まるで子どものような
「ナマエ」
「あ、クラウド」
皆とクラウドにお菓子を渡し終えた後、あたしはひとり座って小さなお菓子の山を並べていた。
そこに来て声を掛けてくれたのは先ほどセブンスヘブンで別れたクラウドだった。
「お菓子、ありがとう。美味かった」
「あっ!食べてくれた?よかった!」
「ああ。ところで…それ、どうしたんだ?」
お礼をくれたクラウド。
そんな彼は不思議そうにあたしの前にあるお菓子の山に目を向けた。
「菓子?あんたも貰ったのか?」
「うん、そうだよ。なんでも屋さん、助手の笑顔でも多少はご利益あるかもってあたしもちょっと貰ったんだー」
さっき皆でクラウドへのお菓子を準備していた時。
笑顔振り撒いちゃうよ〜とか、そんなこと言ってると効果薄そう〜とか。
まあそんな話はしていたけど、助手だし、ナマエにもあげたら幸せ増えるかもみたいな流れになって、あたしまで貰えてしまった。皆優しいのである。
「そういや、クラウド、どうしたの?あたしに何か用?わざわざお礼言いに来てくれたの?」
「ああ…いや、お礼もそうなんだが。実は、お菓子と一緒にひとつメッセージカードを貰って…」
「え!?メッセージカード!?」
「これなんだが…」
「え、それはあたし見ていいの?」
「構わない。というか、あんたにも関係ある」
「はい…?」
バレンタインのお菓子にメッセージカードなんて聞いたらドキッとしちゃうじゃん!
だからそんなの人に見せていいのかと思ったけど、あたしにも関係があると言われてきょとん。
あたしはカードを受け取り、その内容を見させてもらった。
ハイウェイで待つ。
ナマエも連れてくるといい。
短い文章。
その、差出人は…。
「レッド、XIII…?」
「ああ。あんたも一緒にって。だから探してた」
「うん…確かに、あたしもって書いてあるね…?」
「一緒に、行かないか?」
まさかのレッドXIIIからのメッセージ。
クラウドはわざわざ探して、誘いに来てくれたらしい。
メッセージカードに書いてあったとはいえ、その事実は何だか嬉しいな。
クラウドがそう言ってくれるなら、断る理由はない。
純粋に、レッドXIIIのことも気になるし。
「うん、行く!」
あたしは立ち上がる。
こうして、クラウドと一緒にハイウェイに行ってみることになった。
「レッド〜」
「レッドXIII」
夕焼けのハイウェイ。
そこにひとり座って佇んでいたレッドXIIIに、あたしとクラウドは声を掛けた。
するとゆっくり、彼はこちらに振り向いた。
「よく来てくれた。ナマエも来たのだな」
「うん。来ていいって事だったので、馳せ参じましたぜ」
「ああ、待っていたぞ」
レッドXIIIはそう言ってくれる。
あたしは歩み寄り、そっとその赤毛に触れながら彼の傍に座った。
するとクラウドも同じように腰を下ろしながら、レッドXIIIに尋ねた。
「聞きたいことがあったからな。あのお菓子はレッドXIIIの手作りなのか?どうやって作ったんだ?」
クラウドはレッドXIIIから貰ったお菓子について疑問を抱いていたらしい。
確かに。レッドのこの脚じゃお菓子作りは無理だもんね。
「私の作ったお菓子、これは真実でもあり偽りでもある」
レッドXIIIはそう答えた。
…なんだその、回りくどい謎の言い回しは。
クラウドは少し神妙な顔をする。
そしてコクリと頷いた。
「……なるほどな」
「ふはっ…!」
その反応に、あたしは思わず噴き出した。
いやだって、なんでそこでなるほどになるの。
クラウドの視線がパッとこちらに向く。
レッドXIIIもふっと小さく笑った。
「フッ…わかってないな?思い込みを捨て、お菓子作りと向き合えば本質が見えてくるだろう」
「ていうか絶対今のじゃわかんないでしょ。なんでわかったふりしたのクラウド」
「…ナマエはわかるのか」
「ん、まあ、あたしは作ってた場所にいたしねえ」
くすくす隠さず笑う。
クラウドはちょっとバツが悪そうだった。
でもま、あたしは今言った通り、レッドXIIIの言った意味は理解出来てるので。
まあ確かに、真実でも偽りでもあるよね。
「材料運びは分配、焼き加減も大事だ。だが、本当の秘訣は空を感じること、だ。あらゆる条件は天候によって変わるからな。空気のニオイ、風が運ぶ湿度の量…。私の鼻を活かして調達した。あとは皆に手伝ってもらったのさ。ナマエは特に、よく手伝ってくれた」
「ふふふ、レッドもいっぱいアドバイスくれたしね!そこはお互い様〜ってやつさ!」
あたしはレッドの赤毛を撫でながら、そう言って笑った。
それを聞けば、クラウドも納得したらしい。
「だから、真実であり偽り、なのか」
「ふふ、そういうことだね!」
「不足を嘆くのではなく、得意を持ち寄り助けあう。これがともに生きるという事だ」
「レッドXIIIのお菓子もそうだな。色んな味が引き立て合ってて美味かった…」
「あ、だよね。それはあたしも思ったんだ。作るのはあたし手伝ったのに、やっぱ色々温度とかそういう細かいのって大事なんだなって思ったよ」
レッドXIIIからの包みを取り出したクラウド。
レッドXIIIが美味しかったのはあたしも完全同意だった。
温度、空気…。
ちょっとした気遣いで、料理の味って変わるんだなっていうか。
それを凄く実感した気がする。
「長年、未知の味を探求してきたからな。だから、クラウド、ナマエ。私の探求に力を貸してくれ。その…あれだ…いろんなお菓子を受け取っただろ?」
「え?」
「…俺とナマエがもらったお菓子を味見したいのか?」
レッドXIIIがあたしとクラウドを呼び出した理由。
多分、ここからが本題。
味の探求って…。
クラウドの言う通り、あたしたちが貰ったお菓子を食べたいと…?
そして彼はそれを否定しなかった。
「率直に言えば、そういうことだ。そのために噂を流したんだからな」
「噂…え!なんでも屋を笑顔にしたら幸せになれる!?あれ!?」
「あの噂、レッドXIIIの仕業か…」
そして、衝撃の事実発覚。
噂流したのがレッドだったの!?
しかもお菓子を食べたいがために!?
「え!都合のいい噂だなってレッドも言ってたよね!?」
「なんでも屋はナマエも当てはまるのではないか。ナマエも貰えるよう、誘導したのは私だ」
「あれ!?そ、そういえば…そうだったかも…」
言われて思い出す。
確かになんでも屋ならあたしも当てはまるって最初に言ってくれたのはレッドだったかもしれない。
だからナマエにもあげるーって流れになって…。
食べたい味を聞かれたりして、種類は増えたような…。
「まるで子どもだな」
そんなやり取りを見ていたクラウドは言う。
子供…。
いつも冷静沈着な物言いのレッドにはなかなか似つかない言葉な気がするけど…。
でも確かに今のレッドには、凄くしっくりくる気がする。
「なるほど。よく見ているな。だが、詮索の時間は終わりだ。さあ、ひとくちでいい!かじらせてくれ!」
いやどんだけ食べたいんだ君!!!
まるで涎でも耐えるかのような…。
レッドってお菓子には目がないのか…?
それとも実は子供っぽい性格をしているのか…。
でもま、今回ヴァレンタインを満喫させてくれた功労者は、彼なのかもしれない。
「あははっ!いいよ、一緒に食べよっか!ひとりで食べるより楽しそうだし!」
「…恩に着る」
「あ、折角なら何か飲み物も…。前に美味しいって教えてもらった紅茶でも淹れて…」
まるでちょっとしたお茶会計画みたい。
なんだか楽しくなってきた。
レッドXIIIも多分乗り気。
ゆらゆら尻尾が揺れてるから、楽しそうなのがわかる。
やっぱり、案外幼い部分もあるのかもしれない。
…して、残りは無言のクラウド。
「クラウドは、どうする?レッドにお菓子、分けたげる?」
あたしはにーっと笑ながらクラウドに声を掛けた。
いやあたしが盛り上がってるから、口挟むタイミング無くしてるかもだったし。
ぱちりと目が合うと、クラウドは頷いた。
「ああ…。わかった、分けよう。ナマエ…紅茶、俺にも淹れてくれるか?」
「おっけー!じゃあ、お茶会しーましょ!」
噂の出どころ。意外な動機。
ちょっとびっくりしたけど、結果楽しくなりそうだ。
こうして、クラウド、レッドXIIIと一緒に、貰ったお菓子で小さなお茶会をしたのでした。
END