きみが世界に在れば | ナノ
 目覚めた世界で

神々の戦いが繰り広げられている世界。

調和と混沌。
それぞれを司る二人の神は、異世界に生きる者たちを己の戦力として召喚した。

召喚された者は、帰る術と記憶を失って、主となる神へと仕えなくてはならなくなる。

あたしはそんな世界で…調和の神の戦士として、目覚めた。








「おいおい、えーっと?ライトニングだったか?」





ひとり凛と佇むは、淡い髪を持つ女性。
声を掛けられた彼女は、不服そうに視線を動かした。





「なんだ」

「そうカリカリすんなよ。誰だって、来たくて来てるんじゃねえんだ」





彼女に声を掛けたのは、大きな黒い剣を持った大柄な男だった。
ライトニングと呼ばれた彼女は、彼に鋭い視線で答えた。





「来たくて来ているわけじゃない、と言うだけで…見ず知らずの人間にうるさいことを言われなければならないのか?」

「まあ、アイツの言う事だってよ、別に間違っているわけじゃないだろ」





ふたりの会話は互いの事ではなく、あるひとりの人物についてだった。





「ジェクト、と言ったな。それなら私の言っている事が間違いだと言うのか?」





大柄な男の名前はジェクト。
彼の今の一言は、どうやら彼女の癇に触れてしまったようだった。

ライトニングの視線は、更に鋭いものにへと変化した。





「八つ当たりは止そうぜ。なあ、えーっと…」





ジェクトは頭を掻きながら、他に同意を求める様に視線をチラリと向けた。
その先にいたのは、竜を象った鎧に身を纏う細身の男。





「カインだ」





ジェクトが呼び方に悩んでいることを察した彼は、己の名を名乗った。

よく出来た人です。
ええ、本当に。





「ああ、何か言ってやれよ。最初っからこんな調子じゃあ…なあ?」





ジェクトに助けを求められた彼は腕を組み、ライトニングに向き直った。
そして、落ち着いた格好いい声で語りかける。





「ライトニング。ある意味お前の言い分は正しい。俺達はまだ、互いの力を知らん。そこには協力も信頼も生まれるわけがない。ならば、奴と行動を共にし、その実力を見極めてはどうだ?」

「何…?」





カインの提案を聞き、眉を潜めるライトニング。
そこで、あたしは飛び出した。





「やーん!さすがカイン!やっぱ言う事違うよねえ!」





カインの背後から飛び出して、ぎゅうっと腕に抱きつきながら明るい声でそう言った。

すると、何故か静まり返った。

ライトニングとジェクトは目を見開いてあたしを見てる。
一方、カインは抱きつかれてる方とは逆の手で頭を抱えていた。

…………アレ?





「…ナマエ、離れろ」

「やだ」

「………ナマエ」

「…ちぇ」





低い声で怒られた。

おおーっと。
おふざけはこれくらいにしておくか。

あたしはしぶしぶ仕方なく、カインの腕から手を離した。





「…カインさんよ、お前、面白いの連れてんなあ…」

「…コイツの事はあまり気にしないでくれ」





しげしげとあたしのことを見てくるジェクトに、何故か余所に追いやろうとしてくるカイン。

ちょっと待ってカイン!
自分で言うのもおかしいけど、あたし今存在感ばっちりだと思うんだよね!?
追いやるのきっと凄い不自然だと思うの!





「カイン待って待って!追いやらないで!」

「ならば騒ぐな」

「なんつーか…慣れてんな、お前たち。もしかして同じ世界の出身か?」

「うん!ちなみに幼馴染みなんだよ〜」





えへへへ〜と笑えば、ジェクトは「ほー」っと納得していた。
なんか見た目はちょっと厳ついけど、実はいいおいちゃんタイプなのかもしれない。





「まあとにかく、今はアレだよね。ライトニングとあのキラキラ眩しい彼の話だよね。続き話そう、続き!」

「…お前が話の腰を折ったんだろう」

「…てへ」

「誤魔化すな」

「でも、本当にいいアイディアだと思うんだ」





カインに頭を小突かれながら笑い、あたしはライトニングに向き直った。
淡いピンクの髪から覗く瞳に、すっごい訝しげな顔されちゃったけど。あはは…。

確かにあたしが遮ってしまったけど、話はライトニングとあの眩しいキラキラとした真っ直ぐな戦士のこと。





「えーっと、ライトニング?あたし、あの眩しい彼がどんな人なのかまだよく知らないけど、貴女の事だって知らない。とりあえず第一印象はすっごく自信満々で格好いいなあ…って思ったけど」

「……。」





ライトニングはだんまりだ。

でも本当に彼女の印象はそんな感じ。
ぴしりと背筋が伸びていて、キリッとしてて格好いい。

だけどあくまでも、それは第一印象。





「だけど実際はまだわからない。本当に強いのかなって気持ちもあるし」





実際ここにいる4人だと、あたしはカインのことしかよくわからない。
どれくらい強くて、どんなことが出来るのか。

カインも言いたいのはそういうことなんだろう。
付き合いは伊達じゃない。カインの考えならそれなりにわかる。

現にカインは頷いた。





「そう言う事だ。何かあれば俺達が間に入ればいい。仮にそこで勝敗が着くなら、上に立つ者も自ずと決まる」

「俺達って…俺も混ぜられてんのか」

「だって言いだしっぺ、ジェクトだよね?」

「…まあ。そーだがな」





あたしが「ふふっ」と笑いながら言えば、ジェクトはまた頭を掻いた。
その様子にライトニングは不満そうだった。





「勝手に話を進めるな。お前達に取り仕切られる覚えは無い」





そう言い残すとライトニングはあたしたちに背を向け去って行こうとした。

でも、そこですかさずカインは添えた。





「試される自信はない、と言う事か?」





その言葉に、ライトニングの足は止まった。





「先程ナマエが言った事と同じだ。そうだな…お前は今、このナマエのことをどう思う。足手まといになりはしないかと考えてはいないか?」

「……………。」

「知らんだろう?こう見えて、ナマエはなかなか頼りになる」

「カイン…」





カインはそう言いながら、あたしの頭を撫でた。

…頼りになる、だって。
なんだか少し嬉しくなって頬が緩んだ。





「しかしお前の場合は…、そこまで反発するほど腕の立つ人間なのかどうか、俺もわからんのでな」

「……………。」





…少し挑発するように。
でも、し過ぎない。

上からは決して言わず、最後に…落とす。




「力を見せてほしい」




カインがそう言った瞬間、誰かの走ってくる音が聞こえた。

噂をすれば…だ。
それはあのキラキラの彼だった。





「気をつけろ!敵が来る」





こうして、一度ライトニングは彼と行動を共にすることを決めた。
迎え撃つように、彼と敵の中へ駆けていく。

残ったあたしはカインとジェクトと行動をすることになった。

まあもともと何かしら理由が無い限り、あたしはカインから離れる気も無かったけどさ。





「ホント策士だよね、カインって」

「本心を言ったまでだ」





ライトニング達が去った後、あたしはカインに笑いかけた。

いや、だってまだ出会って間もないライトニングの出方を詠みながらあんなこと口にしたわけでしょ?

確信してやってるのにそれは言わないんだ。
ああ、そんな謙虚なとこも素敵だな!カイン!




「もう、惚れ直すよ!ねえジェクト!」

「それを俺に振るのか。まあ、ナマエちゃんとコイツの関係性はだいぶ読めてきたがな」





羨ましいじゃねえか、とジェクトはカインを肘で小突き始めた。
そんなジェクトをカインは何を言う事も無く軽くあしらっていたけど。





「ナマエ」

「はーい?」





カインが呼んでくれれば自然とにこやかになる。
これはもう癖というか、しょうがない!





「戦い方まで忘れた、とは言わせんぞ?」

「勿論だよ!カインの期待、裏切らないよう精一杯やらせていただきます!」

「ああ、背中は任せる」

「了解っ!」





知らない世界。
靄の記憶。

だけど、あたしは…カインがいてくれれば、それだけで心強かった。



END

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