その手なら怖くない



「ほひ〜!決めた!決〜めた!今日のお嫁ちゃんは〜!……この幼い色気のおなごだ!」





ウォールマーケットのドン、コルネオの屋敷にて行われている悪趣味なお嫁ちゃんオーディション。

まるでパンパカパーンという効果音でも鳴りそうな勢いでお嫁ちゃんを選んだコルネオ。
それを聞いた時、あたしの頭の中はハテナマークで溢れた。

幼い色気って…それ誰だ。

色気って言えば、やっぱりティファだろうか?
いやでも幼いっていうのは合わないよね。それはエアリスも然り。

だからと言ってクラウドというわけでもないだろう。

……じゃあ、それってまさか…。





「ほひ〜!ういの〜!ういの〜!」





恐る恐る顔を上げればニタリとした笑みと視線がぶつかる。

一瞬、頭がくらりとした。
だ、誰か嘘だと言ってくれ…。

そこにはあたしの手を掴み、いやらしく笑うコルネオの姿があった。





「さあ、こっちにおいで〜、子猫ちゃ〜ん」

「う…よ、よろしくお願いしますね、コルネオ様」





引きつりそうになる顔を抑え、なんとか笑顔を作って応えた。

嘘だと思いたい!夢だと思いたい!
でも紛れもなく現実なのはわかる。

今すぐこの手を振り払いたいくらいだけど、皆頑張ってるのにこんな所で計画をぶち壊すわけにはいかない…!






「あとはお前らにやる!」





奥がコルネオの部屋らしく、部下にそう言い残してあたしの手を引いて歩き出すコルネオ。
あたしも大人しく従いついていく。

うう…掴まれた所からぞわぞわと悪寒が広がっていくみたいだ…。

もう、さっさと情報聞き出してさっさと逃げよう…。
あたしはそう心に決め、コルネオの部屋へと入った。





「ほひ〜!ほひ〜!ようこそ俺様の部屋へ!」





中に入ると正面に趣味の悪い大きなベッドがあった。

コルネオはボスンとベッドに飛び込み、あたしにもこっちへ来いと言うようにベッドを叩いていたからあたしも近づき端に腰を下ろした。





「ほひ〜!何度見ても可愛いのう〜!」

「あ、ありがとうございます…でも、あの、コルネオ様…恥ずかしいのでそんなに覗きこまないで下さい…」

「ほひー!ういの!うぶいの〜!!」




ベッドに座った途端、顔を覗きこまれたから適当言って反らす。

ちょ、近い近い近い!
可愛いとか言われてもまっっったくときめかないんですが!!

ていうかなんでこのおっさん、あたしを選んだのさ!?

あんなにセクシーダイナマイトなティファに清楚美人のエアリスがいてこのちんちくりん選ぶ!?
クラウドだって街行く人が振り返るくらい美人だったぞ!?
あれか!?あれなのか!?前のお嫁さんとかが超美人で舌が肥えてるとか!?だからたまにはちんちくりんをつまみたいのか!この野郎!!

…おーう、イライラしてきだぞ。

でも、いつまでものらりくらりしてても仕方ない。
選ばれたのはどうあっても動かない事実なんだから、それなら頑張るしか無い…。

ナマエちゃん出来る!あんたなら出来るよ!
あたしは意を決し、コルネオに向き合う覚悟を決めた。





「あ、あの、コルネオ様…私、今すごく緊張していて…」

「ほひー!照れなくても大丈夫!誰もいないよ!さあ、子猫ちゃん!俺の胸をカモーン!」

「い、いや…、ふふ、もう、コルネオ様ったら嫌ですわそんな…うふふふ」





うふふのふー…ってなんかもう気持ち悪すぎてこっちのテンションもおかしくなってきた。

でも、とりあえず何かしら情報を聞き出すための引っ掛かりを作らないと。

緊張してるから話して落ち着きたいとでも言うか。よし…!

笑顔の引きつりを抑えつつ、あたしはコルネオに向き直った。
だけど、その時だった。


パシャッ…


何処からか聞こえたカメラのシャッターのような音。
不思議に思えば、また同じ音が聞こえた。

二度聞こえたなら気のせいじゃ無い…。

そしてコルネオの手に何か小さなスイッチらしきものが握られている事にも気がつく。

…これって。

あたしがそのスイッチを見ていることに気がついたコルネオはまたニタリと笑って言った。





「あー、気にしない、気にしない。写真1枚でみーんな言うこと聞くんだわ〜」

「!」





それを聞いて確信した。
これ、やっぱりシャッター音か!

平然と言ってのける。
こいつ…とんでもないゲス野郎だ…。

今までどれほどの女の子がここで泣いたのだろう。
考えただけで嫌悪感が溢れてくる。





「ほひー!さっ、焦らすのはナシ!」

「えっ!?」





ドサッ

その時、そんな音とともに視界がぐるりと回った。
そして目の前には自分に覆い被さるコルネオの顔が映る。

なっ、ちょ…!押し倒された…!?





「ちょ、コルネオ様…!?」

「ほひ〜…見下ろした顔も可愛いの〜!」

「いや、ちょ、待っ…!」





腕を押さえつけられる。
馬乗りになられて腰も上がらない。

男の人と力勝負で敵うはずはなく、流石にこうなってしまうと体を起こせない。





「もう我慢出来ん!さあ、子猫ちゃん!俺とじーっくり夜を楽しもうじゃないの〜!ほひー!」

「ちょ…!」





鼻息荒く見下ろしているコルネオ。

顔が青ざめる。
全身に鳥肌が立つ。

ちょちょちょ!!
待って待って!これまずいまずいまずい!!




「さあ、チュー!んー!」

「…ひっ」




目を閉じて唇を突き出し、ゆっくり近づいてくるコルネオの顔。

いや!
んー!じゃなああああい!!!!

ちょ、本当待って待って!!

焦りながらもがいて、なんとか腕を上げようとするけれど全然びくりとも動かない。

え、いや、嘘!
ほ、ほんとに…!?

ゆっくりゆっくり、コルネオの顔が落ちてくる。

い、いや、絶対無理…!
やだ…やだやだやだ…!

嫌悪と恐怖が一気に迫ってくる。

あと少し…。
もう、寸前…。

そこまで来た瞬間、恐怖でいっぱいになってもう形振り構わず叫んでた。





「いやああああああああああッ!!!!!!!」





助けて…!!!
そう願った、本当にその時だった。





「ナマエッ!!!」





呼ばれた名前。
バンッと乱暴に開く扉の音。

それが聞こえて、出かけた涙が引っ込む。





「ほひ!?だ、誰だ!!ぐえっ!!」





コルネオも振り返ったけど、その瞬間に奴は吹っ飛ばされてそのままベッドの下に転がり落ちて行った。

な、何が起きた…?

よくわからないけど、おかげでふっ…と体が軽くなる。





「ナマエ、大丈夫か…!?」

「…っ」





体を起こされた。
すると、すぐにぶつかった視線。

それは青色の、とても綺麗な瞳。

今は、めかし込んだ、女の子の姿…。
慌てて来てくれたのか、編まれた三つ編みが少しだけ乱れてる。

とくん、と心臓が鳴る。
それはきっと…心から安心した音。





「クラ…っ」

「…!」





目の前にいたのはクラウド。
その姿を見た瞬間、あたしは思わず彼に手を伸ばしてギュッと抱きついていた。

自分でもびっくりするくらい、クラウドを見たらホッとして…。

クラウド…クラウド…っ。

そこにあるぬくもりにあたしは思わず縋りついた。

抱きついたら、手が少し震えていたことに気がついた。
たぶん…クラウドにもバレた。

抱きついた時、クラウドは驚いたみたいだった。
でも、震えに気がついたからか、すぐにあたしの背中に手を置いて、きゅっ…と優しく抱き止めてくれた。

少しだけキツくなった感覚に、あたしは少し我に返った。

でも、今はそのあたたかさがホッとして…。

男の人の力に恐怖したのに…不思議なくらい、安心出来た。

…女の子の格好、してるからかな。
ううん、こうしていると男の人だってちゃんとわかる。





「悪かった…。もっと早く来てやれなくて」

「クラウド…」





抱きしめたまま、クラウドはそう言ってくれた。
あたしは首を横に振った。





「ううん…平気。間に合ってるし…助けてくれてありがとう」

「…何かされたのか」

「あ、ううん、 押し倒されて…キスされそうになっただけ。未遂だから大丈夫」

「キ…」





だいぶ落ち着いて来た。

うん、そうだ。
ちょっと危なかったけど、間一髪で助かった。

本当クラウドには頭が上がらない。
クラウド様様だ。

ていうか本当、抱きつくとか何してるんだろう。
思わずというか、咄嗟だったけどさ…。

クラウドもビックリさせちゃったし…。

落ち着いたなら離れよう。





「ごめんね、急に」

「いや…」





あたしは謝りながら目を合わせられるくらいまで体を引いた。

でも、クラウドはあたしの背中に手を置いてくれたままだった。





「…あんたが落ち着くなら、いくらだってこうしていて構わない」

「…クラウド」





クラウドは優しい声でそう言ってくれた。

う…わあ…。
思わず胸の奥がきゅうううっとする。

なんでクラウドってばそんなに優しいんだ…。
そんなこと言われたら離れたくなくなっちゃう…って何考えてんだあたし!

だけどその時、ベッドの下からうめく様な声がした。





「ほひー…ううう…」

「「!」」





聞こえた声にあたしとクラウドはハッとする。

結構な落ち方をしたから、そのまましばらく伸びていたらしいコルネオ。
だけど目を覚まして、ベッドに這い上がろうとしてきた。

するとその時、クラウドはまたギュッとあたしの体を自分の方に引き寄せて抱きしめてきた。…って、ええ!?





「ぐう…だ、誰だ…ん?お前は、さっきのお嫁ちゃん候補?」

「ゲス野郎…よくもナマエを…」





ちらりと見たクラウドは物凄い恐い顔してコルネオを睨み付けていた。

お、怒ってる…。

抱きしめられたまま。
それはキツく、渡すものかと言われている様で…。

ってそれは都合の良い捉え方してないか!?
いやでも、なんか…そう思えて。

って、いやいやいや…そもそも都合がいいってあたし別にクラウドのこと…。

そうして混乱しかけていると、ちょうどその直後、扉の方からまたパタパタと足音が聞こえて来た。





「クラウド!ナマエ!」

「ふたりとも!服!」





足音はティファとエアリスのものだった。
ふたりはクラウドとあたしの装備を持って部屋まで来てくれた。

それを見たクラウドはあたしの体を抱き上げ、そのままそっとベッドから下ろしてくれた。
え、なに…このお姫様のような扱い…。





「ナマエ、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫…」





ティファが駆け寄って来てくれて、あたしの服を渡してくれる。
一方のクラウドはエアリスから服と剣を受け取っていた。





「もう、着替えて装備整えようとしてたら、クラウド先行くってそのまま行っちゃうから、ビックリしちゃった」

「………。」

「えっ…」





服を渡しながら言うエアリスの言葉に少し驚く。

なんでも、着替えるためにクラウドだけ先に部屋を出たけど、そのままドア越しに先に行くと言って本当に先に行ってしまったのだとか。

クラウド、そんな急いで来てくれたのか。
いや、結果的にそのおかけで助かったんだけど…。

あたし自身、子分倒して装備整えてから親分に突っ込むのがベストだって思うから。
ドレスじゃ動きづらくて仕方ないもん。

そもそもこんなピンチになると思わなかったし…。

エアリスから服を貰ったクラウドはすぐさまその場で着替え始めていた。
あたしは流石にここじゃ着替えられないから手に持ったままだけど。

するとコルネオはそんなドレスを脱ぐクラウドの様子を鼻の下を伸ばして凝視していた。

こ、このエロオヤジ…。
その姿はドン引き以外の何者でもない。

…ていうか男の着替えだからね、それ。

着々と身につけていく装備と、ぱさりと落としたカツラ。
端正な顔立ちはそのままだけど、その姿を見れば流石にコルネオも気がつく。





「男じゃねーか!何がどうなってる?はっ…まさか俺のお嫁ちゃんも…!」





コルネオの視線がこちらに向いた。

いやあたしも男かって!?
あたしは女だ馬鹿!!

と思うと同時に視線が向くだけで今は気持ち悪くて「う…っ」と少し顔を歪める。
するとそれに気がついたクラウドがその視線を遮る様にそっとあたしの前に立ってくれた。

く、クラウド…。

あ、う…。
どうしよう…。

クラウドの背中を見ていたら、また胸がきゅううう…とした。





「質問するのはこっち。七番街スラムで手下に何を探らせたの?」





そうこうしているとティファがコルネオに圧をかける。

手下たちもティファとエアリスが片付けてくれたみたいだから、もうここには誰も来ない。

色々あったけど、形勢逆転?
本来の目的を果たすための本番はここから。





「手下に一体、何を探らせてたの?言わないと…」

「切り落とすぞ」




とくん、とくん。

あたし…何考えてるんだろう。
変なこと考えてる場合じゃないのに。

ティファに合わせて脅しをかけるクラウドの姿。

あ、あれえ…。
変…だなあ…。

なんだか妙に胸が高鳴って、心臓の音がずっと響いていた。



END


原作のほうのマイヒーローはこっちなので、そっちに沿ったお話。
こちらにするか、クラウドが選ばれる方にするか悩んだんですけど、リメイクだと選ばれるのがクラウド一択になっているのでこっちを没にした感じです。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -