ずっとずっと大きい気持ち
「ほれ。これで63階のリフレッシュフロアまで行けるぞ」
ドミノ市長にそう言われ、クラウドは更新されたカードキーを受け取る。
あたしたちは今、裏でアバランチと組んでいるのだというドミノ市長の部屋を訪れていた。
ヴィジュアルフロアを出ようとした時、あたしたちは機械の故障で部屋に閉じ込められてしまった。
そこに助けに来てくれたのが、ドミノ市長の使いだというハットさん。
ハットさんに連れられドミノ市長の元を訪れると、そこでドミノ市長とアバランチの関係と、更に上の階に行くためのカードキーを持つ協力者の存在について教えてもらえた。
ドミノ市長の部屋で行えるカードキーの更新は63階まで。
64階へ行くためのカードキーは63階にいる協力者から受け取れと、いわばそういう話。
「これで64階のミーティングフロアへ行ける。エレベーターも使えるぞ。あんたら、一体なにしようってんだ」
「仲間を助けに来た。神羅の研究施設に捕まってる」
「宝条博士の所か。そりゃあ大変だ。あそこは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
ドミノ市長の部屋を後にし、次は63階リフレッシュフロアにて協力者さんを見つける。
協力者さんはカードキーの他に、そろそろ重役会議が始まる時間であることや、それを覗き見る方法、宝条博士の研究施設は関係者以外立ち入り禁止だという色々な有益情報を聞かせてくれた。
どんどん、核心に迫ってきている。
このあたりで、そういう実感が強くなってきた気がする。
ビルに潜入した時点で緊張はあったけど、セキュリティがだんだん厳重になってきたからかな。
手ごたえみたいな…そういうのもあったのかもしれない。
「クラウド、次は会議を覗き見るの?」
「ああ、敵情視察だ」
協力者さんと別れ、クラウドに声を掛けると彼は頷いた。
神羅の重役会議。
その会議室は男性用トイレのダクトパイプから覗けるとかなんとか。
そうしてリフレッシュフロアを出ようとしたとその時、前方からふたり組の神羅兵がやってきた。
「っ」
クラウドが警戒したのがわかった。
この神羅兵たちはリフレッシュフロアにやってきただけで、別にあたしたちに近づいてきたわけではない。
でもあたしたちの格好、あんまり社員って感じでもないし…。
嫌な予感は的中。
ひとりの兵士があたしたちに気付くなり、ハッと警戒して銃を構えようとしてきた。
でも、その行動を止めたのは、もうひとりの神羅兵だった。
「クラウド?クラウドだよな?」
「…え?」
「クラウド!」
銃を止めてくれた方の神羅兵は、クラウドを見て嬉しそうな声を上げた。
…クラウドの知り合い?
まあ、クラウドは神羅にいたんだから、知り合いがいてもおかしくはないだろう。
「大丈夫、同期のクラウドだよ!良かった、生きてたんだな!心配してたんだ!死んだって噂があったから」
銃を構えた方の神羅兵の人にも説明しながら、彼はクラウドとの再会を喜ぶ。
同期のクラウド…。
クラウドにも兵士の時代があったんだろうか。
ソルジャーって、兵士を経てなるものだったりするのかな。
なんにせよ、これなら通報とかの心配はないだろうか。
あたしはそう思いながらクラウドを見た。
だけど、その時の異変に気が付いた。
「…っ」
少し、顔を歪める。
それは戸惑いにも似ていて。
そして頭痛がしているみたいに、また、頭を押さえてる。
…また、頭痛。
「ちょっと待ってろ!カンセルたちも呼んでくる!ここにいろよ!」
神羅兵はクラウドにそう言い残すと、その場を離れていった。
もうひとりの神羅兵も一緒に。
クラウドの方は、まだ頭を押さえたまま。
「知り合いか?」
兵士が離れたことを見計らって、バレットが聞いた。
でもクラウドは首を横に振る。
まだ頭を押さえたままの様子に、ティファが気遣うように声を掛けた。
「大丈夫?」
「ああ…」
「だって今…」
「問題ない、先を急ごう…」
クラウドはそう言いながら頭から手を離した。
…頭痛、治ったのかな。
まだなんとなくは、引っかかってる感じがありそうだけど。
でも、あたしはなんとなく…何も言えなかった。
どうしてだろう。
…自分でもよくわからないけど、何故だかあまり突いてはいけない気がして。
「うん。平気そうなら、行こうか。あの人たち戻ってきてもややこしくなっちゃうしね」
「ああ…」
あたしはふっと笑い、それだけを言った。
クラウドも頷いてくれる。
こうしてあたしたちはあの神羅兵たちが戻ってくる前にその場を離れることにした。
でも、神羅で知り合いかあ…。
あたしはふと、そんなことを考えた。
「ふむ…」
あたしはお父さんが神羅に勤めていた。
でも、あんまり知ってる人っていないな。
それこそ一番にパッと出て来るのも、あの財布を探してくれた兵士のお兄さんだし。
そういえば、あのお兄さんはまだ神羅に勤めてたりするんだろうか。
案外今近くに…。
このリフレッシュフロアにいたりして、なーんて。
「ナマエ…どうした?何か気になるのか」
「え?」
ちょっとだけ辺りを見渡した。
するとそれをクラウドに見られていたらしく、声を掛けられた。
「何か探してるのか」
「あ、ううん。そんな大したことじゃないよー」
「…あんたの思い出の、神羅兵か?」
「へっ?」
なんと。
どんぴしゃり。
言い当てられてちょっとビックリ。
「凄いねクラウド!?エスパー!?」
「…そんなわけないだろ。神羅兵を見たから浮かんだだけだ…」
「あははっ、あたしが神羅で知ってる人って誰だろうって思ってさー。そもそも今もまだ勤めてるのか知らないけどね」
「…会いたいのか?」
「うーん、そうだなあ…まあ、会いたいといえば会いたいかも」
「…そうか」
「うん、だってクラウドにも見てみて欲しいし」
「え?」
「ほら、そっくりでしょって!絶対納得すると思うんだよなー」
そう言うとクラウドは目を丸くした。
あたしはくすっと笑った。
「えへへ、もしかしてちょっぴり妬きました?」
「…言うようになったな」
「へへへー!…って、ごめんね。そりゃ、気分はよくないよね。全然、もうそういう感じじゃないんだけど…」
そこは謝った。
だってもし逆だったとしたら、あたしだってモヤモヤするだろう。
でも、本当にもうそういう気持ちはないわけで…。
「いや、あんたがその思い出を大切にしてるのは知ってるからな」
「…クラウド」
「…初恋の相手、だろ?その…ずっと、好きだったんだよな?」
「うーん、ずっと好きって言うか…まあちょっと特別な思い出には違いないけど…でも、思い出として大切にしてるって言う方が正しい気がするかな」
「思い出として大事…」
「なんというか、子供の頃の良い思い出って感じかなあ」
「そうか…」
初恋の相手。
ピシャンと雷が落ちたような、不思議な感覚は今も覚えてる。
一緒に財布を探してくれて、助けてくれた、それは紛れもなく良い思い出だ。
クラウドと出会った時もその事で大はしゃぎしてたからな…。
マイヒーローとか叫んでね…。
何かときゃっきゃしちゃって…。
それってクラウド的にはどうなのよって話だよね。
でも、不思議な感じだ…。
クラウドがあたしのことで、こんな風に気にしてくれるなんて。
「クラウド」
「?」
あたしはちょいちょいと軽く手招きした。
少しだけ距離を縮めてほしいと。
クラウドはそれを聞いて少し近づいてくれる。
あたしはこそっと口元に手を当てて話した。
「あのね、あの時のことより、クラウドへの今の気持ちの方がずっとずっと大きいよ」
「え…?」
それは、確かな本音。
この機だ。
もう少し、伝えてみようかなって。
クラウドに変な誤解されるのは御免だし、それに、もっと知っていて欲しいこともある。
今、抱いているこの気持ち。
それはなにより、大きくて大切なものだと。
「あたしの好きな人はクラウドです」
そんな風に言えば、クラウドはほんのりと笑う。
その顔は嬉しそうに。
「そうか。ならいい」
そして小さく頷いてくれた。
あたしも「うん」と頷き返す。
さあ、それじゃあ兵士さんが戻ってくる前に早く此処を去ろう。
こうしてあたしたちは協力者さんから受け取ったカードキーを手にその場を離れたのだった。
To be continued
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