碧霄の絵画 | ナノ

五人が見えなくなるまで手を振り、コーパメントを探しに歩きだす。廊下は家族と別れて泣き出す人や、久しぶりに再会した友人との会話で忙しい人でごった返していた。

爆発音がするコンパートメントを通りすぎ、その四つ先の扉を開く。リーマスに教えてもらった浮遊呪文でトランクを荷物棚に置き、向かい合わせに座る。窓から見える風景はもう駅ではなく、のどかな田舎の風景だった。

「そういえば、ジェームズの言っていた“僕たちの仇”って何のこと?」

「ああ、パパ達が卒業する直前に、管理人のフィルチさんっていう人に取られた物があるらしいんだ」

「どういう物なの?」

「さあ…だけど、パパ曰く学校生活がもっと楽しくなる魔法の代物なんだって」

「なるほど、例のあの物ってことね」

「そうなんだ。もし僕たちがフィルチからそれを取り戻してくれたら、僕たちに譲ってくれるってパパが言ってた」

どうやら、ホグワーツに入学したらやることが一つ増えたようだ。例のあの人に例のあの物。例のあの人は、図書室で卒業記録か何かでねっとりした人をしらみつぶしに探していけば見つかるだろう。問題は例のあの物である。フィルチさんがどういう人かは知らないが、ジェームズ達が適わなかったのなら一筋縄ではいかない。何か手を考えなければ。

その時、誰かが扉を叩く音がコンパートメントに響いた。見るとそこには困った顔の赤毛の少年が立っていた。恐らく歳は私達と同じだろう。背が高く、そばかすだらけの少年だった。

「あの…そこ空いてる?どこもいっぱいなんだ」

「ああ、空いてるよ」

そう言ってハリーが私の隣へ移動して、今までハリーが座っていた場所に赤毛の少年が座る。

「僕、ロン・ウィーズリー。今年からホグワーツに入学するんだ」

「ハリー・ポッター。僕らも君と同じだよ」

「ナマエ・ルーピンよ。よろしく」

「うん、よろしく」

ロンは七人兄弟の六番目で、ホグワーツには今三人のお兄さんがいるのだとか。自分の持ち物は全部お下がりなんだ、と恥ずかしそうに呟いた。

「二つ上の兄貴達は双子なんだけど、僕ホントはそこにいようと思ったんだ。ほら、初めてだから少し不安だったし。でも───」

バンッという爆発音が汽車を揺らす。どこから聞こえたか確認するまでもない。

「───ほら、あれが双子の兄貴達だよ。悪戯が大好きなんだ。コンパートメントが煙くてさ、逃げてきた」

「なんだか僕のパパやシリウスと気が合いそうだね」

「本当だわ。あの音、貴方のお兄さんだったのね。もう一人のお兄さんは?」

「あいつのところに行くくらいならフレッドやジョージと一緒にいるよ。第一、パーシーのやつは僕と一緒にいたがらない。一人で静かにお勉強がしたいのさ」

「ずいぶんと曲者ぞろいなのね、貴方の家族って」

「まあね。他の奴らもそうだから、僕ってすごく普通なんだ。いつもあいつらの影に隠れちゃう」

そこまで一気に喋って、ロンは喋り過ぎた、と顔を赤くした。私達といえば、どちらも一人っ子で彼の気持ちが分からないに等しい。むしろ兄弟が多くて羨ましいくらいだ。

「そういえば、君のお父さんは悪戯が好きなのかい?」

ロンが話題を変えようと、慌てて口を開く。ハリーが「そうだよ」と言った。

「学生時代に、フィルチっていう管理人を何度もギャフンと言わせたって自慢してた。ママは嫌そうな顔してたけど」

「へえ!じゃあフレッドとジョージと一緒だな。あいつらもよくフィルチを怒らせてるってパーシー達が言ってたし。君たちは幼なじみか何かかい?」

「ええ、そうよ。私の保護者とハリーの両親が親友なの」

そう言えば、ロンは感心したように声をもらした。まあ、リーマスはどちらかというと制止役だったみたいだけど。それにしても、フィルチさんとやらも大変だ。ジェームズやシリウス達がいなくなったと思ったら、次はロンのお兄さん達に怒るはめになるなんて。

私達はしばらく黙って、牛や羊のいる牧場や野原を眺めていた。お昼頃に車内販売がやってきて、ハリーは沢山のお菓子を購入。ロンは耳元を赤らめながら、サンドイッチを持ってきたからと口ごもり、私はあまりお金の無駄遣いができなかったから、ハリーのおこぼれを頂戴することにした。まあこれはいつものことだ。

「いつもごめんね、ハリー」

「気にしないで。ロン、君も食べてよ」

「いいの?」

ハリーは蛙チョコレートを口に放り込みながら首を縦に動かした。わたしは大鍋ケーキを手に取り、ロンはかぼちゃパイを口一杯に詰め込んで、ふがふがとお礼のようなことを言った。
ロンは蛙チョコレートのカードを集めているらしい。ハリーもカードの熱心な収集家で、アグリッパとプトレマイオスのカードだけがないというロンに、全部揃っている自分のカードを見せて自慢した。カードの何が面白いんだろう。男子の会話についていけなくなった私は、どこまでも膨らむ風船ガムを膨らましながら外を眺める。森や丘が通りすぎていく。リーマスは今何をしているのだろうか。

百味ビーンズのつっ付き合いをし始めたころ、またコンパートメントを叩く音がして、見ると栗色の髪の毛の女の子と丸顔の男の子が立っていた。

「ねえ、誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」

「見てないわ」

「あらそう?でも、見かけたら教えてくれる?それから、三人とも着替えたほうがいいわ。もうすぐ着くはずだから。あと少し食べ過ぎじゃないかしら?あまり食べると夕食が入らなくなるわよ」

なんとなく威張った話し方をするその女の子は、ネビルといわれたヒキガエル探しの男の子を連れて出ていった。ロンはそれを睨み付けている。どうやらお気に召さなかったようだ。私もあの小馬鹿にしたような声が好きじゃないと、ハリーに目配せをした。

「まあ、でもあの子が言ったことは正しいみたいよ。汽車の速度が落ちてるみたいだし。私、外に出てるから二人は先に着替えて」

「分かった」

コンパートメントの外に出て扉を閉める。ハリーが扉の窓についているカーテンを閉めるのを見て、床に座り込む。

ようやく、ホグワーツにつく。リーマスもいたホグワーツに。頑固な自分の髪の毛を撫で付ける。こんなことをしても、リーマスが私の目の前に現れることはないけれど。

暗くなった空を眺めながら、自分が入るのはどの寮か考えを巡らせた。きっとリーマスはどの寮になっても喜んでくれるだろう。だけど、やっぱりリーマスと同じグリフィンドールになれば、もっと喜んでくれるのは間違いない。リーマスはどうやって組分けされるのかを教えてはくれなかったけど、私の心はどの寮に入るか、もうすでに決まっていた。


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