碧霄の絵画 | ナノ

その日は、手紙が届いてからすぐにやってきた。窓を叩く風に起こされた私は、珍しく頭の重さもだるさもなく、かわりに寂しさでいっぱいだった。

「本当に、忘れ物は無いんだね?」

「ええ、無いわ」

「本当に?杖は?」

「私の右手を見て頂戴」

私が起きてからずっと心配してばかりのリーマスに、あきれてため息つく。心配してくれるのは嬉しいけれど、そこまで私は信用されていないのかしら?

今日から約一年、リーマスと離れて生活しなければならない。寮生活はきっと楽しいのだろうが、やはり今までずっと隣にいた、それも好きな人がいないとその楽しさも半減するというものだ。

「制服は入れたかい?」

「もちろんよ」

「教科書はちゃんと持ってきただろうね?」

「…当たり前だってば。私は一体何をしに行くのよ」

「月に一度は必ず」

「“リーマスに手紙を書く”でしょう?もう何回も聞いたわよ。私、自分の耳がタコになったら困るわ」

そう言って肩をすくめれば、リーマスが「ごめん」と笑った。

「私がホグワーツに行く日に、両親が何故かいつも以上に過保護になっていた気持ちがよく分かったよ」

「私はその時のリーマスの気持ちがよく分かったわ」

はあ、とため息をつけば、リーマスがおかしそうに笑った。きっとあの日のリーマスも、ホグワーツへ出発する息子を異常に心配する両親にため息をついたに違いない。親の気持ちは、自分が親にならないと分からないものだ。

遠くのほうでは、リーマス以上に自分の子供を心配する眼鏡の父親がいて、呆れてため息を盛大についた女の人とうんざり顔の息子が目を合わせていた。

タイミングよく、プルルルとホームに出発を知らせるベルが響く。あと少しで出発だ。

「…そろそろハリーが可哀想だからもう行くわ」

「そうしたほうが良さそうだ」

ホームで家族との別れを惜しんでいた生徒達がチラホラと汽車に乗り出す。時計を見れば出発まであと1分程度。

「ハリー、急がないと乗り遅れちゃうわ!」

「本当かい?有難うナマエ!」

助かったよ!とホッと息をついたその台詞に、ジェームズの横に移動したリーマスが「あ」と口を開く。

「ハリー助かったってどういう意味だい!ハリーがホグワーツで困らないようにお父さんが色々な秘密を教えていたのに!」

「貴方が教えていたのは殆ど悪戯に関する秘密でしょう!いい加減にしなさい!」

「そんな!学生時代に悪戯をしないで一体何を…ああ!ハリー、学校で好きな子が出来たら押して押して押しまくるのがゴールインの秘訣だよ!でもたまには引いて!」

「ジェームズ!貴方、大声で何を言っているの!?」

「ハリー、ナマエ、節度を持って楽しんで来なさい」

私だけではなく、周りにいる人達からもクスクスと笑われて、ハリーは少しだけ顔を赤くする。そんな息子のことはお構い無しに、リリーやリーマスの制止も気にしていないジェームズは大声で自分の息子に向けて叫び続けた。

「ハリー!フィルチの野郎をギャフンと言わせてやれ!父さん達の仇をとるんだ!」

「あれは自業自得でしょう、ジェームズ!」

「だってリリー!」

「二人とも、ジェームズみたいにフィルチさんに目を付けられるようなことはしないようにね」

「「はーい」」

ガタッと扉がしまり、ゆっくりと汽車が動き出す。そばにいた女の子が、手を振りながら涙を零していた。

それを一瞥して、「リーマスの助言だけ覚えておこう」と呟けば、ハリーも同じことを考えていたみたいで、二人で目を合わせてニヤリと笑う。動き出す汽車から顔を出して、保護者組に手を振る。心配と喜びとが交じり合った表情で、三人が私達に手を振りかえした。

「「行ってきます!!」」

出発の時間に間に合わなかったシリウスとピーターが走ってくるのを見て吹き出しながら、三人がいってらっしゃいと笑った。


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