チョコボの牧場



ブロードさんは外に出たら近くの農場にいる私の知人を頼れと言っていた。
その情報を頼りに農場を訪れると、どうやら連絡を入れてくれていたようで話はスムーズに進んだ。

農場で得られた情報はふたつ。

ひとつは、神羅は本格的にあたしたちを探すつもりらしいということ。
ふたつめは、湿地帯の方に使われていない船着き場があるから、そこに身を隠すのがいいということ。

その情報を頼りに、あたしたちは湿地帯の船着き場へとやってきた。





「神羅はいねえな」

「ああ」





バレットとクラウドは辺りを見た。

話に聞いていた通り、船着き場は静かな場所だった。
人の気配はない。

確かにここなら、身を隠すにはもってこいかもしれない。





「共和国時代の船着き場だ」

「そっか、通りで結構古そうなわけで」





レッドXIIIの言葉を聞き、あたしは船着き場の木の足場をトントンと足で叩いた。
共和国時代…神羅が世界のトップになる前だから、まあ、かなり前の話だよね。





「昔は船で湿地を渡ってたんだよな。で、ミスリルマインを抜ければ、ジュノンってわけだ」

「ああ、その通りだ」





バレットに頷くクラウド。

ジュノンって、確か神羅の重要な都市があった気がするけど。
あやふやな知識を探っていると、レッドXIIIが湿地を眺めながら言う。





「だが、船は死んでいる」





その言葉に、全員の視線が放置された船に集まる。
いつから放置されてるのかわからない、おんぼろ船。





「ね、ナマエ。見て」

「ん?」





そんな時、とんとんとティファに肩を叩かれ、振り向けばティファはとある看板を見つけていた。

船に乗ってみるかとか、無理なら泳ぐかとか。
皆がそんな風に話してるのを背中で聞きながら、あたしたちは看板を読む。





「湿地には、ミドガルズオルムが潜んでいます」

「このイラスト…なんだ、でっかい蛇?」





あたしたちの声に皆も振り向く。
エアリスは駆け寄ってきて、一緒に看板の続きを読んだ。





「でも、チョコボのスピードなら大丈夫。さあ、チョコボで湿地を越えましょう」

「チョコボのご用命は、グリン牧場まで…だって!」

「チョコボかぁ〜♪」





あたしたちは3人で顔を合わせる。
そりゃもう、にっこりと。

そして3人でくるりとクラウドに振り向く。





「どうする〜?チョコボ、乗る?」

「乗る?」

「乗る?乗る?クラウド♪」





順にエアリス、ティファ、あたし。
3人で詰めよれば、クラウドも流石に折れるのが早い。





「…行ってみよう」





そう言って歩き出した彼の姿に、あたしたちはパンッと3人でハイタッチした。

チョコボ♪チョコボだ♪
チョコボに乗れるー♪

もうそれだけで何だか気分はルンルンだ。

こうしてあたしたちは一度船着き場を離れ、グリン牧場とやらを訪ねてみることにした。





「これはこれは、みなさん。ようこそ、グリン牧場へ」





辿り着いたグリン牧場。
迎えてくれたのはなんと、カームに行く途中にトラックに乗せてくれたあのおじいさんだった。

そういや荷台にチョコボ乗せてたよね。

そもそもおじいさんの名前がグリンさん。
どうやらこの牧場の牧場主さんだったらしい。

おじいさんは色々と教えてくれた。

昔は国営の交通網があったけど、今は役立たず。
そんな時代に便利なのがチョコボであること。

チョコボは羽毛で浮かびながら、強靭な脚でスイスイ泳ぐことも出来る。
だから湿地でも役に立ち、ミドガルズオルムというモンスターもチョコボには追い付けない。

多分、商売トークなんだろうけど、話し方が上手いからついつい聞き入った。





「詳しいことは、あの小屋にいる孫のグリングリンに聞いてくれ」





こうしてあたしたちは案内されるまま、小屋の方に行ってみることにした。





「いらっしゃい!」





小屋に入ると、明るい男の子の声がした。

チョコボを慣れた手つきで撫でている。
あの子が、グリングリンかな?





「看板を見た。湿地帯用のチョコボを借りたい」





クラウドが早速、用件を伝えた。
するとグリングリンはチョコボから手を離し、凄く惜しそうな顔をして衝撃の言葉を吐く。





「あ〜、おじさんたち、運が悪い」

「おじ…」





クラウドがショックそうな顔をした。

でも同時に、あたしもピシャーンと雷に打たれたような衝撃を受けていた。

おじさん…!!!
このイケメンビューティフルクラウドを捕まえておじさん!!?

クラウドもショックそうだけどあたしも今だいぶショック受けたんだけど!!?





「レンタル用のチョコボはみんな貸し出し中なんだ」





グリングリンは運が悪いと言った部分の話を続ける。
おじさんとかそんなナチュラルな感じで言ったんか君…。

まあいつまでもそこに引っ掛かっても仕方ないからちゃんと聞くけど…。





「いっぱいいるじゃねえか」

「今いるのは療養中か、契約済みの子だよ」





バレットがここにいるチョコボたちの事を聞くと、そんな答えが返ってくる。
つまり、フリーのチョコボはここにいないと。





「でもまあ、おじさんたちがもっと高値で借りてくれるって言うなら、譲ってもいいよ」





グリングリンはそう言ってニヤリと笑う。

先は急ぐ旅。
値段次第ではそれも選択肢のひとつ?





「いくらだよ」

「10万以上」





バレットが聞くと両手の5本指を広げ、価格を提示したグリングリン。

じゅ、じゅうまん…。

その額にあたしたちは動揺した。

いや、予想外…。
流石にそれは払えない…。





「ごめんね。私たち、旅の途中でそんなに払えないの…」





エアリスが謝ると、グリングリンは「うーん」と後ろ頭を掻く。
そしてすぐに何か閃いたような顔をした。





「それなら、いい情報があるんだ。ん、情報料1000ギル」





でもまたここでもお金を要求された。
こ、これは…言い方あれだけどなかなかがめつい…。

エアリスも困ったように眉を下げる。

するとそんな反応を見たグリングリンはニッと笑みを浮かべた。





「と、言いたいところだけど、美人を困らせたくないからタダでいいや。実は少し前に牧場から逃げ出してそのまま野生化しちゃったチョコボがいるんだ。もし、そいつを捕まえてくれたら、お姉さんたちのものにしていいよ」






グリングリンはタダで情報を教えてくれた。
エアリスも「ほんとに?」と表情を明るくさせる。

…1000ギルは流石に冗談、だった?

そういやエアリスはちゃんとお姉さんなんだなあ…とか余計なこと考えたのは内緒だ。





「名前はピコ。ちょっと気難しい奴で放牧してたらいつの間にか逃げちゃったんだ」





グリングリンはそう言いながらクラウドをじっと見る。
近づかれたクラウドが「えっ」と戸惑いの声を漏らすと…。





「おじさんに雰囲気が似てるかも」





クラウドの頭を見てそう一言。

それにはエアリスとティファがくすっと笑う。
いやごめん、あたしも今のは笑ってしまった。

確かにクラウドの頭は…ねえ?





「まずはピコの足跡を探して。足跡があれば、その近くにいるはずだよ。野良になったチョコボはすごく用心深いけど、気づかれないように近づければ、お姉さんたちでも捕まえられると思うな」

「うん、わかった。ありがとう」





色々と詳しく教えてくれたグリングリンにエアリスはお礼を言う。
でもグリングリンはお礼より、というように手を上げて追加でもう一言。





「あとこれ重要!情報はタダにしたんだ。必ず、うちの店で買い物をすること。妹のクリンが売ってるから、まずは見てってよ」

「ははははっ、商売がうめえな」





バレットが思わず笑った。

確かに、最初こそがめつい?とは思ったけど、彼もなかなか口が上手い。
全然嫌味なく、ちょっと見ていこうかって気にさせられるもんね。





「チョコボを捕まえたら、一度うちに連れて来ると良いよ。乗り方や育て方を教えてあげる」





どうやらその辺のアフターケアもばっちりらしい。

多分基本的に人は良いのだろう。
なんとなくそんな感じはする。

それなら約束通りと、あたしたちは小屋の奥にあるショップを覗いてみることにした。





「お兄ちゃんが、お金お金ってごめんなさい」





ショップに立っていた妹のクリン。
彼女は大人しそうな、可愛らしいポニーテールの女の子だった。





「ううん、大丈夫だよ」

「お仕事だからね。気にしないで」





クリンはどうやら兄の商売トークを気にしているらしい。
あたしやエアリスは平気だよと優しく声を掛ける。





「そうなんだけど、パパとママがいなくなってから、とってもお金にうるさくなって…」





クリンは少し寂しそうに言った。
その言葉にあたしとエアリスは顔を合わせる。

これ…なんだかちょっと、ワケありそう?





「お姉さんたち、ミッドガルから来たの?」

「うん、そーだよ」

「うん、スラムから」

「チョコボ・サムって、知ってる?」





なんか凄い意外な名前出てきた…。

こんなところでその名前聞くとは思わなんだ。
いやチョコボ繋がりではあるけれど…。





「まあ、ねえ…?」

「うん…知ってるって言うか…うん、知ってる」





あたしがちらりと見ると、エアリスも少し苦笑いしながら頷く。





「どこにいるの?」





続けて質問が飛んできた。
え、なぜにそんなチョコボ・サムに興味深々?





「六番街のスラムだろうな。ウォールマー…」

「おーっとと!」

「サムに、会いたいの?」





傍で聞いてたクラウドが馬鹿正直に答えようとして、あたしとエアリスは慌ててそれを止める。
エアリスが上手く話を逸らしてくれたうちに、あたしはぐいっとクラウドを引っ張って小声で話した。





「…クラウド、クラウド…流石にあのくらいの歳の子にウォールマーケットはあかんと思う…」

「…そういうものか?」

「…そういうもの」





こくこくと頷く。
クラウドは「ふむ…」みたいな顔してた。

で、まあクリンがサムに会いたいかと言えば…。





「う〜ん、わかんない。その人、パパとママの仇なの」





仇…?
なんかまた意外な話の展開になってきたような…。

でもそこで、少し険しい顔をしたグリングリンがこちらに飛んできた。





「クリン。その話はお客さんにはしないよ」

「でも…」

「今の話はよそでしないでよね。サムはチョコボ業界の大物だから、変な噂が立ったらうちなんかすぐに潰されちゃう」





チョコボ・サムって業界だと有名だったのか…。
まああのウォールマーケットでああいう立ち位置にいる人だから、ただ者ではないんだろうとは思ってたけど。





「うん、わかった。誰にも言わない。ね、ナマエ」

「うん、だから安心していいよ」





エアリスとあたしはそう伝えた。

うーん…、でも、チョコボ・サムが仇か…。

イカサマされたし、こっち的にもそう良い思い出は無いんだけど…。
そういう話だとしっくりこないような気もする。

コルネオとかならともかくね。





「じゃあ、ショップも見せてもらったし、ピコ、探しに行こうか!」

「ああ」





あたしはレッツゴーと手を上げる。
クラウドは頷いてくれた。

クリンは良いものがあったらでいいって言ってくれたけど、ちゃんと約束通り買い物をした。
旅の消耗品とかも売ってたから、そう言うのは普通に必要だしね。

こうして、あたしたちはチョコボのピコを探しに草原へと飛び出したのだった。



To be continued


グリンの車が故障してるところで会うくだりはカット。(笑)
あの会話もクラウド面白いんですけどねー。


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