案外ちょろい
「参った!参りましたってば〜!」
頭を抱えて小さくなって、わーっと叫ぶ女の子。
それはあたしたちに周りを取り囲まれ、降参しているユフィの姿。
歳獣のお年玉を探しに街の外に出たあたしたちは、突然不意を突くように森の中で襲われた。
その襲い掛かってきた人物こそがユフィ。
驚いたけど、そう簡単にやられるほどこちらもヤワじゃない。
ユフィはあっという間に取り押さえられ、逃げ場を失う。
それが今の、この状況だった。
「最初から俺たちのマテリアを狙ってたんだろ…?」
クラウドがどこか呆れながら言う。
ユフィが襲いかかってきた理由は、あたしたちのマテリアだった。
どうも盗もうとしていたようで。
それじゃなにさ。
ウータイで親切にニューイヤーのあれこれを教えてくれたのも全部油断させるための罠だったと。
それはずいぶん用意周到なことで。
その手のこみっぷりには妙な感心を覚えてしまう。
「そんなことないよ…マテリアなんて、初めて見たよ。す〜っごくキレイだったから、ちょ〜っと見てみたいな〜って思っただけなのにさ…」
ユフィの声は徐々に沈み、顔も俯いていく。
「だから…ヒック…許して…うぅ…えーんえーん」
そしてしゃがみこみ、その場で泣き出してしまった。
そんな様子に皆の視線がクラウドに集まる。
クラウドも後ろ頭を掻いて困り顔だった。
…でもこれ、ほんとに泣いてるのかな。
なーんかちょーっと信用出来ない気がして。
「やれやれ…泣くな。どうしていいかわからない」
「じゃ許してくれる?」
「…ああ。結局、何もとられてないしな」
クラウドはユフィを許した。
まあ確かに何も取られてないし、そこまで大事にする話でもないんだけど。
するとユフィはパッと顔を上げた。
「やった!ありがと!」
涙なんてどこへやら。
跡ひとつ滲んでない。
やっぱり嘘泣き!
ユフィは満面の笑みで万歳し、そしてそのままタッと駆け出した。
「ある時はニューイヤー盛り上げ大使、ある時はウータイのアイドル忍者、はたして、その正体は…凄腕マテリアハンターのユフィ!!次こそあんたたちのマテリアを頂戴する!じゃ、まったね〜」
一度だけ振り返ると、そう言い残す。
ま、マテリアハンター…。
なんかそう言うと聞こえいいけど、やっぱ泥棒されかけてたんだよね?
「元気な子だな…」
「ウータイの神秘だな」
去っていく姿を見ながら、バレットとレッドXIIIがある意味感心するように言う。
「また会える…のかな?」
「その時はどうする、クラウド?」
言い残していった「まったね〜」の言葉。
それを思い出し首を傾げたエアリスと、もしそうなったらとクラウドを見たティファ。
「…考えたくない」
クラウドは頭を抱えた。
どうやらクラウドはあのゴーイングマイウェイが苦手らしい。
クラウドは歩き出した。
それを追うように、全員が足を動かしその場を離れた。
「んー…」
「ナマエ?どうした」
「いやー、クラウドって案外ちょろい…?」
「ちょろ…っ、何だいきなり」
「ふふふ!いやほら、泣き落とし?」
「……面倒くさかっただけだ」
「ふーん?いやでも優しいなと思いまして」
「…何を見て」
「許してあげてたから?」
「………。」
「ふふふー、いやー、いいと思いますよ!」
笑ったらクラウドはなんとも言えない顔をする。
いやでも実際泣かれると弱いところはあるんだろうなーって。
まあでもそれは、無情にはなり切れない、クラウドの優しさだろう。
「…なんで笑う」
「いえいえー♪」
そんな会話をしながら、あたしたちはウータイに戻る。
そしてニューイヤーをたっぷり堪能したあと、またポータルを潜ったのでした。
END