スイカのトンベリ



「とどめだ」





ビーチに現れた謎のモンスター。
なんでも屋として警備の任務を請け負っていたあたしたちはそのモンスターと戦った。

トンベリのような、スイカのような…。
ぼてっと砂浜に倒れこんだその子に、クラウドはとどめの剣を構える。

だけどその時、傍にいたエアリスがぴくっと何か反応した。





「え…誰?」

「エアリス?」





あたしはエアリスに振り返る。
するとエアリスは倒れたスイカトンベリをじっと見つめていた。





「もしかして、この子の声…?」

「え、声…?」





声?今、声なんてした?

不思議に思ってあたしはティファを見た。
するとティファもううんと首を横に振ってくれた。

やっぱり声なんてしてないよね…?

でもエアリスには確かに聞こえた様子。





「クラウド、ストップ!」





エアリスは慌ててクラウドを止めた。
クラウドは剣を引き、エアリスに振り返る。





「エアリス、どうした?」





でも、その一瞬の隙。
倒れて動けないと思っていたそのスイカトンベリはいつの間にか立ち上がって、ぽてぽてと歩き出していた。





「あっ、く、クラウド!」

「あの子、スイカを!」





気付いたあたしとティファは慌てて呼びかける。
でもスイカトンベリは屋台の近くに置いてあったスイカごと、何か変な異空間の中に消えてしまった。





「…行っちゃった」

「どういうこと…?」

「いや、ていうか何!今の何!?」





あっけというか、呆然としているエアリスとティファ。
それに対し、あたしは今急に消えたその現象に混乱する。

いやだってそうでしょ!?

今ぼわーんって消えたぞ!?
ワープ!?ワープでもした!?





「瞬間移動の魔法ポータルか…。いつまた現れるかわからないな…」

「ぽ、ぽー…?え、なに…?」

「…ポータル」





今の現象が何か知ってるらしいクラウド。
聞きなれない単語にハテナを浮かびまくらせていると、クラウドはちょっとため息つきながらも丁寧に説明してくれた。

今のはポータルという魔法らしい。
効果は瞬間移動。

どうやら本当にワープしたって事なそうな。

そんな魔法があったのか!初めて知ったわ。
またひとつお利口になりました、うん。

そうしていると、主催者さんがこちらに歩いてきた。





「なんでも屋さん、危ないところをありがとう。おかげで怪我人は出なかったよ」

「本当ですか?それならひとまずは良かったです」

「でも、取り逃がした。またヤツが現れるかもしれない」





怪我人は出なかった。
それを聞いたあたしはひとまずほっとした。

でもクラウドはどこか不甲斐なさそうに注意を促す。

真面目で律儀なクラウドの良いところだ。





「引き続き警備を頼むよ。最後まで無事にビーチフェスをやり遂げたい。ビーチフェス目当てに世界中から観光客が来てるからね」

「勿論、請け負った仕事はキッチリやり遂げる」

「はい、ご協力しますね」





クラウドとあたしは改めて主催者さんにそう伝える。
すると主催者さんも頷いてくれた。





「ありがとう!報酬は弾むからさ。ビーチと観光客の安全を頼んだよ」





そう言って主催者さんは戻っていく。

さて。警備なんていらないくらい平和だなあ〜なんて、ちょっとぽやぽやしてた頭を引き締めないと。

あのモンスター、結構しぶとくて強かった。
やっぱりトンベリの亜種とかそういう感じなのかも。

だとしたら、やっぱり放っておく…ってわけにもいかないしね。





「ナマエ、次にヤツが現れたら逃げ込まれる前に片付けるぞ」

「うん、わかった!」





クラウドにそう言われ、あたしは気合を入れるように了解する。
でもその時、エアリスが少し戸惑ったよう言った。





「クラウド、ナマエ、片付けるの、ちょっとだけ待ってもらえないかな。あのトンベリ、何かを伝えようとしてるかも。ちゃんと聞いてあげたいんだ」

「あ、さっき声が聞こえたって言ってたやつ?エアリス、あの子の声、聞こえたの?」

「うん…なんとなくだけど…」





聞くと、おずっと頷いたエアリス。

あたしやティファ、多分クラウドにもその声は聞こえなかった。
でもエアリスは前にゴーストの声もちょっと聞こえてたし、また今回もそういう感じなのかも。





「…あいつを捕らえて、聞きだしたいのか?」

「ダメ、かな…?」





不安げにクラウドに頼むエアリス。





「また隙をつかれて逃げられてしまうかもしれない…」





クラウドは少し渋る。
でもその言い分もわかる。

また取り逃がして、観光客に何か被害があったら大変だから。

だけど…、実はあたしもちょっと引っ掛かってることがあった。





「あのさ、クラウド…あたし、さっき戦ってた時、少し気になったことがあったんだけど」

「どうした?」

「うん…さっきのトンベリさ、すっごい強くてしぶとかったけど…でもこっちが手を出すまで、何かしてくる気配もなかったというか…襲われたから仕方なくって感じもしたと言うか…」

「…あいつに攻撃の意思はなかった、そう言いたいのか?」

「確証とかは、ないんだけど…」





そう、それがあたしの感じた引っ掛かりというか、違和感。

そこにエアリスの話を聞くと、ちょっと繋がるような気も…。

トンベリはかなり強いモンスター。
だから油断は禁物だけれど。

でも、もし、もしも。
何かトンベリが伝えたがっていると言うのなら。

その頼みもどうにか聞いてあげられないだろうか…って。

違和感とエアリスの言葉。
このふたつが合わさると、そんな気持ちも強くなる。

すると、そんな話を聞いていたティファが「うーん….」と考えて、ひとつ提案してくれた。





「取り押さえたら、まず瞬間移動の魔法を封じちゃえば逃げられないんじゃない?」





そう言われ、はっと皆でティファに振り向く。
視線を集めたティファは「ね!」と、笑みを返してくれる。

まず魔法を封じる!
確かにそれなら、さっきみたいに逃がしちゃうってことはなくなるかも!





「わかった、そうしよう」

「クラウド…!」

「ありがとう、クラウド!」





クラウドは了承してくれた。
あたしとエアリスはわっと喜ぶ。

よし、じゃあ作戦変更!

あのトンベリを捕まえて、話してみるってことで!





「じゃあ、見回りを再開する。行くぞ、ナマエ」

「はい!ボス!ついていきます!」

「……それはやめろ」





こうして、あたしたちは再びビーチの警備をはじめたのでした。



END



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