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私は素直じゃない。それは自他共に認めているし、年季が入りすぎて今更かんたんには治せない。巷ではツンデレというものが流行っているようだけど、私の性格はそんな可愛らしい部類に入るものじゃなく、それを遥かに越えたただの“性格の悪い女”だ。
「キミ、落としたよ」
などという、親切にも私が不注意で落としてしまった羊皮紙を拾ってくれた人物にも、ニコリともできずただ「どうも」と呟く。
「こういう時は有難うって言うんじゃないのか?なあ、セド」
「私が何てお礼を言おうと私の勝手でしょう、放っておいて頂戴。第一、アンタが拾ったわけじゃないんだから、いちいち口出ししないでくれる?」
「まあまあ、二人共…」
そんなこと微塵も思ってないけれど。親切を働いてくれた人に対して「どうも」の一言で済ますなんて失礼にもほどがあると分かっているはずなのに、何故か出てくるのはそんな失礼極まりない言葉達。
目の前に仁王立ちしている男(恐らく友人だろう)と、親切で笑顔を絶やさない男の顔を交互に睨みつけて横をすり抜けようとすれば、「ちょっと待って」と腕を掴まれた。
「何」
「でも、お礼を言うことは大事だと思うよ」
「ど、う、も!」
「だから……」
遠回りをしようと方向転換した私の後ろを、ハッフルパフの優等生であるセドリック・ディゴリーが着いてくる。何、と睨み付ければセドリック・ディゴリーは何じゃなくてね、と噛み付いてきた。
「キミがきちんとお礼を言うまでつきまとおうかなと」
「恩着せがましい上にストーカー?貴方本当にどうかしてるんじゃない?」
「キミが言うセリフじゃないよ?それは」
うるさい、と悪態をつく代わりに一睨み。セドリック・ディゴリーは負けじと私に頬笑み返す。悪態をつかれないことのほうが、私にとってはよっぽどダメージだ。
「物を拾てあげたことがそんなに迷惑だった?」
「迷惑じゃないわ、嫌いなだけ」
はき捨てるようにそう言って、目的地とは逆の廊下に出る階段を降る。とっさに口から飛び出た言葉は、私が心から思っていることと真逆の言葉だった。
積極的に自分をアピールしていく友達が羨ましい。自分の良いところを知っていて、そこを上手くアピールできる女の子達が。いつからこうなったのかは忘れたが、私は自分の嫌なところしかアピールが出来ないようだ。セドリック・ディゴリーに拾ってもらった呪文学のレポートを見る。汚い字。内容もまとまっていない。あの優等生に、このレポートを読まれていないといいのだが。
ため息をつこうと目を閉じる。その一瞬に、後ろから突然腕を捕まれ、正体の分からない二体のガーゴイル像の間に押し付けられた。突然の衝撃に閉じた目を開けると、セドリック・ディゴリーの姿が。
「や」
「なっ……」
「僕のことが嫌いだって?それは初耳だなあ?」
身動きが出来ないように私を押さえ、わざとらしく首を傾げる。黙る私を上目遣いで見つめ、口を私の耳元まで持ってきて言った。
「てっきりキミは僕のことが好きで好きで堪らないのだと思ってたんだけど」
「は!?」
「照れ隠しだろ?それ」
「ち、違うわよ!アンタなんて嫌いよ!大っ嫌い!離して!!」
「ははは」
セドリック・ディゴリーはいつもの、人当たりのいい笑みを浮かべる。しかし、決して私を離そうとはしない。
「さすがに、こう、毎日毎日悪態をつかれると僕も傷つくんだよね」
私の顔が真っ赤に染まるのを楽しむかのようにセドリック・ディゴリーが話す。いや、もしかしたら、今までもずっと、私のこういう反応を楽しんでいたのかもしれない。
授業のチャイムが鳴る。あのお節介な彼の友人は教室へ向かったのだろうか。セドリック・ディゴリーはその音をのんびりと聞きながら、顔を私に近づける。
「今日こそはキミの本音を聞きたいからね。キミが素直になるまでこの体勢でいてあげるよ」
長い長い戦いの始まりだ。
迷惑じゃないよ、嫌いなだけ