治療の経験



「おい、店の前で倒れないでくれよ!営業妨害だ!」

「うう…」





定食屋を出て少し歩くと、うずくまるジョニーにひとりの男が寄り添っている姿を見つけた。
俺が近づくと、その男が顔を上げる。

店の前…ということは、この店の店主か?
看板を見れば、どうやら薬屋のようだった。





「あんた、こいつのツレか」

「まあな」

「お、あんた、クーポン持ってるのか。とにかく中へ入ってくれ」





男は俺が手にしていたクーポンを見ると、ジョニーに肩を貸し、店の中に入っていく。
どうやら面倒見の良い男らしい。

俺も後を追い、店の中に入り、クーポンを手渡した。





「ったく、今日はやけに病人が多いな」

「こいつ以外にもいるのか」

「ああ。薬の注文が立て続けに入ってね。ちょうど配達に出るところだったんだが…」

「うう…気持ち悪い…」





薬屋と話していると、店の中でもうずくまったままのジョニーが足元で呻く。
店主はため息をつく。





「こいつを置いていくわけにもいかないしな」

「……。」

「そうだ、あんた、代わりに薬を届けてきてくれないか。その格好、軍人さんかなんかだろ?治療の経験も、そこそこあるんじゃないかと思ってさ」





店主はそう言って俺に配達の依頼をしてきた。
まあ…経験がないわけではないな。

俺は治療のマテリアを取り出す。

手の中で輝く緑を見て、俺はナマエとの会話を思い出した。





《あたし、治療のマテリアって装備の優先順位低くてさ》

《ああ…まあ、アクセサリーで対策すればなんとなかる場合も多いしな》

《うん…、まあ一応、カバンの中には忍ばせてるんだけどね》

《あるに越したことはないからな。けど、あまり育ってないのか、それ》

《優先順位低いので。あはは…でも育てたいな〜ってずっと思ってて》

《なら、俺といるときはどちらかが装備するようにするか。ふたりならそれなりに穴に余裕も作れるし、それなら育つだろ?》

《ほんと?手伝ってくれる?》

《ああ》

《やったー!クラウド、ありがとう!じゃあ、クラウドに預けておくね!》





ナマエから預かった治療のマテリア。

ふたりでいる時は装備しておくようにしよう。
そうした結果、今ではかなりレベルの高いマテリアになった。

ジョニーの介抱もしてくれるようだし、無下には出来ない、か。





「わかった。引き受けよう」

「助かるよ。そうだな、あんたに任せられそうなのは…この薬を届けてくれ、3人分だ。症状を見て、合う薬を渡してくれ」





渡されたのは、消毒薬、消臭薬、消化薬。

…結構あるな。
まあ、さっさと終わらせるに限る。

俺は早速店を出て、薬を届けに行くことにした。

3人の患者。
そいつらは揃いも揃って、定食屋の事を口にしていた。

…味がぼやけた定食、一体どうなっていたんだ。

まあいい。
無事に3人、適した処方をして状態は回復した。





「ふう…」





一段落し、少し息をついた。

ふと、夜を見上げる。
といっても、スラムだから空が見えるわけじゃないんだが。

…ナマエたちの着替えは、まだ掛かるだろうか。
俺の方もまだ依頼が片付いていないから、それは別にいいんだが…。

でも…。

でも、なんだ。
早く終わればいい…なんて。

クラウド、あのね!…と、そう駆け寄って来るその顔が見たいなんて…。





「…戻るか」





何を考えているのやらと首を振る。

…ジョニーの体調も落ち着いてると良いけどな。
こうして俺は来た道を引き返し、薬屋へと戻った。





「で、そのカメ?いやメカ?みたいな恐ろしい家を、クラウドさんの剣がズガガガガーっと!」

「いえ?あの兄ちゃん、家と戦ったのか」

「あっ!おつとめ、ご苦労様です!」





薬屋に戻ると、ジョニーと薬屋が話をしていた。
いや、どちらかというとジョニーが聞かせていた、の方が正しそうだが。





「もういいのか」

「うるさいくらいにな。外のヤツらはどうだった」

「出来るだけのことはした」

「ありがとな、助かったよ」





ジョニーは回復したらしい。
確かにうるさいくらいにだな。

外のヤツらもわりとすぐに効果が出ていたし、この薬屋はなかなか腕利きなのかもしれない。





「じゃあ約束通り、報酬な。ちょうど今、イイモノを持ってるんだ。ま、もともとは服屋のオヤジのもんだけどな。定食屋から話は聞いたぜ。あんたたち、これを探してたんだろ?」

「探してた?服屋のオヤジ…なんだっけ?ああ!!いんすぴれーしょん!!!」





ジョニーの叫びで耳が痛い。
そもそも、この短期間で忘れるってどういう頭してるんだ。

軽く耳を押さえながら薬屋を見ると、「アタリ!」とニヤリと笑っていた。





「ここいらの店主仲間は昔からの腐れ縁でな。毎晩集まっては、景品を掛けて勝負してんのよ。んで、巡り巡ってこいつが俺んとこに来て、はい、今はあんたのもの。超レアもの。限られた人間しか手に出来ない、あのVIP会員証だ!まあ、持っててもなんの役にも立たないんだけど」





そう言って薬屋は俺にそれを手渡してきた。

VIP会員証…?
受け取り顔をしかめると、隣でジョニーがハッとする。





「これって、まさか!クラウドさん!早くみつば…っ、とにかく、酔いどれに戻りましょう!!」





ジョニーは物凄い勢いで薬屋を出ていく。
…いや、なんだんだ、一体。





「クラウドさん、早く早く!いんすぴれーしょん!そういうことだったのかあ、オヤジィ!!」





外に出てもジョニーは騒いでいる。
…うるさいな。

薬屋に「服屋のオヤジによろしくな」と見送られ、俺も店を出た。

まあ、これで後はこいつを手渡して終わりだな。

やっと見えた依頼のゴールに少しほっとする。
次から次へ、何件回らされるのかと思っていたからな。

そんなことを考えながら、俺は酔いどれに向かった。



To be continued



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