笑顔が見れたら



プレートの上の七番街で、少しお話しませんか?



お菓子の箱にそっと添えた、メッセージカード。
クラウドは読んでくれたかな。

なんか、ちょっとドキドキする。
これは緊張か、少しの期待か…。

そんな想いを抱えながら、あたしは駅の街灯の前に立っていた。





「ナマエ」





しばらく待つと、声を掛けられた。

絶対間違えない声。
ぱっと顔を上げると、そこには待ち人来たれり。





「クラウド!」

「悪い、待たせたか?」

「ううん!大丈夫!」






来てくれたクラウド。
あたしはすぐに駆け寄って、首を横に振った。





「へへへ、来てくれてありがと、クラウド」

「そりゃ、呼ばれたら来るさ」

「そっか!」





当り前のようにそう言ってくれる。
それが嬉しくて、あたしは自然と笑みを零した。





「それで?話って、どうした?」

「あ、うん。その前に、ちょっと移動しない?この辺はそこそこ詳しいんだ」

「ああ、昔住んでたんだよな」

「うん!あ、時間、大丈夫?忙しかったりとかない?」

「…大丈夫だから来てるんだろ」

「そう?まあ、一方的に呼び出しちゃったし、一応ね」





そういや有無も言わさずだったかなあと。
待ってるってわかったら、クラウドは放っておかないだろうし。

大丈夫だって言ってくれたなら、よかったけどね。





「……別に、あんたのためなら、時間くらい作る」

「え…?」

「だから、気にするな。…ほら、行こう」

「うん…」





一瞬、耳を疑った。

あんたのためなら…って、どういう意味だろう。

信頼はしてくれてて。
仲間、だから?

…それとも…。

…なんて事を考えると、なんとなく都合の良い話な気がするからやめた。

クラウドが来てくれた。
今はそれだけで、十分だったから。





「じゃーん!つきましたー!」

「ここは…」





駅から歩いて、クラウドを連れてきたのは公園だった。
公園といっても、子ども達が遊具で遊ぶような感じではなく、散歩をしたり、景色を眺めたりするようなタイプの場所。

昔から何かとよく来てた、あたしにとっては見慣れた公園だ。





「日中は結構人もいるんだけど、陽が落ちると静かな穴場なのです♪」





今は、ひとっこひとりいない。
とても静かな場所。

お話するにはなかなかもってこいだと思うのですよ。





「確かに穴場かもな。静かでいいな」

「でしょ?」

「ああ。そうだ、菓子、美味かったよ。ありがとう」

「あ、食べてくれた?えへへ、よかった!味見もしたし、変な物は渡してないつもりだけど、そう言ってもらえると嬉しいね!」





クラウドは先程渡した箱を手に、お礼を言ってくれた。

美味しかった。
その一言には、ほっとした。

いや、やっぱ自分で作ったからその辺はね。





「あれ、手作りだよな…?前に出来ないって言ってたけど、料理上手いんじゃないか」

「え?いやいや、出来るってのはティファみたいなののこと言うんだよ。そりゃ、スラムに来てからはひとり暮らししてたから、必要最低限はやるけど…ってあたしはそんな感じだよ」

「それは十分出来るだろ」

「ええー?まあ今回は気合い入れて作ったけどね!美味しいって言ってもらえたなら良かったよ」

「ああ、本当に美味かった。また作って欲しいくらいだ」

「え、クラウド、お世辞とか言うタイプだっけ」

「本心だ。食べ終わるのが惜しかった」

「え、ほ、本当に…?うーん、そういうこと言われると調子に乗るよ?本当にまた作っちゃおうかなーって気になってくるよ?」

「ああ、作ったら、また俺にくれるか?」

「うん、クラウドが食べてくれるなら」

「じゃあ、期待するぞ?楽しみにしてる」





あ、笑ってくれた。
なんでも屋さん、笑顔に出来てしまった。

なんか…予想以上に喜んで貰えている…?

しかもまた、次の約束みたいな…。

まあクラウド、こういうところで嘘は言わないだろうし。
喜んで貰えたなら、あたしとしては万々歳だ。





「っと…悪い、あんたの話を聞きに来たんだったな」

「あー…ううん。ごめん、別に話って言う話は無いんだ。…んー、なんていうか、ネタバラシ?」

「ネタバラシ?何の」

「へへへ…実はねー、なんでも屋を笑顔にすればって噂、あたしが流した張本人だったりするんですよこれが」

「は…?」





クラウドは目を丸くした。

へへへ、衝撃カミングアウト?
そう、あの噂の発端はあたしだったりする。

つまりは皆と話してた時もずーっととぼけてたってわけ。

でも全然バレなかったよね。

あれ、実はあたしの演技力って、なかなかのものなのでは。
絶対無理だと思ってたけど、あたしも女優になれる!?





「なにしてるんだ、あんた…」

「あはっ、まあクラウドには色々と感謝してるので、こんな機会だし何かしたいなーって思って。あんまり嬉しくなかった?」

「いや、そんなことはない…美味かったしな。けど、発想がぶっとんでないか」

「まあここだけの話、ちょっと悪戯楽しんでる感はあった」

「おい…」

「あははっ!わりと皆もノリノリだったしいーのいーの!でも、いくらこんな噂が流れたとはいえ、クラウドに感謝とかそう言う気持ちがなければ、わざわざお菓子を渡そうとか思わない思うんだ。だから気持ちは本物だよ」

「……。」

「まあ、皆もきっと、クラウドにってことなら乗ってくれるだろなって思ってたし」

「どうして」

「だって、あたしならそうだから」

「……。」





ニコッと笑う。
少しだけ、積極的な言葉。

クラウドの瞳が、少し泳ぐ。





「うん、でもクラウドがちょっとでも喜んでくれたなら良かったよ。作戦大成功!!」





結果、あたしとしては大満足だった。

クラウドが美味しいって言ってくれて。
ちょっとでも喜んでくれて。

イベントも楽しめたしね。

するとその時、クラウドもふっ…と小さな笑みを零した。





「ナマエ」

「ん?」

「俺も、噂にあやからせてもらう」

「へ?」





クラウドがその言った直後、ぽすっ…と頭に何かが落ちた。
痛くないけど、反射的に「うっ」て声が出る。

何…と触れてみると、それは小さなひとつの箱だった。
これ…お菓子の箱?

きょとんとしているあたしにクラウドは言う。





「なんだ、笑顔を期待してたんだけどな」

「え?」

「なんでも屋を笑顔にすれば、だろ?」

「へ…」





あたしがばら撒いた噂。

なんでも屋を笑顔にすれば、幸せになれる。

噂にあやかるとクラウドは言った。
なんでも屋って、あたしのこと言ってる?





「これ、ここ、すっごい美味しいお菓子屋さん…え、これ、くれるの?あたしに?」

「ああ。…嬉しいか?」

「うん!すっごく嬉しい!でも、え、クラウド、買ってくれたの?」

「ああ…まあ、買ったと言うか…いや、最初はそのつもりで店に行ったんだが、ほら、あのおかしなモンスターって出ただろ?ちょっとなりゆきであれを狩って欲しいって頼まれて…そしたらタダでひとつ選んでいいって言われたんだ」

「ああ、職人さんも追いかけ回してるって話だったもんね。でも、あたしが貰っていいの?」

「…折角だから、俺も、噂に乗ってみようと思ったんだ」

「え?」

「俺の…、…なんでも屋の助手なんだから、あんたの笑顔だって当てはまるだろ?」

「…ユフィにナマエだと効果薄そうって言われたよ」

「ふっ…なんだそれ」

「それにデマだし」

「まあな。でも、案外そうとも言い切れない」

「へ?」

「…あんたの笑顔を見るのは、悪くない」

「え…」





クラウドはそれだけ言うと、ふっと視線を逸らした。
遠くの景色を見てる。

さら…と吹いた、風が気持ちいい。

それは少し、頬の熱を冷ますからだろうか。



デマ…。案外そうとも言い切れない…。
笑顔を見るのは、悪くない…。



それって、つまり…。





「クラウド」





こっち見て、と軽く服を引く。
そうすれば流石に、視線は戻ってくる。





「お菓子、ありがとう」





あたしはそう言って、笑って見せた。



END



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