葉。
あの日の色は赤いまま
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