それは当たり前に
「おお、バレット」
「ワイマー、大丈夫か」
いつかエアリスとクラウドと話した小さな公園。
七番街スラムと繋がる隠し通路のあるその場所は、街を追われた七番街スラム住民たちの一時避難所になっていた。
その中には勿論、知っている人たちも。
こちらに気が付き、声を掛けてくれたのは自警団を取りまとめてくれているワイマーさんだった。
「自警団は動ける奴が手分けして怪我人の救助に当たっている」
ワイマーさんは住民の様子や救助の状況について教えてくれた。
この状況でもしっかりと人々をまとめてくれているその姿はとても頼もしいけれど、その表情はどことなく気がかりのようなものが感じられる。
「任せろ、と言いたいところだが…大問題がある。噂は本当だったんだ。地下に神羅の実験場があって、そこからモンスターが湧いてる」
ワイマーさんは気がかりを話してくれた。
地下にある神羅の実験施設…。
以前、確かクラウドをワイマーさんに紹介した時だったかな。
その時にワイマーさんは七番街の地下にそんなものがある…なんて冗談を話していた。
あの時はワイマーさん自身、冗談だと思っていたし、あたしたちもまさかって笑って聞いてた。
でもその話は実は本当だったと。
「ウェッジを助けた、あそこだよね…」
「だろうな」
話を邪魔しないように、こそっとクラウドに話す。
クラウドも頷いてくれた。
そう、あたしたちにはその心当たりがある…というか、もう実際に見た後。
猫を追ってウェッジを見つけた、あの地下施設がそうだろう。
「クラウドくん、なんでも屋、頼めるか」
その時、ワイマーさんの視線がクラウドに向いた。
お!なんでも屋さん、出番?
「実験場に降りて、地下のモンスターを一掃してもらいたい。危険すぎる、依頼だが…」
ワイマーさんは少し申し訳なさそうだった。
まあ確かに、ちょっと厄介な依頼ではあるよね。
あたしはクラウドを見る。
するとクラウドの視線もこちらに向いていた。
「俺たちにしか出来ないだろう」
クラウドは平然と言う。
どこか、あたしに尋ねるようでもある。
七番街スラムの為の依頼だし、あたしに断る理由はない。
それに腕に覚えがある人間が請け負う方が良い案件なのは事実。
だからあたしも「うん」と答える。
するとその返事にワイマーさんも頷いた。
「その通りだ、頼む。ナマエも、すまないな」
「いえいえ!頑張ります!」
あたしもニコッと笑って答えた。
こうして新たな依頼を受け、あたしたちはあの地下施設に向かうことになった。
遊具の中から通路を通って、七番街スラムへ。
その道中、あたしの足取りは軽かった。
「ふふんふーん♪」
「なんでそんな機嫌が良いんだ」
「ん?」
クラウドに声を掛けられ、くるりと振り返る。
まあ鼻歌まじりだったし。
そりゃなんか機嫌いいなコイツってのは丸わかりだろう。
うん、実際機嫌は良い。
「へへへー、当たり前に言ってくれたなーって思って」
「当たり前?何の話だ?」
「クラウドの話」
「俺…?」
「うん、俺」
わけがわからないと言う様に首を捻るクラウド。
当たり前に言った。
しかも自分の話。
まったくわかってない。
でもそれすら、ああ、本当に自然に言ってくれたんだなって実感して。
うん、更ににやけちゃうってなものね!
「さっき、ワイマーさんからお願いされた時、俺たちにしか出来ないって言ってくれたでしょ?」
「ああ…?」
「俺たち!って!当たり前に!それがもう助手として嬉しゅーて嬉しゅーて!」
「……。」
えへえへ全力でニヤけるあたしに、クラウドは目を丸くする。
その答えは意外なものだっただろうか?
いやでもさ、クラウドなら「俺にしか出来ないだろう」って言いそうなものだなって思ったわけ。
でもそこでこっちを見て「俺たち」って言ってくれたわけさ!
ああ…信頼してもらえてるんだなあとか、頼ってもらえてるかも、みたいな、そういう実感わくじゃん、そんなの!
そりゃ頬の筋肉も仕事放棄するわって話である。
「………そんなこと言ったか?」
「いやなんでそことぼけるの!今ああって言ったよね!?絶対覚えてるよね!?」
なんか急にとぼけだしたクラウド。
さっきの反応から絶対覚えてるでしょ!
今のそんなこと言ったかも謎の間あったし!
するとクラウドはふっと小さく笑った。
「なら、その期待、裏切るなよ?」
「もっちろん!」
やっぱり覚えてる。
確かにそれは信頼であり、期待でもあるよね。
あたしはぐっと両拳を握って応える。
うん、でもね。
やっぱりさらっと、ああ言ってくれたのはすごく嬉しかったなあって思った。
END