色黒テレビ | ナノ

盲点だった。

「…マジかよ」

アイツに言われて初めて気付いた。自分がアイツと話すときに、必ずネームの名前を出すクセ。

「あー…やっちまった」

自分は内気な方では全くないし、良くも悪くも色々なことに首を突っ込む。だから万人受けする性格ではけしてないが、会話を途切れさせない自信はあった。だけど、ある一人の前でだけは例外。

「馬鹿だなあ、親友」

妙に大人びた表情を見せながら廊下の角から現れたのはジェームズ。手にしていたのは他の人から見ればただの羊皮紙で、「悪戯完了」と呟きながら俺の方へ歩いてきた。

「…見てたのか」

「やだな、見てたわけじゃないよ。聞いていたんだ」

どっちにしろ悪趣味だ。大人びているかと思えば年相応のこともするし、それ以下のこともする。親友であるジェームズは、今だに謎に満ちた男だと思う。それを言えばジェームズは、「君には言われたくないよ」と楽しそうに笑った。

「ナマエ、泣いてたよ」

ネームの名前を出すとき、あいつはいつも悔しそうな顔をする。それが見たくて、無意識であいつとネームを比べるようになったのかもしれない。プライドが高くて負けず嫌いなあいつは、その顔の後は絶対に俺に突っ掛かってくるから。

「…知ってる」

怒らせたことは多々あっても、泣かせたことは一度もない。と思っていた。はあ、と短いため息をつく。思い返せば、今までにあいつとネームを比べたことは沢山あった。だから、もしかしたら俺の知らないところで泣いてたのかもしれない。
真面目な顔で俺を見ていたジェームズが、「それでいいの?」と言った。よくねえよ、全然。

「…別に、ネームみたいになってほしいわけじゃない」

「僕に言われても困るな」

「うるせえな!俺が本人に言えないってこと知ってるだろ!!」

「僕に逆ギレされても困るな!」

あははははは、とジェームズが笑った。どうやらこいつは、俺が悩む姿を見て楽しんでいるらしい。
赤くなった顔をどうすることも出来なくて、がしがしと頭を掻いた。

「それにしても、君いつからネームに乗り換えたんだい?親友である僕に教えてくれないなんて酷いじゃないか!」

「…頼むから話をややこしくするのは止めてくれ」

ネームのことは、大切な友達だと思っている。あいつと同じ顔ではあるが、それ以上の感情を抱いたことはない。

「あー…うまくいかねぇな本当」

もっとあいつと普通に話したいと思ってはいる。だけど、いざあいつを目の前にするとその“普通”が出来なくなる。他の女の友達みたいに他愛ないことを話したり、普通の挨拶をしたり出来なくなるのだ。口をついて出るのは、ほぼ毎回それとは真逆のこと。

「君が僕みたいに素直になればノープロブレムなんだけどね!」

「それ以上に嫌がられてるだろ、お前」

自分がうまくいっていないことを進められたって、それを実行する気には到底なれない。君はいつからそんな酷い奴になったんだい!と叫ぶ親友を横目で見て、はあとため息をついた。
今更素直になったって、きっとあいつは気持ち悪がるだけだ。でもあいつと仲直りするためには、このままではいけないということも分かっている。分かってはいるけど。

「シリウス」

ジェームズが俺を呼ぶ。仲直りするのに一番君がしなくちゃいけないことを特別に教えてあげるよ、とニッコリと笑いながら、ジェームズは俺の肩を叩いた。

「名前、呼んであげなよ。きちんとね」

ああもう本当、俺はいつも余計なことしか言わない。


女の子らしく

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