碧霄の絵画 | ナノ
「ねぇ、ナマエ。君は梟を買わないの?」

オリバンダーの店で杖を買い、皆がパブでお酒を飲んでいる間、暇になった私たちはリーマスの許可を貰ってそこら辺をブラブラと歩いた。

辺りはもう暗くなっていて、昼間とは違う空気に何だかゾワッとする。何だか悪い事が起こりそうな、そんな空気。

ハリーも寒いのか、少しだけブルッと体を震わせた。

「欲しいのは山々だけど…」

「けど?」

「…あまり、リーマスに無理をさせるわけにはいかないもの」

人狼、というだけで仕事に付きづらい立場にあるリーマスに、あまり貯金が無いということは子供の私でも理解しているつもりだ。今日買った教科書類も、ジェームズから受け取ったお金で買ったというのも、さっきリーマスがジェームズにお礼を言っていたので理解した。

それなのに、梟なんて高い買い物を強請れるわけがないじゃない。ハリーがさっき買ってもらった白い梟が羨ましくないと言ったら嘘になるが。

「なんていうか、ナマエは本当にリーマスのことが好…」

「言わないでよハリー!」

こんなに人がいるところで!とハリーの口を押さえ付ければ、周りを歩いていた人が一斉に何事かと振りかえる。しまった、逆に目立ってしまった。あわてて口から手を放してハリーをにらむ。彼はおどけたように肩をすくめた。

この話はハリー以外にしたことがない。というよりも出来ないことだ。おかしいことだというのは自分でも痛いほと理解している。リリーやジェームズのように歳が同じなわけでもなく、むしろ本当の親子ほど離れている。

だけど、物心ついたときからずっと好きだった。親として家族として、じゃなくて一人の異性としてずっと。

長いことそれで悩んでいた。転機が訪れたのは去年のことだ。実は、と切り出したリーマスに、私たちの血が繋がっていないと教えてもらったときの喜びは今でも忘れられない。
自分が両親に捨てられたのだという哀しみより、リーマスと血が繋がっていないという喜びのほうが遥かに大きかった。だって、私は実の両親のことを全く知らないから。顔も温もりも愛も、憶えているのはリーマスのものだけ。

「あ、そういえば」

「どうしたの?ハリー」

「この間の話、どうなったの?」

「ああ、あれね」

暗くなった空を見上げながら、ホグワーツの校長であるダンブルドア教授が家に来たときのことを思い出す。安定した職につけずに悩んでいたリーマスに、防衛術の教壇に立ってほしいと頭を下げに来たときのことだ。

「病気を理由に断ったみたい」

「やっぱりそうなんだ…パパがリーマスは多分断ると思うよって言ってたからさ。僕、リーマスが先生だったら嬉しいんだけどな」

「私もよ、ハリー」

リーマスの教え方は優しくて楽しくて、毎回私達が飽きないような内容を考えてくれる。あの小規模なものが授業という大規模なものになったら、どれだけ楽しいものになるのだろうか。考えただけでワクワクしてしまう。

「でも…ダンブルドア教授が相手なら大丈夫じゃないかしら」

ダンブルドアはああ見えて押しが強い。扉の向こうから聞こえた声が確かなら、君がいなければ誰が防衛術を生徒達に教えるんじゃ、とか何とかいってリーマスを困らせていた。自称ただの老いぼれじじいらしいが、そんなことは決してなく、むしろやり手の大人だ。きっと彼なら、いつかリーマスを説得することも可能だろう。

「だからきっと大丈夫よ」

「なるべく早めに説得してくれたら嬉しいんだけど」

「それはリーマス次第だと思うわ」

狼だとかは関係なく、私を引き取ってくれたときのように。それに気付いてくれれば、きっと。

「ナマエ、ハリー」

パッと後ろを振り返ると、沢山の荷物を抱えたリーマスの姿。その後ろに何とも幸せそうなジェームズとリリーの二人が、腕を組みながら歩いていた。

やっぱり、好きな人と一緒になるんだったら、二人みたいにラブラブになりたい。そう呟いて、ハリーと二人で目を合わせて笑う。

「息子の意見としては、かなり恥ずかしいんだけどね」

「慣れてもらうしかないわ」


誰かを愛することは決して恥ずかしいことではないから。いつかこんな恋ができると良いね、そんなことを話ながら。これから暫らくはリーマスに会えなくなるのだから、沢山彼と話して沢山彼に触れよう。

「さあ、帰ろうか」

そう頬笑んだリーマスから荷物をいくつか受け取って、私は大きく頷いた。


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