思い出す、考える
「オヤジ、待たせたな!」
しょぼくれた背中にジョニーが声を掛ける。
俺たちは服屋の親父が待つ居酒屋、酔いどれに再び戻ってきた。
「あ〜?こんな息子、おったかの?」
親父は突っ伏していた顔を上げ、こちらに振り返る。
…相変わらず酔っているみたいだが。
でも、言われたものはきちんと取り返した。
ジョニーは早速、親父にそれを差し出した。
「例のもの、取り返してきたぜ!」
VIP会員証。
目の前に差し出されたそれを見るなり、親父はガバッと前のめりになった。少し驚く。
そしてその顔も急に活き活きと輝いた。
「おお!!これはまさしく、ワシのいんすぴれーしょん!!!」
「オヤジ、それってあの…」
「そうよ。来る日も来る日も、あの娘たちにドレスをプレゼントしてようやく手に入れた…蜜蜂の館のVIP会員証じゃ!」
「やっぱりーーー!!!」
隣でジョニーが絶叫した。
……うるさい。
思わず片耳を押さえる。
けど、蜜蜂の館…。
アニヤン・クーニャンを訪ねるのに、受付までは行ったことがある。
あの店の会員証か…。
俺がそう納得していると、さっきまでしょぼくれていた親父は急にすくっと立ち上がった。
「そうと決まったらこうしちゃいられん。すぐにでも娘たちに会いに行くぞ!店に戻って、プレゼントを選ばねば!!」
「俺もお供するぜ!!オヤジ!!」
酔いどれの出口に向かっていく服屋の親父。
それを追いかけていくジョニー。
依頼主は服屋の息子。
親父を連れ戻してほしいって話だから…まあ、戻ってくれるなら何でもいい。
俺もそれを追いかけ、俺たちは服屋へと戻った。
「連れ戻してくれて、ありがとな。色々と面倒だったろ、これ、報酬な」
戻ってきて、俺は息子と話をした。
報酬も受け取る。
これで本当に一段落。
確かに色々と面倒だったなと…俺は解放感を感じていた。
…ナマエたちの方はどうなっただろうな。
一度、様子を見に行くのもいい頃合いだろうか。
もう用は済んだ。
それなら正直、向こうの様子の方が気になるのが本音だ。
「さあ、クラウドさんも一緒に!ウォール・マーケットのお勉強はここからが本番ですよ!!」
「仕事は終わりだ。あとは好きにしてくれ」
その時、店の奥から、親父と盛り上がっているジョニーが呼んできた。
もうこれ以上、振り回されるのは御免だ。
あとは勝手にやってくれと俺は返したが、そこでジョニーは何やら勘違いをしていた。
「わかります。その気持ち。未知の世界ってのは、誰でも怖いもんです」
「はあ?」
腕を組み、うんうんとひとり頷くジョニー。
誰がそんなこと言った。
が、ジョニーの勘違いは続く。
「一緒に行けないのは残念ですが、ここはウォール・マーケットの先輩である俺がクラウドさんのため、体を張って一足お先にいんすぴれーしょんを体験してきます!この俺に、ドーンと任せちゃってください!待ってろ、蜜蜂の館!!」
「待ってろ、娘たち!!」
ふたりで盛り上がる、ジョニーと服屋の親父。
その様子を見ていた息子が頭を抱えて大きなため息をつく。
「はあー…ろくでもない大人が多くて、困っちまうよな、ホント」
「…そうだな」
俺も同意を返し、息をついた。
そうしてジョニーを残し、俺は服屋の外に出た。
さて…。
ナマエたちの方も気になるが、その前に一応、サムの方に顔を出すか。
まだ他にも何かしらの依頼があるかもしれないしな…。
そんな風に考えながら、俺はチョコボ車の店に向かい歩き出す。
「……。」
ジョニーがいなくなり、ひとりで歩く。
街は変わらず賑やかだが、まあ…落ち着いたな。
…それにしても変な感じだ。
一緒にいた相手が違うから余計にか?
ただ…実感した気がして。
自分がこんなにも、ナマエと何かすることに慣れているなんて…。
いや、慣れていると言うより…。
隣にいることの、心地良さというか…。
ずっと頭にチラついて…。
ああ…妙に…。
思い出す。考える。
「ナマエ…」
ぽつりと呟いた名前。
それは欲望の街のざわめきに掻き消える。
いや、掻き消えるように小さく呟いた。
ただ…胸の中で溢れたものを、少し…零す様に。
そして夜の街をひとり、歩き出した。
END