まるで口実探し
「らっしゃいませー。お好きな席へどうぞ」
定食屋を見つけた。
中に入れば、気前の良さそうな店主にそう案内される。
だが、客ではないので席には座らない。
すると早速、ジョニーがこちらの要件を告げた。
「なあなあ、アンタ。マテリア屋から例のブツ、預かってんだろ?」
「マテリア屋?…あれのことか。兄ちゃんたちもモノ好きだねえ。そんなことより、アンタら料理は得意か?」
「いいや、まったく」
ジョニーは首を横に振る。
俺もしないので何も言わなかった。
「最近なんか、料理の味がぼやけてんだよな。なっ、兄ちゃん、原因は何だと思う?火力か電気か…冷蔵温度あたりだとは思うんだけどよ」
味がぼやけてるって何だ。
料理のアドバイスをしろって…?
俺は顔をしかめた。
「えっと、考えられるとしたら…なんだ?」
「……。」
頭を悩ませるジョニー。
火力、電気、冷蔵温度…。
魔法としてはどの属性も使いはするが。
俺はごそりと手持ちを確認する。
今装備してるのは…。
「炎…か」
「よし、原因は火力が足りないだ!」
「お、兄ちゃん。炎にうるさいクチか?どれ、試しに火加減を変えてみるか」
定食屋は火力を強めて料理を始めた。
そして待つことしばらく…。
「へい、お待ちどう」
カウンター席にひとつの定食セットが出てきた。
俺は別にいらないとジョニーを促せば、ジョニーは喜んで席に着く。
「いっただっきまーす!!」
手を合わせると、凄い勢いで定食を食べ始めるジョニー。
それを待つ間、俺は何気なく壁に貼られたメニューなどを眺めていた。
定食屋…な。
こうしていると、七番街スラムでナマエに連れて行ってもらった店を思い出す。
自信満々に「おすすめだ」と言うだけあって、確かにあの店は美味かった。
食べながらふたりで色々と話もして…。
あの時間は、悪くなかったと思う。
だから、伍番魔晄炉のミッションが終わって帰ったら、他に美味いメニューはあるかとか、良い店はあるかとか、そんなことを聞いてみようかなんて考えていたが…随分と遠回りになっているな。
まあ、別に…今は七番街に帰らずとも、一緒にいるからいいんだけどな。
「……。」
ふと、我に返る。
さっきからずっと、同じ笑顔ばかり思い出す。
聞いてみようか、なんて。
…まるで口実探しだ。
はあ、と小さく息をつく。
そうしている間に、ジョニーは定食を綺麗に平らげていた。
「腹が…重い…だめ…こぼれる…」
立ち上がると、腹を押さえて口を押さえて。
ふらふらと定食屋の外に出ていくジョニー。
「料理人冥利に尽きるねえ。あんたには感謝してもしきれないよ。これ、お礼と薬屋商品クーポン。彼に薬でも買ってあげて」
店主はそう言って俺に何かを手渡してきた。
約束のものかと思ったが、それはクーポンとモーグリメダル。
「おい、マテリア屋から預かったものは…」
俺はそう声を掛けた。
けど、店主はもう他に興味が移っており、こちらの話など聞いてはいない。
「…薬屋が先か」
外からも「薬屋はどこだー!道を!道を開けてくれー!」とかいうジョニーの切羽詰まった声が聞こえてくる。
本当に吐かれても面倒だ。
とりあえず薬屋を探すか…。
しぶしぶ、俺も定食屋を出てジョニーを追いかけた。
To be continued