男のことは男同士



コルネオコロッセオで見事チャンピオンになった俺たちは、約束通りマムからオーディションの推薦とそれに見合う服装をナマエとエアリスに用意して貰えることになった。

楽しみだとニコニコしているエアリス。
ずんずん話が進み、ここに来て少し圧倒されている様子のナマエ。

マムはふたりについてこいと言い、店の奥に入っていく。

エアリスは「じゃあクラウド、あとでね!」と軽く手を振り、すぐにその後を追っていった。

ナマエも一度俺に向き直り、同じようにしばしの別れを告げてきた。





「じゃあ、行ってくるね」

「ああ、頃合いを見て戻る」

「うん、気をつけて」





ニコリと笑うナマエ。
俺も釣られるように軽く微笑んで頷く。

でもその直後、店の奥からマムの怒鳴り声が響いてきた。





「ナマエ!早くしな!」





その声にビクリと肩を揺らすナマエ。
俺も少なからず驚いた。





「…怒られた」

「…早く行ってこい。余計怒られるぞ」

「だね…。じゃあね、クラウド」

「ああ」





そんな会話を最後に、ナマエもぱたぱたと店の奥に向かっていく。
その背中を見送って、俺も扉を開き、手揉み屋の外に出た。

さて…と。





「チョコボ・サム…か」





外の風を感じながら、俺はそう呟き、街の出入り口の方へ視線を向ける。

ナマエ達がドレスアップをしている間、俺が時間を持て余すであろうことを見越していたマムはチョコボ・サムに話をつけているからと勝手に話を進めていた。

男のことは男同士。
有無も言わさずと言うのは不本意だったが…しかし、特にすることがないのもまた事実。





「…一応、行ってみるか」





マムに逆らっても後々が面倒そうだしな…。
俺は少し億劫に思いながらも、言われた通りにチョコボ・サムの元を訪れてみることにした。





「よお、マムから話は聞いてるぜ。女連れでチャンピオンになっておいて、今度は女の留守中に夜遊びとはな」

「はぁ?」

「怒るなって。どうせ、マムにケツでも叩かれたんだろ」





相変わらず、ふざけた物言いをするサム。
じろりと睨んで詰め寄ると、落ち着けと軽くなだめられた。





「ま、確かに兄ちゃんは、なんつーか…腕っぷしは強いんだろうが、どうにもなあ?この機会に、いっぱしの男として色々経験を積んどくのも悪くねえだろ。守りたい女がいるなら、なおさらな」

「……。」





余計なお世話だ…と思いつつ。
しかし…守りたいと言う言葉には少なからず浮かぶものがある。

…いっぱしの男としての経験…。

するとサムはまじまじと俺の顔を見てきた。





「しっかしなあ、あのふたり…いや、もしかしてティファちゃんもいれると3人か?全員違うタイプだな。兄ちゃんいったい誰が本命なんだ?」

「は?」





一体何の話だ。
サムは髭を撫でながら、ニヤリと笑ってそんなことを聞いてくる。





「そういや剣を携えたあの子、助手なんだろ?気に入ってるから傍に置いてるのか?」

「、別に…」





剣を携えた…言わずもがなそれはナマエの事だろう。

出されたナマエの話題に、かすかに動揺したような気がする…。
でもそれを悟られぬよう、俺は平然を装った。





「いや、マムが妙に気に入ってるみたいだったからな」

「マムが?」

「ああ。そうそう、あの子も可愛い顔してなかなかの強さだったな。しなやかな動きで正直見惚れたぜ。あれで射貫かれた観客も多かっただろ」

「……。」

「ま。まだちーっと幼さが残る気もするが、けどありゃ切っ掛けひとつで化けるタイプだな。それに、ああいうのを俺好みに変えていくのも悪くない」

「……おい」

「わーった、わーった。だから睨むなって」





ナマエをどういう目で見てるんだ、こいつは。
イラっとして、それを隠すことなく睨みつければサムは「へいへい」とでも言うかのように両手を軽く上げた。





「まあなんだ、ちょうどあんたにぴったりの話がある。どうだ、乗ってみるか?」

「ふん、ただの暇つぶしだ」





ドレスアップ。
どれくらいの時間が掛かるのかはわからないが、マムは楽じゃないと言っていた。

それなりに時間を要するのは確かだろう。

そう。これは暇つぶし。

話を受けた俺を、サムは笑って送り出す。





「はは、その意気、その意気。頑張って来いよ、なんでも屋」





こうして俺は夜の街に、ひとりで繰り出したのだった。



To be continued



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