きみが世界に在れば | ナノ
 信じるもの

パシャッ…
駆け出すと、水の跳ねる音。

白い印象の強いその場所は、秩序の聖域。





「コスモスー!ただいま戻りました!」





その中心に構える調和の神コスモス。

聖域に辿り着いたあたしは真っ直ぐその元へと駆け寄った。





「ナマエ」

「君か」

「はーい!…っと、もしかして、ここにいるの、貴方だけですか?」





迎えてくれたのは、コスモスと光の戦士ウォーリア・オブ・ライト。

あたしの問い掛けに、彼は頷いた。

聖域に居たのは二人だけ。
彼を抜く他の戦士の姿はここにはない。

あっれ。誰かしら戻ってきてると思ったんだけどな…。





「まだ皆戻ってないのか…。あたし、ライトニング達と居たんですけど逸れちゃって。一度戻ってきたんです」





ここに至った経緯を簡単に説明する。

すると、間もなく…後ろからまた水の音。
誰かの足音が聞こえてきた。





「あ!ライトニング!」

「ナマエ…、無事だったか」

「うん!ライトニングも!」





足音の正体はライトニングだった。

彼女はカオスの戦士との戦いを買って出てくれた。
あたしは無事を喜ぶように、ライトニングに笑いかけた。

ライトニングは、先程のあたしと同じように辺りを見渡し、あたしに尋ねてきた。





「他の奴らは?まだ戻ってないのか?」

「うん、みたい。ヴァン達とは逸れちゃって。一人で戻ってきたんだ」

「そうか…」





それだけを確認すると、ライトニングはコスモスに向き直る。
そして、状況報告をはじめてくれた。





「戦いは酷い有様だ。イミテーションと呼ばれる人形が大量に湧いている。その全てが私たちの敵だ」





イミテーション。
それは、倒しても倒しても減る事を知らない無限の軍勢。

嫌んなっちゃうよねえー、まったく…。
はー、やれやれ…と、息をつく。

でも、ライトニングが次に続けた言葉にあたしは…何かが弾ける様な感覚を覚えることになった。





「そして、何のつもりか知らないが、カインの奴が仲間を倒して回っている」

「…え…?」





その言葉に、口から零れ出た小さな声。

…カインが、仲間を倒して回っている?
一瞬、意味がわからなかった。





「一緒にいた奴ら共逸れた。あいつらが無事かどうかもわからない」

「…あ…!」





その時、コスモスの顔色が急に変わった。
あたしたち3人はコスモスに視線を集める。

するとコスモスは胸に手を当て、悲しそうに俯いた。





「ジェクトが…弱っていた彼の気が、消えました」





その言葉に、全員の顔色が変わった。

ジェクトは…同じ世界から来たとユウナが良く頼りにしていた男だ。
気立ても良くて、カインに懐くあたしを見てはよく豪快に笑っていた。

…そのジェクトが…?





「…消えた?カオスの戦士にやられたのか」





そう言った彼の言葉に、ライトニングは吐き捨てるように返した。





「フン…どうだろうな。仲間を疑った方が早いんじゃないのか?」

「…カインの、ことだと?」





コスモスが悲しげに言う。
その言葉に続くように、あたしはライトニングの前に立った。





「ちょっと待ってよ!ライトニング!カインはそんなこと!」





言い返すあたしをライトニングは捉えた。
すごく、鋭い目つきで。

そして、静かに言う。





「消えたのはジェクトだけでは無いはずだ」

「そんなはずありません…。他の戦士たちはまだ皆…」

「無事だとでも言うつもりか!現に退却してきたのは私とナマエ、それにそいつだけだ!」





コスモスの言葉を強く否定するライトニング。

カインが皆に手を掛けた…?
あたしは首を振った。





「ライトニング!カインは!」

「私はこの目で見ている。仲間が倒れているのも、奴が仲間を手に掛けようとする姿も」

「嘘!」

「嘘ではない!現に私はあいつと剣を交えた!」

「でも!」





互いが互いを強く見やる。
睨むような視線がぶつかる。





「お前はカインに好いている。その盲目さ、改めた方がいいんじゃないのか?」

「改めない!あたしはカインのこと信じてる!」

「なら、お前は私を疑うのか」

「そういうことじゃなくて…!」

「じゃあ何だと言うんだ!あいつを信じる根拠はどこにある!?」

「根拠…?」





カインを信じる、根拠…。

聞かれたそれを、あたしは迷うことなく強く答えた。





「根拠はあたし自身だよ!」

「…なに?」

「カインを信じる根拠はあたし。あたしは、元の世界でもずっとカインの事見てた。ずっと…馬鹿みたいにくっ付いて…。だから、カインの良いところなら、誰よりも知ってる!」





言い切れるよ。

だってカインは…生真面目で、だからこそ無器用で。
何でも一人で背負いこんで…。
無関心に見えても本当は…誰かの為に、自分を押し殺すんだ。

そんな姿を見て…あたしは、カインを…。
カインのこと…支えてあげられたら…って。

だから…カインは、裏切り者なんかじゃない。





「カインは、心から仲間を裏切るなんて絶対しない!」

「……。」

「…ライトニングが剣を交えたというのなら、そこには…絶対理由があるよ。あたしは…そう信じてる」





真っ直ぐに、言い切った。





「…勝手にしろ」





言い切ったあたしに、ライトニングはそう言って視線を背けた。





「だがな…このままではクリスタルを得る前に、私たちは負ける。こんな世界で力尽きるなんて…」

「お前の言うとおりだ。我々は負ける」





チャキ…
その時、剣の音がした。

え…。
その瞬間、映った光景に目を疑った。

剣が向く先は…、ライトニング。
向けているのは…ウォーリア・オブ・ライト。





「何を…!」





コスモスすら目を見開く。

ライトニングは、自身に刃を向ける彼を強く睨む。





「…貴様もカインと同じか。どういうつもりだこの裏切り者が!」

「ライトニング!」





そして彼女自身も、彼に剣を突き付けた。
あたしがとっさに止めても、2人は剣を引かない。





「ねえ、貴方もやめて!ねえ!なんでこんなこと!」

「それは今、お前たちが知ることではない」





彼の声は、低く、聖域に響いた。


To be continued

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