碧霄の絵画 | ナノ
道端で偶然拾った赤ん坊を引き取ってから、当然だが自分の生活が目まぐるしく変わった。

ミルクは人肌?普通の人肌が、どれくらいの温度なのか分からない(何故なら私は人より体温が若干低いから)。何故赤ん坊が泣いているのか、泣き方で分かる?正直な話全く分からない。全部同じじゃないか。オムツだと思ったらご飯だったときもあったし、その逆もあった。ははは、やっぱり私に子育ては無理かもしれないね。

そうジェームズに手紙で洩らしたら、「じゃあ一度家においでよ!リリーに教えてもらえばいいさ!」と返された。なんと、今ジェームズ宅にはシリウスもいるらしい。

(そんな時に彼女を連れてジェームズの家に行ったら…)

絶対に笑われるじゃないか。


**


「リ、リーマ…ぷ、っ久し…」

「笑いたいなら笑えばいいじゃないか?パッドフット」

片手に赤ん坊を抱いてもう片方に哺乳瓶やらオムツやらを持って現れた私を見て、案の定シリウスは下品にも吹き出した。まったく失礼な話だ。

お腹を抱えて笑いこけているシリウスを一瞥して、ハリーのもとへ近寄る。ハリーを抱いているリリーに挨拶をすれば、何故か彼女はクスクスと笑った。夜遅いせいもあってスヤスヤと眠っているハリーの頬に挨拶のキスをする。

「リーマス、貴方意外と様になっているじゃない」

「やめてくれよリリー…」

顔の横で手を振りながらそう返して、傍にあった机の上に自分が持ってきた荷物を置いた。ふと見ると抱いていた我が子も、何とも気持ちよさそうにスヤスヤと眠っているではないか。姿あらわしをして、結構大きな音を立てたというのに。

後ろでヒーヒーと笑っているシリウスを心配そうに、遠くから見守っているのはピーター。どうやら彼も話を聞いて駆け付けてしまったらしい。私の顔を見て、困ったようにニコっと笑った。

「リリー、リーマス」

ジェームズに手招きをされ、リリーと2人で赤ん坊を連れて隣の部屋へと移る。同じベットにお互いの子を乗せて笑い合う。何とも微笑ましいことだ。

「リ、リーマス…?こ、この子の名前は、もう考えたの?」

「ん?ああ、一応ね」

恐らく、今だに笑っているであろうシリウスを放置してやってきたピーターに笑いかける。おどおどしているのは相変わらずだが、少しだけ背が伸びたような気がする。
ピーターは「そうなんだ」と笑って二人の頬をプニプニとつっついた。少しだけくすぐったそうに身動きをした二人を眺めながら、ジェームズが口を開く。

「へぇ!リーマス、君もシリウスに名前をつけて貰えばよかったのに」

「それだけは絶対に嫌だったんだ」

きっと、彼のことだから狼関係の名前をつけるに違いないから。そう吐き出せば、ジェームズとリリーが声を上げて笑った(ピーターは笑っていいのか悩んでいるみたいだった)。彼女には、それとは無縁の人生を歩んでほしいと思うのは親として当然のことだ。

そっと、わが子の髪を撫でる。まだ少ししか生えていない髪は、とても柔らかくて気持ちがよかった。

「…ナマエ、って言うんだ」

意味は特に無い。何となく、この子のイメージがそんな感じだったからつけた。ナマエ、と呼べば、彼女が嬉しそうに笑うから、私も嬉しくなってそれに決定してしまった。きっと私は将来この子が大きくなった頃、相当な親バカになっているに違いない。

「ナマエっていうんだね」

「可愛い名前だわ!」

「確かに、シリウスに頼まなくて正解だったかもしれないな、ムーニー?」

「だろう?」

ばちん、とウインクを飛ばしてきた親友のそれを、さっと避けて笑う。(赤ん坊のイロハ教えないよリーマス!)

どんな経緯でこの子があのような暗闇の中で捨てられたのかは私には分からない。ナマエは私みたいな病気を持っているわけではないし、特別可愛くないわけでもない。きっと、彼女の親にも色々な事情があり、そしてこういう結果に至ってしまったのだろう。

ならば、彼らの分まで私が精一杯彼女を育てようではないか。


まるで双子みたいに寄り添って寝ているハリーとナマエを見て、その場にいた全員に思わず笑みがこぼれる。ピーターがポケットからカメラを撮りだして、二人を収めた。

「「…おやすみ」」

親バカな父親から愛を込めて。


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