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私はただ彼を影から見つめているだけの脇役だった。

何故なら彼は人気者で、顔が良いだけではなくスマートで頭もよくてクィディチの腕だって人並み以上。全てにおいて人並み以下の私が彼に近寄るなんて。
もちろん、彼に秘めた思いをよせる女の子は沢山いた。秘めない思いをよせる子は積極的にビル君に話しかけていて、遠巻きに見るしかできない私達はただそれを羨ましく、そして何も無い自分を恨みがましく思うだけ。

だけど、やっぱり少しでもいいからビル君と仲良くなりたいと思うのは決して間違ったことではないと思う。

「ほら、ナマエ。今日こそはビル君に話しかけてみなさいよ」

「む、無理だって。ケイトこそ話しかけてきてよ」

「わ、私なんてダメよ…特別美人なわけでもないしスタイルがいいわけでもないし…」

「そんなの私だって…」

二人で自分の体を見下ろしてため息をつく。ビル君の腕に自分の腕を絡ませている子はみんな、さり気なく自分自身の中で一番自信のある部分をそのたくましい腕に当たるように計算している。どんな形であれ、ビル君と関係を持てるのならそれで本望なのだ。その気持ちはよく分かる。ただビル君はやんわりと腕を解いているけれど。

「…ああいうところも格好良いのよね」

「うん、すごく分かる」

「スマートだわ」

髪が他の男子に比べて長めなところも様になる。最近は邪魔になってきたのか、割と頻繁に髪を結っていることが多くなった。今はまだ短めから下の位置で結んでいるけれど、高い位置で結んでも似合う気がする。

「…ビル君って格好良いよね」

そして毎度のようにこのセリフを繰り返す。虚しい。勇気にもいろいろな種類があるが、私達にはビル君に話しかける勇気は微塵も無いようだ。グリフィンドール寮の生徒に混じって呪文学のクラスへと歩く。もちろん、ビル君の5メートルほど後ろをキープ。ここが私達の定位置だ。

呪文学の教室に入ると何やら皆が騒めいていた。どうやら席替えが発表されたらしく、黒板の前には沢山の人だかりができている。もちろん私達はビルくんとのラブロマンスを期待するわけだけど人生そんなに上手くいくわけじゃない。

「ビル君の左4つに前3つ。ナマエはどこだった?」

「私は左2つに後ろ4つ」

「まあ…そんなものよね」

二人で大きなため息をつく。フリットウィック先生が入ってくるのが見えて、慌てて席に移動した。

「えっ」

「えっ?」

しかし私の席の隣にいたのは何故か紙に書いてあったロブではなく。

「ビ…ビル君?」

どうして?辺りを見渡すとロブはビル君が座るはずだった席に座っていた。席に着きながらどうしてそこに?と私が尋ねると、ビル君が笑う。

「何だよ、俺がここにいたらいけないみたいな言い方だな」

「そ、そんな!」

「ロブのやつに頼まれたんだよ。好きな子の隣に座って授業を受けるなんてロマンチックだろーっ代わってくれーって」

恐らくロブの真似であろう口振りで(全然似ていなかった)そう言ってまたビル君が笑った。そ、そうなんだ。と返しながら幸せそうに自分の隣を見つめるロブの背中にエールを送る。そうか、ロブってばスーのことが好きだったんだ。

「俺が隣じゃ不満?」

「そ、そんなことないよ!ただ、びっくりしただけ」

「もしかしてナマエはロブの隣でロマンチックなムードを味わいたかったとか?」

「ち、違うってば!」

あり得ない。私があのビル君と話をしているなんて。しかもビル君が私の名前を知っていて、私の名前を呼んでくれた。こんな奇跡滅多にない。ケイトのほうを見ると、ケイトはやっぱり驚いた顔で、だけど「頑張れ!」と微笑みながら口を動かした。

チャイムが鳴り、フリットウィック先生が指示を出す。おかしそうに喉を詰まらせながら笑っていたビル君が、うつむいた私の顔を覗き込む。

「隣の席。よろしく」


ようやく私にも青い鳥が来たようだ。



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