何だか少し物足りない



「いらっしゃいませ、何かお探しの商品が…ん?ああ、あんたが例のなんでも屋か!頼みたいのは、あれだ。居酒屋で飲んだくれてるうちのオヤジを連れ戻してほしくてね。すぐそこの酔いどれって店にいるから、よろしくな」





サムに渡されたメモに従い、訪れた洋服店。

そこでは、その店の息子らしい男からオヤジを連れ戻して欲しいという依頼を受けた。

どこにいるのかはわかっているのに、わざわざ依頼するのか。
店を離れられないから…とかそう言うことだろうか。

まあ、報酬さえ貰えればなんでもいいけどな。

そうして店を出れば、両手を振ってこちらに駆け寄ってくる男がひとりいた。





「クラウドさん!サムさんから話は聞きました。ティファを助ける為、ウォール・マーケットについて勉強中なんですよね。ここはこの街の先輩である俺にドーンと任せてください!さあ、まずは依頼をこなしちゃいましょう!酔いどれはこっちです!」





男はジョニーだった。
奴は俺が何か言う前に、ぺらぺらひとりで話し出す。

サムに頼まれたって何だ…。
何をドーンと任せると言うのか…。

でも、まあ…酔いどれの場所を知っているのか。
道案内があるのは、とりあえずいいか。

そうして俺は、酔いどれの方に走り出すジョニーに大人しくついていってみることにした。





「酔いどれ〜、酔いどれ〜」





口を閉じることを知らないのか、走りながらも何かと喋っているジョニー。

…そういえば、魔晄炉の作戦を抜いてなんでも屋の依頼をナマエ抜きでこなすのは何だかんだはじめてだな。

ナマエが一緒だったら、どんな風に探すかな。
見つけたら俺に手招きして「えへへ」ときっと、にっこり笑う。

そんな想像が出来るくらい…もう、慣れたものだなと思った。

今、少し…物足りないな、なんて…。
そんなことを思ってしまうくらいには。





「常連さんが多い店ですから入るときは…ちょ、そんなズカズカと!大人の世界には色々としきたりが…って待ってくださいよ!」





酔いどれにつくと、入り口で何故かしり込みしているジョニーを置いて、俺はさっさと店に入った。
すると、ジョニーも慌ててついてくる。

そうして店の奥に進んでみると、そこにはテーブルに突っ伏した男がひとりいた。





「あんたがオヤジだな」

「あぁ…?ワシの息子はこんなアホ面だったか?」

「ア、アホ面だと?とにかく、俺と一緒に店に帰ってもらうぜ!」

「嫌じゃ!ワシは、ワシはもう駄目なんじゃ…」

「そ、そんなこと言うなよ、オヤジ。俺、力になるからさ」

「おお…本当か、息子よ!」





ジョニーが声を掛けるとオヤジは酔っていて、話がかみ合っているのかどうなのか…。

しかし、力になると言った言葉にオヤジも顔を上げる。

まあ…店に連れ戻すことが依頼だからな。
店に戻す気にさせるには話を聞く必要がある…か。

とりあえず聞いてみるか、と俺もその話に耳を傾けた。





「実は、マテリア屋の店主に賭けで負けてのう…。ワシの大切は、いんすぴれーしょんを奪われてしまったんだよ」

「いん…すぴ?」

「いんすぴれーしょん!あれが返ってこない限り、店に戻る意味はない」

「わかった!なんだかよくわかんないけど、その…いんすぴれーしょんってやつを取り返してくればいいんだな!待ってろよ、オヤジ!」

「ほら、お前も行かんかい」

「…はあ」





オヤジは隣で話を聞いていた俺に対してもそう言ってきた。
面倒なことになってきたな…と思わず小さな息をつく。

でも、その賭けで取られたものとやらを取り戻してくれば戻る気にはなるんだな。
それならさっさと片付けてしまうに限る。

俺とジョニーは店を出て、早速マテリア屋に向かうことにした。





「マテリア屋…マテリア屋…。マテリア屋って入ったことないんだよな、俺…。ナマエなんかは組み合わせがどーのとかよく言ってるけど…」





またもよく喋るジョニーの口から今度はナマエの名前が出てきた。

まあ、ナマエならマテリアの話はするだろう。

ナマエは剣での近接戦は勿論だが、魔力も高くマテリアの使い方も上手い。
状況によって切り替えて戦う姿は大したものだと思う。

マテリアの組み合わせを考えるのも好きみたいだし。
ショップに並んでいれば、見ていいかとよく聞いてくるしな。





「あやしいにおいがプンプンするぜ。魔術じみたこの感じはまさに…ちょっ、置いてかないで!」





店の前まで来てまたもしり込みしているジョニーを無視して俺はさっさと中に入る。
するとジョニーも先程同様、また慌ててついてきた。





「これが、マテリア屋…」





入ってすぐ、きょろきょろと薄暗い店内を見渡すジョニー。

店の中には、ひとりの男が寝そべっていた。
恐らくこいつが店主なのだろう。

店主は寝そべったまま、店に入ってきた俺たちを見上げる。





「なんだ、あんたたち」

「服屋のオヤジのいんすぴれーしょんを返してもらおうか」

「いんすぴ…?ああ、あれのことか。でもあれは俺の戦利品だぜ。タダで返すわけないだろ」

「なにぃ!」





ジョニーの交渉。
俺は腕を組んでそれを眺める。

どいつもこいつも面倒くさいなと思う。

しかし、どうやら取り付く島はあるらしい。





「でも、そうだな。頼みを聞いてくれるなら、考えないでもない」

「な、なんだよ」

「兄さんたちを、男と見込んでの頼みだ」





ジョニーが隣で息を飲む。

男と見込んで…?

俺も顔をしかめた。





「宿屋の自販機で買ってきて欲しいものがある。アレだよ、アレ」

「宿屋、じはんき…アレか!」

「アレって?」

「野暮なこと聞くなよ…!」





アレで通じているふたりにわけがわからず尋ねれば、何故か店主に怒られた。
…いや、アレでわかるわけないだろ。





「…んじゃ、よろしくな」





店主はそう言って俺たちを送り出す。

…一体何なんだか。
しかし、この調子だと宿屋の自販機とやらを調べに行くしかないらしい。





「自販機のアレ…みやぶるのはこの俺だ!感じる…感じるぜ!危険な夜の気配を!秘密の領域、いざ参らん!!」





ジョニーは騒ぎながら、先に店を出て宿に向かっていく。

宿屋は確かウォール・マーケットの入り口の近くにあったな。
それを思い出しながら、俺もジョニーを追い、宿屋に向かったのだった。



To be continued



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