少しずつ少しずつ
伍番街スラムにて。
リーフハウスに花を届けているエアリスを待つ間、あたしとクラウドは街をぶらぶらとしていた。
「伍番街は来ないから新鮮だなぁ。七番街ともまたちょっと雰囲気違うよね」
「スラムのことはよく知らないが…まあ、そうかもな」
「ね!んーと、じゃあとりあえずショップでも見に行ってみる?」
「ああ」
暇つぶし。
こういう時、一番適してるのってやっぱりお店とかを覗くことだよね。
そんなこんなで、あたしたちはショップを探しに歩き出した。
「クラウドさん、ナマエさん」
その時、ひとつの声に呼び止められた。
ふたりで振り返る。
うん…?
伍番街に知り合いなんていないけど…。
その疑問は振り返ってすぐに解けた。
「お前…」
「あ!えっと、チャドリーくん!」
振り返った先にいた少年の名前を口にする。
そこにいたのは七番街スラムでバトルレポートの提出を依頼してきたチャドリーくんだった。
「わ、偶然だね。こんなところで会うなんて」
「そうですね。また、ご協力お願いします。おふたりにご協力頂けると僕の研究も捗るので。おふたりはこれ以上にない逸材ですから」
「おふたり?あたしも?」
チャドリーくんの言葉にあたしは軽く首を傾げた。
いや、褒めてくれてるのは嬉しいんだけど。
だけどこの前、想定外の逸材だ〜って彼が見て興奮してたのはクラウドだから。
「クラウドさんが想定外でそちらに注目してしまいましたが、剣と魔法、スピードにも秀でて全てにおいてバランスの良いナマエさんも見逃せない逸材です」
「えっ、そ、そう?えへへ…クラウドクラウド、なんかとっても褒めて貰えてるんですが」
「良かったじゃないか」
なんだか照れる。
そんなにおだてても何も出ませんよって。
でも戦闘能力に関してこう言って貰えるのって満更でもなかったり。
いや普通に嬉しいよ。
「それで、おふたりに重大なお知らせです。これまで不可能とされてきた召喚マテリアを合成する仮説を立てました。召喚マテリアは天然物だけという現在の定説を覆す大発見です!クラウドさん、ナマエさん、マテリアの検証を頼みます。携帯バトルシュミレーターを使い、仮想空間で召喚獣データと戦い、打ち勝ってください」
それでは早速と言わんばかりに一気に用件を話し出すチャドリーくん。
お、おお。
ちょっと圧倒されながらもなんとか聞く。
チャドリーくんはあたし達が提出したレポートの結果から色々な新しいマテリアを開発してくれる。
今回は召喚マテリアを…って言う話らしい。
え、でもそれって本当にすごい話じゃないか。
研究とか難しい話はさっぱりだけど、それがものすごい事なのはあたしにもわかる。
チャドリーくんが大発見と少し興奮気味に話してるのも納得だ。
「どうやってデータと戦うんだ?という不信を検知」
あたしが感心しているとチャドリーくんはクラウドを見てそう言った。
別に今クラウドは何も言ってないけど…確かにその表情はちょっと怪訝そう?
でも確かにデータとってどうやって?
バトルシミュレーター…?ここで?
「では、携帯用バトルシュミレーターを装着してください」
そうしてチャドリーくんはクラウドとあたしに何やら機械で出来たゴーグルのようなものを渡してきた。
これを付ければ、そのまま仮想空間で戦えるって事?
え、これ神羅でも結構な最新技術なのでは。
「クラウド、やってみる?」
「やりたいんだろ?」
「えへへ!わかる?」
「その顔を見ればな」
「あはは!じゃあ、やろうよ!」
「…さっさと終わらせるぞ」
「はーい!では、いざ!」
クラウドもOKくれたし、こうしてあたし達は携帯バトルシミュレーターを試してみることにした。
あたしはまあ御指摘通り、顔に出るくらいにはワクワクしてたと思う。
だってこういうハイテクなのって楽しそうじゃないか!
装着すれば、その視界が一気に変わる。
目の前に現れたのは、冷気を放つ氷の女王シヴァ。
召喚獣と戦うなんて腕が鳴るね!
「ナマエ、いくぞ」
「おっけー!」
あたしはクラウドと一緒に仮想空間で剣を振るい、氷の女王様とのバトルに見事勝利を納めたのだった。
「お見事でした!シヴァの召喚マテリアが完成しました!さあ、召喚マテリアを受け取ってください。氷の女王の冷たい微笑みはクラウドさんに、煌めきはナマエさんにピッタリです」
戦闘を終え、シュミレーターを外すとチャドリーくんはクラウドにマテリアをひとつ手渡してくれた。
真っ赤に光る、召喚マテリア。
あたしはそれを一緒に覗きこんだ。
「おー!かなりオイシイ戦利品!シヴァ綺麗だったし、やったね!クラウド!」
「ああ。気に入ったなら、あんたが持ってるか?」
「え、いいの?」
「ああ、別に構わない。ほら」
「わ!ありがとう!」
クラウドはあたしにシヴァのマテリアを渡してくれた。
おお、召喚マテリアだ!
それなら今すぐセットしよう!
あたしは剣を腰から外し、早速マテリアをはめ込んだ。
赤い色がキラリと光る。
うん、結構いい感じ!
新しい力が加わったその相棒の姿に、あたしはなかなかご満悦だった。
「ふふ、いいこと尽くめだな〜♪」
「尽くめ?」
「うん!バトルも楽しかったし!ほら、仮想空間だと怪我の心配しなくていいからいつもより思いっきり戦えるじゃん?」
「ああ…まあ、そうだな」
「あれ結構楽しかったよ〜!思いっきり暴れるの最高!それにクラウドと一緒に戦うのがそもそも楽しいしね!」
思いっきり暴れられる仮想空間で、連携しながら戦う。
あ、呼吸が今合ってるなって、クラウドと戦うとそういうのがすごく楽しい。
だから素直にそう言えば、クラウドの方もふっと微笑んでくれた。
「ふっ…そうか」
「うん!クラウドはどうだった?」
「ああ。まあ…俺も、あんたと戦うのは嫌いじゃないな」
「お、ほんと?」
「ああ。そうだな…純粋に戦いを楽しめたかもな」
「おー!そっか!へへ、やったー!」
クラウドがあたしと戦うの嫌いじゃないと!
その言葉は嬉しくて素直に喜んだ。
クラウドも笑ってくれてるし、本当にいいこと尽くめだ!
「おふたりから同様の高揚を検知。以前より高いも数値を計測…」
「え?」
「は?」
「徐々に増加している…。相手に抱く喜びの感情…。やはりこれは…」
「……。」
「ちゃ、チャドリーくん?」
その時、チャドリーくんが何かブツブツ言ってることに気がついた。
あれ、前もこんなのなかった?
いや前よりも考え込んでブツブツ言ってるような…。
「やっぱりおふたりは興味深いです。これからもご協力お願いします!」
「………。」
「う、うん?」
チャドリーくんはニッコリと笑う。
あら、可愛らしい…のはいいんだけども。
興味深いってなんだろう。
さっき言ってくれた逸材ってハナシ?
でもなんかクラウドとセットでみたいなニュアンスも受けるんだけど。
なんとなく気になる。
でも何だか満足そうなので、とりあえず頷いた伍番街での再会だった。
END