きみが世界に在れば | ナノ
 裏切り者と呼ばれても

「カインひとりで大丈夫かな……」





ふと、足を止めて呟いたヴァン。

エクスデスとゴルベーザを前に、ひとりで食い止めることを買って出てくれたカイン。
あたしは振り返って、ヴァンに向かって力強く言った。





「だいじょーぶ!カインは強いよ!おまけに格好いい!」

「…おまけ関係無いだろ」

「…うるさいな。いいじゃんよー。とにかく、大丈夫ったら大丈夫!」





繰り返し、うんうんと頷く。

そう、カインは大丈夫。
ちゃんと、後を追うって言ってた。だから、大丈夫。






「ねえ、ずっとこの世界で戦い続けてたら私たちの記憶は全部戻ってたのかな」





確実に近づく次元の扉。

その時、ティファが空を見上げてぽつりと呟いた。





「カインの話を信じるならな。思い出せたところで意味なんてないが。不安か?ティファ」

「ううん大丈夫。何かが不安って思うほどの記憶はないもの。逆にね今はみんなといるからすごく安心する。仲間と一緒なんだって思えるから」





ライトニングがそっと尋ねると、ティファは首を振り、微笑んだ。

…そうだ。
確かティファは、元の世界の記憶をほとんど持っていないと言っていた。

それに比べると…あたしは、わりと覚えている方なのだろう。

セシル、ゴルベーザ…そして、カインのこと。
少なくとも、同じ世界から来た人のことは覚えてる。

…もし、それすら覚えていなかったら。
きっと、すごく怖いと思う…。

だって、おぼろげな部分の記憶は…あたしも不安だもん。






「ああでも……ちょっとだけ怖いかな。私にとっての仲間は皆だけなのに、皆には皆の記憶の中にもっと大事な仲間がいるのかなって思うと」

「…ティファ」

「ねぇ私、皆と仲間なんだって思ってていいのよね?ここにいる皆とも眠ってる皆とも」

「馬鹿だな〜当たり前だろ?今さらそんなこと聞かれる方がおじちゃん悲しいぜ」

「ここで一緒に戦った記憶は何よりもはっきりしてる。私にとってもそれはいちばん大事な記憶だ」





不安を見せるティファに、ラグナやライトニングが優しく答える。

でも、本当にその通り。
それって、ここにいる誰もが思ってること。

あたしはティファに駆け寄って、がばっと抱きついた。





「ティファー!」

「わっ、ナマエ?」

「ティファ好きだー!」

「…え?」

「…って、あの海岸から叫んでも良いよ?」

「ふふっ、なにそれ」





ティファに笑われた。

いやいや至ってあたしは大真面目!
そう意味を込めてグッと親指立てた。

そしたら、ティファの笑みは悪戯が思いついた様なものに変わった。





「でもナマエの場合だと…、カインには敵わないんでしょう?」

「…うぐ…、痛いとこ突いてくるな…」

「ふふふっ!」

「…あははっ!」





ふたりで、笑った。

最初、出会ったときは…こんな風に冗談言いながら笑うなんて、出来無かったよね。
それが今は、こんなにも。

だから、あたしたちはちゃんと仲間だ。


すると…、ティファはそっとあたしの頭に手を置き、優しく撫でてくれた。

んん?いきなり何だー?
と思い、見上げれば…ティファは変わらず笑っていた。





「もしかしたら、カインが裏切り者と思われても動けたのは…ナマエが居たからかもしれないね」

「え?」





そして、撫でられたままそんなことを言われて、きょとんとしてしまった。





「カイン、全然話してくれなかったの。聞いても聞いても、話せることはないって言うだけ」





ティファは、あたしたちと合流するまでカインと行動してたって言ってたっけ。

ん、そういえばカイン言ってたなあ。
「ああ見えて、ティファは相当頑固だな」とか何とか。





「カイン、さっき言ってたよね。ナマエに、信じてくれるんだろう?ってさ」

「え、うん…?」

「それ聞いて思ったの」





首を傾げたあたし。
ティファは、瞳を細めて…柔らかく微笑んだ。





「きっと…何があっても自分のこと信じてくれる人が…、ナマエは信じてくれるだろうってわかってたから。だから、汚れ役を買うことが出来たんじゃないかな?」

「…え…っ」





それを聞いて、一瞬言葉が出てこなくなった。

それは、あくまでティファの意見だ。

でも…なんだか、少しだけ…。
少しでも…あたし、カインの力に…なれたのかな、って。





「…そう、だったらいいな」





馬鹿みたいにひたすら信じていること。

それしか出来なくても、それが本当に。
ちゃんと、力になれたなら…。

想いが欠片でも届いたなら。

それなら良いなって、思った。



To be continued



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