それはまだ小さな音
子供から大人まで。
探し物からモンスター退治まで。
ありとあらゆる依頼をこなしていくなんでも屋のお仕事。
その中には一つ、バトルレポートという、ちょっと珍しい依頼がありました。
「協力者候補を発見。照合データの検索を開始します」
七番街スラムで仕事を探していた時、クラウドを見てそう呟くひとりの男の子がいた。
ただ目の前を通り過ぎようとしただけだったけど、なんだかちょっと気になる物言い。
協力者候補…照合データ?
クラウドも気になったのか、その男の子の前で足を止める。
すると男の子は目の前に立ったクラウドをさらによく見つめ、まるで分析でもしてるみたいにつらつらと言葉を並べはじめた。
「大剣を背負いながら呼吸を乱さない心肺機能。均整のとれた筋肉と骨格…想定外の逸材です!」
逸材。
クラウドを見てそう喜ぶ彼。
喜んでもらえたなら、なにより…?
いや喜ばせてる?のはクラウドだけど。
でも、その並べられた言葉にあたしもまじまじとクラウドを見た。
まあ、確かにあんなでっかい剣持って呼吸乱れてないのは凄いよね。
それに均整のとれた筋肉と骨格…うん。
思わずこくんと頷いた。
「確かにイイ体してるよね!」
「は…?」
「ちょっとナマエ…変態みたいなこと言わないで」
「…アレ?」
クラウドは目を丸くし、ティファには若干引かれた。
ちょ、ティファお姉様!その目!
ううん、でも確かに今のは変態くさい…か?
だけどクラウドってあんなに大きな剣で戦うのにそこまで太くないと言うか。
もちろん筋肉はついてるんだけど、なんだろ、量より質というか。
全体的にしなやかな線で、いい感じだよね!
…やっぱなんか変態くさい?
いや、純粋な感想というか、普通に褒めてるつもりなんだけどコレ。
「僕はチャドリー。神羅カンパニーの科学部門で学んでいる研修生です。僕の研究にご協力ください」
男の子は自己紹介してくれた。
名前はチャドリーくん。
この辺りじゃ見たことのない子だなと思っていたけど、どうやら神羅の関係者らしい。
「まずは手付金代わりです。そのみやぶるのマテリアを装備にセットして、バトルレポートのデータ収集をお願いします。それで、新たなマテリアを開発できるのです」
なんでも屋の噂は耳にしていたのだろうか。
チャドリーくんはそう言ってクラウドに黄色いマテリアをひとつ手渡した。
だけど、マテリアを受け取ったクラウドの表情は苦い。
「神羅の仕事ならお断りだ」
流石は元、ソルジャー。
クラウドも神羅に思う事はあるらしく、神羅関連の仕事は請けないと決めているようだ。
だからクラウドはみやぶるのマテリアを突き返そうとした。
だけど、チャドリーくんは首を横に振った。
「僕はささやかながら、神羅に反抗しようと活動しています。あなたなら、理解できるはずです。新たなマテリアは、神羅に対抗しうる力になると。どうしますか?僕を信じられないなら、斬って貰っても構いません」
「俺は本当に斬る」
「つまり、それまでは契約を継続、ということですね!」
チャドリーくんはそう言ってニコリと笑った。
なかなかズイズイ行くタイプだね。
彼は少し強引ながらも、ササッと契約を取り付けてしまった。
でも神羅に反抗するという話なら、ティファも特に異存は無さそうだ。
あたしも別に、特になし。
斬る、と物騒な事を言っていたクラウドも、彼が言ったマテリア開発の話には納得できるらしく、とりあえずは協力してもいいという気になったみたいだ。
こうしてあたしたちは彼のバトルレポートに協力することになった。
戦闘に関しては何の問題も無い。
いつもと違うのはみやぶるのマテリアを発動させることだけ。
でもこれって結構優れもので、特徴とか弱点とか、色々な情報を一瞬で把握できるのは個人的にもだいぶ面白かった。
「クラウドさん!見事、データ提出一番乗りでした!」
モンスターの情報を得たあたしたちは早速チャドリーくんの元に戻ってデータを報告した。
成果は上々だったらしく、彼は非常に喜んでくれた。
それに、一番乗りか。
そう言われれば、こちらとしてもなかなか気分はいいかもしれない。
なんにせよ、またひとつ依頼をこなせた。
「上手くいったね。なんでも屋、きっと当たるよ!ね、ナマエ!」
「うん!すっごくいい感じだと思う!」
「ああ、悪くない手応えだ」
ティファやあたしは手を合わせて喜んで、クラウドも悪くないと言う。
クラウドの言う通り手応えもあるし、求められているのも感じられる。
うんうん、なんだかとってもいいじゃないか!
あたしはニーッとクラウドに笑った。
「クラウド!助手も頑張るからね!」
「…張り切り過ぎてから回るなよ」
「うわ、そーゆー…。でも、やるって言ったからには役立てるように頑張るよ」
助手になるって言ったからにはちゃんと役立ちたいじゃないか。
ひとつずつ、しっかりと。
この依頼も、なんでも屋の評判にきっと繋がったはずだ。
こうやって少しずつ、クラウドの力になっていけたらいいなあって、本心で思う。
「でもさ、本当に繁盛するといいね!ううん、させようね!」
「ふ…ああ、そうだな」
むんっと拳を握って言えば、クラウドもちょっと微笑んで頷いてくれた。
あ、笑ってくれた。
見れたその顔にふっとこみ上げる。
ああ、なんだか嬉しいぞ。
だからあたしも「うん!」とまた笑って頷いた。
「…おふたりから同様の、微かな高揚を検知」
「「え?」」
その時、チャドリーくんがぽそっと何かを呟いた。
ん?高揚?
よくわからなくて、クラウドと聞き返す。
でも彼は「これは…」とかひとり何か考えて、結局答えてはくれず。
「なるほど。興味深いですね」
「はい?」
しまいにはひとりで何やら納得した様子。
いや何がなるほどだってばよ。
でも彼の中では解決しちゃってるみたいでそれ以上話が動かない。
「これからもご協力お願いします!」
彼はそう言って笑う。
これがこの先、たびたび協力する事になるチャドリーくんとの最初の出会いだった。
END