きみが世界に在れば | ナノ
 戦う理由

「クーラウド!」





立ちつくし、どこか遠くを見つめている青い瞳。
そんな彼にそっと近づいて、ひょこっと顔を覗き込んだ。





「…ナマエか」

「反応薄いなー。もうちょっとビックリするとかないの?」

「足音聞こえたぞ」

「嘘?!」





ゆっくりゆっくり、そっと近づいたはずだったのに。
どうやらお見通しだったらしい…。くそう、非常に残念だ。

そんな風に悔しがるあたしに構うことなく、クラウドはやっぱりどこか遠くを見ていた。

…ま、あたしも別に脅かすために近づいたわけじゃないから、いいんだけどね。





「戦う理由、見つかった?」





覗き込んだまま、尋ねた。

そう、本題はこれだ。
クラウドは、この世界で戦う理由を求めていた。

世界を平和にするため。
元の世界に帰るためとか、記憶を取り戻すため。
でも、それらの理由はどれも曖昧で。

だから、自分の中にある…確かな戦う理由を。





「いや…」





でも、クラウドは首を振った。

ううん、まだ見つからないか。

ティーダはカオス側にいるお父さんとの決着。
フリオニールはのばらの咲く世界が見たい。

理由はそれぞれ、でもちゃんと理由を持ってる。





「ナマエはどうなんだ?」

「ん?戦う理由?」

「…ああ」





うーん、と体を軽く伸ばしながら、クラウドと同じように遠くを見つめる。

あたしがクラウドに声を掛けた理由は、そこにあったから。





「ううん。ていうか本当はね、あたしもクラウドと似てるんだよね。ちゃんとした理由、ないんだ」





苦笑いする。
そう、クラウドに言われるまで、ちゃんと考えなかったけど。

あたしも、はっきりした理由がないのだ。





「…じゃあ、どうして戦ってるんだ?」

「どうなのかな…。あたしね、この世界に来てからなんとなく…胸にぽっかり穴があいてる気がするんだ」

「穴?」

「なんて言うのかなあ、喪失感っていうの?」

「喪失感…」





そう正直に話すと、クラウドは何か難しい顔をした。
そして、頷いた。





「…なんとなく、わかる気がする」

「え、本当?」

「ああ」

「…そっか。…なんだろうねー、これ。曖昧な部分の記憶のせいかな?理由考えると正直そのくらいしか思い浮かばないんだけどさー」

「…わからないな」

「だよね。…なんだろう。でも漠然とね、この戦い…終わらせなきゃいけない気がするの。あえて言うならそれが戦う理由、かな…。なんでそんなこと思うのか、その理由は、わからないけど…」

「……。」

「ああーっ、なんか頭回ってくるー!」





がばっ、と頭を抱えて悩む。
ぐーるぐーるぐーるぐーる…ああ、なんかモヤモヤするっ!

…ただ、ぽっかりと…大切な何かを失ってしまった様な…。
とっても大切な何かを…。


それと、あとひとつ。
そんな気持ちを余計に掻き立てるものがある。





「ナマエ」

「ん?」

「…あんたは、あのイミテーションの中に知ってる奴が居たりするか?」

「え」





びっくり。すごい偶然。
ちょうど考えていたこと、クラウドは良い当てた。

…て、ことは。
つまりクラウドにも心当たりあり!ってことなんじゃないかな。





「クラウドはいるの?」

「…ああ。記憶の中の…この世界にいないはずの、な」





クラウドは頷いた。
ああ、やっぱりだったか。

イミテーションの中には、見慣れない…コスモスにもカオスにもいない戦士が何人か混ざってるから。





「それって、あの雷放ってくるお姉さん?」

「…いや」

「んー、じゃあマシンガン乱射してくる奴。あれ逃げるの大変だよねー」

「そいつでもない」

「えー、それじゃ召喚獣操りまくりな女の子?」

「…違う」

「えーと…、炎出したり水放ったり地面盛り上がらせたり風起こしたりな…」

「違う」





おお、ことごとく外れましたな…。
最後の違うとか、物凄い即答されちったぜ。

…てえことは、あのイミテーションかな?





「じゃあ、あの格闘技のお姉さんだ!」

「……あんたは、あの竜騎士が知り合いなんだな」

「あれ、よくわかったね?」

「あのイミテーションが現れるたび、一瞬目を見開くからな」

「え!まじすか」

「ああ」





うわーお…。衝撃の事実を知ってしまった。
ていうか、分かりやす過ぎるなあ、あたしってば…。

でも確かに、身に覚えがある…。ははは…。





「だって戦い辛いんだもん。偽物だってわかっててもさ」

「……。」





空に飛び上がる竜騎士。

元の世界の記憶と…まったく同じ。
槍の回し方、踏み出す足、何もかも。

ここにはいないのに…。
どうしてイミテーションが居るのか…。





「それに…なんか、悲しくなってくるんだ…よね」

「……。」

「ただ…なんとなく、だけど」





すごくすごく…。
無性に、会いたいって思う。

だから、あのイミテーションは苦手だ。





「ね、クラウドの髪ってさ、綺麗だよね!」

「髪?」

「うん!綺麗な金色!」





なんか、気分が落ちてきたな…。
だから頭を振って暗い気持ちを振り払って、ニッと笑った。

そしてクラウドの髪を見上げた。

きらきらの金色。大好きな色だ。
うん、とっても綺麗。





「さらさらだったらもっと完璧」

「何が」

「何かが」





あっはっは!クラウドはすんごいツンッツンだもんなー。
けらけら笑えば、クラウドは顔をしかめていた。


…でも…まあ、そうだな…。





「見つかるといいね」

「…戦う理由か?」

「うーん、」

「…?」

「いろいろ、かな」



END

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