きみが世界に在れば | ナノ
 風に揺れる金色

「カインー!」





大きく両手を振りながら。
あたしはカインの名前を叫んで駆け寄る。

すると、カインはその声に気がついてくれた。





「ナマエか」

「迎えに来たよー!」

「そうか。悪いな」

「ぜーんぜん!でも、何してんの?」

「いや…少し、考え事をしていただけだ」





そう言って、カインは遠くを見つめた。
あたしも何気なく、その視線を追って、遠くを見た。

ふわりふわりと、幻のような光が舞う。
これ綺麗な光だよなあ…。ふと、そう思った時だった。





「ナマエ」

「んー?」





カインに呼ばると、にっこり笑ってしまうのはもう癖だな。
いつもの通り、笑ってカインを見上げた。

すると、カインも何だかちょっと笑ってるように見えた。ん?





「なに?」

「ライトニングに聞いたんだが…、あいつに噛み付いたらしいな」

「か、噛み付…ええ!?」





か、噛み付いたって…。

たぶんそれは…あの聖域での一件、だよな…?

いやそれにしたって噛み付いたっていうのは…。
どうなんだろう、その表現は…。

うーーーーーーん…。
そう長ーく考えていると、カインは「フッ」と笑った。





「……カイン」





その笑みを見て、あたしはそっとカインの仮面に手を伸ばした。





「やっぱり格好いいねーえ」

「……。」





竜を象ったその仮面を外すと、見えた金色の髪、優しい瞳。

綺麗だなあ、カインの髪。
優しいなあ、カインの目。

ああ、本当、大好きだ!

それを見て微笑んだ。





「ねえ、カイン。あたしも眠らせるつもりだったの?」

「……そうだな」

「…セシルも、眠らせた?」

「……ああ」

「そっか」





うーん、と体を伸ばしながら。
聞いておきながら気のない様な声で返す。

ううん。
…やーっぱり、ひとりで背負う気だったんだなって。





「ナマエ…」

「ん?」

「本当に、行くのか?」

「え?」

「いや…」





カインは一度、言葉に間をおいた。






「カイン?」

「…この先に進めば、復活は望めん」

「わかってるよ?」

「…いいのか」





この先に待っているのは、復活の望めない完全な消滅。

でも、それはお互いさまだって話よ。
だからあたしは尋ね返した。





「カインこそ、いいの?」

「俺は…」

「……。…ねえ、あたし、カインのこと怒ってるんだ」

「…何?」





目を細めて、見やる。

そう。怒ってた。
いんや、現在進行形で怒ってます。





「ひっどいよねー、カインは。勝手に決断して勝手に自分だけ犠牲になろうしてさー」

「……。」

「裏切り者って思われるなら、思われても構わないって。ううん、自分自身で。裏切り者って、自嘲してたでしょ」

「……それは」

「嫌だよ、そんなの。そんなの、許さないよ」





少し、強めに。
ちょっと睨んで。





「ま、あたしはそんなの信じないけど」





でもそれから、そう言って笑った。





「だから、どんなに裏切り者を演じても、無駄無駄」

「……。」

「ここに超盲目的にカインの事信じちゃう厄介なのがいるからね。ふふふふー」





呑気な笑い方だねえ、我ながら。

ライトニングに言われちゃったもんね。
盲目さ、改めた方がいいんじゃないかって。

でも、本当、そんな気サラッサラ無いもの。





「……知っているさ」

「ん?なんか言った?」

「いや…」





ぼそっと何かカインが呟いた気がした。

聞きとれなくて聞き返したけど、教えてはくれず。

カインはだんまり。
あの、漂う光を見つめていた。





「…ねえ、カイン」





竜の仮面をぎゅっと胸に抱く。

ちょっとだけ、かた…と手が震えてるのがわかった。

この先に待つのは…消滅。
復活が望めないとか、そういうのはよくわかんない。

ただ、単純に…死と言う言葉が頭を過る事が。





「…本当は、ちょっと怖い。この先に進むの、怖くないって言ったら嘘になる」

「…ならば」

「…ぅあーっ、ゴメン!変なこと言っちゃった!」





ごん!と頭を自分で殴る。

こんな時、弱音吐いたってしょうがないじゃん!
馬鹿か!あたしは!

あたしの取り柄はゲ・ン・キ!
リピートアフターミー!使い方へん?しらない!

あたしは元気!元気の子!



…うん、まあ。でも吐きだしたら、ちょっとスッキリしたかも。





「あたし、眠りたくない。…カインだって、止めても眠る気、無いんでしょ?ここまで黙って動いた覚悟は、並大抵はじゃない…よね?」





自分の身に迫る消滅も怖い。
…カインに迫る消滅も、すごく怖い。

でも、きっと、カインの覚悟は…。
それはわかるから。

だから。





「…あたし、怖くても何でもさ、ここで眠ってしまうことが何より一番嫌だ。皆のこと…カインのこと、そのままにして眠るなんて絶対御免」

「……。」

「もしここで眠って、次の戦いで今思ってることを忘れてしまうとしても…、今思ってることが、無駄な想いなんて思いたくないよ。今の気持ち、大事にしたい。だから眠りたくないし、あたしにも出来ることあるなら、したいから」

「…ナマエ」

「えっ…?」





するとその時、そ…とカインの手が肩に触れた。

不思議に思って、顔を見上げれば大好きな、その瞳と目があう。
つい、ドキンと大きく心臓が飛び跳ねた。

…や、いつも抱きついてるくせに何言っちゃってるんだって話なんだけどさ。





「カイン?…どうしたの?なに?」

「ナマエ……俺は、」

「…ん…?」





カインは何か言いかけた。

でも、すぐ噤む。
開きかけた口を閉じて、黙ってしまう。

しばらく沈黙が続く。


そのままカインの手は…離れた。





「…そろそろ行かねば皆、しびれを切らすな。それも返せ」

「え!あっ」




パッと仮面をあたしの手から取って、歩きだしてしまう。

ていうか…え!?
なに!?いまのなに!?
なに何事も無かったかのように歩きだしちゃってるの!?

あたしは慌ててその背中を追いかけながら、聞いた。





「カイン!なに!なに言いかけたの?」

「…いや、気にするな」

「あそこまで言ったら気になるよ!」

「大したことではない」

「でも気になる!」

「ならば忘れろ」

「ええ!?」





なにそれ!なにそれ!なにそれ!?
言いかけといて、そりゃ無いんじゃない!?

でも、もうどんなに粘っても教えてくれる気はなさそう。

仕方…ない、かなあ。
なんか気になってモヤモヤするけど。

まあ…確かに皆も待ってるだろうし…。
ヴァンあたりに「遅いぞ」って言われそうだ。





「カインのケチー」





諦めて、おとなしく歩きだした。



To be continued


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