あの子の望み



夜のビーチ。
再び現れたスイカトンベリ。

大人しくさせるためにあたしたちは戦い、ぱた…とトンベリは倒れた。

倒してはいない。
これで、この子が伝えたいことっていうのが聞けると良いんだけど…。

エアリスは倒れたスイカトンベリに駆け寄った。





「クラウド、やっぱりこの子、何か伝えたいみたい…」





エアリスはそう言って、スイカトンベリの傍にしゃがむ。

スイカトンベリの方も自分の意思が伝わることがわかったらしい。
小さな体で飛び跳ねて、エアリスに自分の気持ちを伝え始めた。





「うん、うん。そっか、そうなんだ…」





優しく耳を傾けるエアリス。
とてとてと近づいてくるスイカトンベリ。

それを見たクラウドは慌てて声を上げる。





「エアリス、危ない!」

「うん、大丈夫」





でも、エアリスに焦りはない。

あたしも、そう危険があるようには見えなかった。
だって、なんだろ…敵意みたいなの、全然感じられなかったから。

そしてエアリスはスイカトンベリの気持ちを教えてくれた。





「この子、みんなで一緒にスイカ割りしたいんだって。そのために、プレゼント用意してきてくれたみたい」

「え、スイカ割り…?」





あたしは首を傾げ、スイカトンベリを見る。
するとその瞬間、パッと目の間にとんでもなく大きなスイカが出現した。

…!!!!!!





「で、でか!!」

「わあ、すごいスイカ!」





あたしは目を丸くし、ティファは手を叩いて感心してた。
クラウドもぎょっとしてる。

いやでもデカい…。まじでデカい…。

目の前に現れたそれは、あたしたちの背丈くらいあるスイカ。
いやなんかもうメガでヒュージでビックでラージで…みたいな。





「この大きなスイカをみんなで割りたいんだって」

「ほえー…プレゼントってこれかあ…」

「じゃあ、ビーチを襲おうとしてたわけじゃないんだね」

「話、通じないし、追い払われちゃうから、ポータルの魔法を使って、言葉伝わる人、色んなビーチで探してたみたい」





なるほど…納得。
ポータルで消えちゃったのはそういうこと…。

ここ以外のビーチでも、同じように追い払われてしまってたのか。

だとしたらなんか可哀想なことしちゃったな。
事情がわかってちょっぴり胸が痛む。

まあ今はやっと話が通じて嬉しいのかぴょんぴょん踊ってて可愛いけど。

するとその時、隣のクラウドじっと大きなスイカを眺めていることに気が付く。





「クラウド?」

「確かにデカい…割ったら気持ちいいだろうな…」





声を掛けたらそんなことを言う。
まじまじと…なんか可愛いな。

こっそりそんなことを思ったのは内緒。





「ねえ、ビーチフェスで巨大スイカ割りを出来る様に主催者さんに頼んでみない?」

「うん、こんなに大きいスイカならお祭り、きっと盛り上がる!」





ティファがフェスに活かせないかと提案すると、エアリスも名案だと言うように頷く。
こうして、あたしたちは相談するべく主催者さんのところに向かうことにした。

駆けていくティファとエアリス。
スイカトンベリも、とてとてとそれについて行こうとする。

クラウドはそんなとてとて歩きを見守るようにスイカトンベリを見下ろしていて、そのままゆっくり足を動かし始めた。

…なんか、それも可愛いな。

さっきからクラウドが妙に可愛い。
そう思ったら今度は思わず、ふっと笑ってしまった。





「ナマエ?」

「…あはっ、なんでもない!」





やばいやばい。
声が出たからクラウドが気付かれた。

クラウドは足を止めて振り返ってくれる。
それに合わせてスイカトンベリも一緒に止まった。

あたしはそんなスイカトンベリの傍に近づき、目線を合わせるように目の前にしゃがんだ。





「スイカトンベリ。さっき、攻撃してごめんね」





さっき、可哀想なことしちゃったなって思った気持ち。

トンベリにはあたしの言葉、伝わるのかな?
まあ気持ちが伝わればいいってことで。

あたしはそっと手をかざし、お詫びとして回復魔法を唱えた。

さて、気持ちは伝わったでしょうか。
にこっと微笑むと、スイカトンベリはじっとあたしの顔を見上げた。

そして…。





「わっ」





ひしっとハグされた。

なんと!





「…気に入られたらしいな」

「あはは!だとしたら嬉しいなー!」





クラウドにそう言われ、へらっと笑いながらなでなでとスイカトンベリの頭に触れる。

いやあトンベリっておっかないけどさ、見た目は可愛いんだよねー!
こんな風にトンベリさんとコミュニケーション取れる日が来るとは!





「ああ、ごめんね、クラウド。待っててくれてありがと」

「いや…」

「トンベリも早くいこ!スイカ割りスイカ割り♪」





止まって待っててくれたクラウドにお礼を言いつつ、スイカ割りの単語を出せばまた嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるスイカトンベリ。

スイカ割りがしたいっていうのはやっぱり本当みたいだ。
いやエアリスの事を疑っていたわけではないけど、なんかすごく実感したっていうか。

そしてあたしたちは主催者さんに事情を話し、巨大スイカを見て貰うことにした。





「勿論大歓迎です!コスタ・デル・ソルのビーチフェスがいちだんと話題になるでしょうから!」





話を聞き、スイカを見た主催者さんは快くそれを受け入れてくれた。

むしろ大張り切り。
「そうと決まれば準備準備!」とまたすぐ事務所の方に戻っていった。





「やったね、成功!」

「うん!大成功ー!」





あたしはエアリスと一緒に「いえーい」とハイタッチした。
でもその直後、トンベリがそわそわしだしてエアリスはまた話を聞くように傍に屈む。





「え?もっと、いろんなビーチでも皆と盛り上がりたいんだ?」





トンベリはここ以外のビーチでもスイカ割りをしようと話が通じる人を探していた。
そんな、他のビーチでも盛り上がりたいと。

でも話は通じなかったから、結局追い払われてしまっていた。

エアリスが困ったようにこちらを見てくる。





「うーん、どうすればいいかな」

「んー、あたしたちが説明してあげられればいいけどね」

「ナマエ、それ!ナイスアイディア!私が手紙、書いてあげる」





あたしの意見を聞いたエアリスは閃いたようにパンと両手を叩いて駆け出していく。
程なく戻ってきた彼女の手には、ひとつの手紙が握られていた。





「この手紙、スイカに貼って見せればどこのビーチでも、きっとみんな一緒にスイカ割りしてくれるはず」





今書いた手紙をスイカトンベリも持たせたエアリス。
手紙を手にスイカトンベリはまた嬉しそうに跳ね、とてとてと走り出す。





「いってらっしゃい!」

「え、あの子、もう帰っちゃうの?」

「えー、一緒にスイカ割りしようと思ってたのにー」





見送るエアリスの言葉にティファとあたしは残念がる。
でもエアリスはそんなあたしたちにくすっと笑った。





「スイカ割りを盛り上げるのに忙しいみたい。でも、すぐ帰ってくるって」

「あ、本当?じゃあ、待ってるね」





あたしはひらひらとスイカトンベリに手を振った。

スイカトンベリはまたポータルの魔法を発動させる。
あたしたちはそんな小さな背中を見送ったのでした。



To be continued



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