きみが世界に在れば | ナノ
 絶対の味方

《何があっても、何をしても。絶対、あたしはずっとカインが好き。大好きだよ》





月の浮かぶ夜…城のテラス…。
見慣れた、でも…どこかいつもと違うようにも思えた…そんな微笑み。

刻まれた…俺の、元の世界の記憶。








「ふーっ、結構やっつけたねー!」





短剣を腰に収め、グイッと額の汗をぬぐったナマエ。

無邪気に笑うその顔からは、足元に倒れるイミテーションを今しがた一掃してみせた人物とは到底思えない。

昔馴染みながら、本当大した奴だと思う。





「ほとんどひとりで倒したな。俺はアシストしかしていないぞ」

「いやいや、カインのアシストあってこそですよ!えへへ、やっぱカインは強いよね〜。すっごい助かったよ!」





彼女の笑みは、記憶に影のあるこの世界でも…よく見慣れたものだと知っていた。

ナマエ…。
俺と同じ世界からやって来た、子供の頃からよく知る少女…。

共に育ち、俺によく懐いている…互いにそう気兼ねない、気の知れた存在。

俺たちは今…ひずみを解放するついでに、この世界に無数に沸く人形…イミテーションを何体か相手にしていた。





「ふふ、本当だいぶ倒したよね。ね、そろそろ聖域に戻る?」

「ああ…そうだな」

「皆も戻ってきてるかなー。お腹も空いたし、戻ったらご飯たーべよー!」





そう言って、笑顔で…本当に無邪気な顔をして、ナマエは聖域の方へと歩き出した。
完全に安心しきって、疑いなど欠片もせず…俺に、背を向けて。





「……。」





その背を見て…俺はぐっと、手にある槍を握り締めた。

今、俺がこれを振るえば…ナマエは簡単に倒れるだろう。
疑いの無い隙だらけの小さな背中は…その事実を物語っていた。
俺が今…何を考えているとも知らず。

……なぜ、お前は俺を…そんなに信用するのだろう。





「カイン?」





ナマエが振り向いた。
恐らく、いつになっても歩き出さない俺を不思議に思ったのだろう。

首を傾げ、俺に変わらぬ笑みを向けてくれた。

その顔を見ると…胸がズキリと音を立てた。
そして同時に、槍を握るに込めた力が、するっ…と緩んでいくのを感じた。





「戻らないの?あたしお腹ぺこぺこなんだけどなあ」

「…ああ、戻るか。お前の腹の虫がなる前に」

「んふふ!ぜひそうして頂けると助かります!」





そうしてナマエは再び、俺に背を向け機嫌よく軽快な足取りで聖域へと歩き出した。

……俺はきっと今、ためらったんだろう。
ナマエに槍を向け、眠らせてしまう事を…俺は、確かにためらった…。

本当は、眠らせてやらねばならないのに。
そうして希望を…次へと繋げねばならないのに。

俺は…ためらってしまった。





《何があっても、何をしても。絶対、あたしはずっとカインが好き。大好きだよ》





俺の脳裏に刻まれた記憶…。

月の浮かぶ夜…城のテラス…。
見慣れた、でも…どこかいつもと違うようにも思えた…そんな微笑みを俺に向け、そう言ってくれたナマエ。

ナマエは言うのだ…。
俺が何をしても、どうなっても…信じている、と。

正直不思議だった。
どうして俺をそこまで…。

昔からの馴染みだとは言え…俺は、そうまで思って貰えるような人間では無いのに…と。

でも…どこまでも真っ直ぐにお前は俺に言う。
だから、俺も…思ってしまうのだ。

俺は…コスモスの戦士を眠らせ、敗北へと導く裏切り者だ。

何を思われてもいい。
それで、次に勝利を生む可能性が生まれると言うのなら…。

しかし…ナマエだけは。
お前だけは…俺を、信じてくれるのだろうか…と。





「カーインってばー!!」





ナマエが呼ぶ。
俺の名を、目一杯に。





「…ああ、今行くさ」





俺はそう返し、ゆっくり歩き出す。

…いつか、眠らせねばならない日は来る。

しかし、きっと…お前は、最後まで俺を信じてくれるだろう。
まるで自惚れか。でも…不思議と、想像出来てしまうんだ。

お前が…俺を信じると、言い切る姿が。

違うものだな…。
誰か一人、そう…絶対に味方がいてくれるというのは。





「少しは落ちつけ。つまらぬ小石に足を取られるぞ」

「えへへ、はーい!」





…だから、願わくば…もう少しだけ。



END

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