打ち解けた心の距離
(※【離れた少しの間に想う】の続きです。単発でも読めますが。)
「おお、クラウド。無事だったか。ウェッジは?」
「家だ」
「そうか。そりゃよかった。明日は大事な決戦決行の日だ。ウェッジがケツを撃たれたとか言い出した時はどうなる事かと思ったぜ」
パラシュートで上から戻ってきた後、ウェッジを家に送り届けた俺は、他の連中の家も回ることにした。
まず訪れたのは、ビッグスの家。
ビッグスは箒を持ち、家の前の掃除をしているようだった。
「バレットに黙って上まで行ってもし何かあったら合わせる顔がないからな。かといってジェシーの様子も変だったから放っちゃおけなかったし」
「ビッグス」
「ジェシーは今頃爆弾の準備してるんだよな。それって今からやって間に合うもんなのか?やっぱ手伝いに行った方が…」
「落ち着け」
ビッグスはあれこれ考えて、落ち着きがない様子だった。
そういえばウェッジが言っていた。
作戦の後のお約束の反省大会。
考えすぎて熱を出したこともあるとかなんとか。
これは熱も出すかもな、と妙に納得する。
俺がなだめたところで、ビッグスもハッと考え込んでいることに気が付いたようだった。
「悪い、パラシュートでかなり流されてな。なんか、悪い前触れなんじゃないかってつい」
「スラムの心得そのいち」
「了解」
「じゃあな」
「おう、世話になったな、クラウド。ナマエにもまたちゃんと礼言わねえとな」
早く休め、と別れを口にする。
しかし、ナマエの名前が出たことで、俺は去ろうとした足を止めた。
「ナマエも無事か」
「おう。無事に戻ってきてるよ。明日朝早いからって気遣ってくれて、早々に別れちまったんだけど。そうだ、クラウド。もしよかったらアパートに戻った時、ちょろっと様子見てもらえると…」
「ああ、もともとそのつもりだ」
「へへ、そっか」
ナマエは同じアパートだし、もともと声を掛けるつもりだった。
そう答えると、ビッグスは軽く笑った。
「ジェシーの個人的なこととはいえ、俺たちに関わることなのに手伝ってくれたからな」
「…あいつなりに考えがあった。それだけだろ」
「まあな」
自分はアバランチではないから、必要以上に手は出さない。
ただ今回手伝ったのは、被害を抑える事、ジェシーへの共感…自分なりに思いがあったからだと。
ナマエ自身が、そう言っていたから。
「自分にはそこに注ぎ込めるほどの熱…強い理由や覚悟が無いから、ってな。それがあいつの考えだからな」
「ああ、本人に聞いた」
「お、そっか。ま、最もだよな。ジェシーなんかも賢明だって笑ってた。意外とさ、そういう考え方とか、しっかりしてるんだよな」
「そうだな」
「それ聞いた時、俺も改めて思ってさ。やるからには覚悟をしっかり決めなきゃならないって。当たり前のことだし、わかってたことだけど、ちょっと背筋が伸びたよ」
「そうか」
無邪気でハチャメチャな印象が残るが、ものの考え方はわりとしっかりしている。
それは、戦闘能力ひとつとってもわかる気がした。
「なあ、クラウド。お前さ、ナマエの事どう思ってる?」
「は…?」
ビッグスは突然、そんなことを聞いてきた。
突拍子もなく、意味も分からず。
思わず間の抜けた声が漏れる。
するとビッグスもその自覚はあったらしい。
「ああ、悪い、変な意味じゃない…こともない、のか。いやさ、さっきも上行ってお前らのやり取り見ててさ、なんつーか、結構いい感じだなって思ってさ」
「え…?」
「って、これもなんか変な言い方してるよな?ははっ、なんだろうな、打ち解けてると言うか…そんな感じだな」
「……。」
「でも実際、結構気許してるんじゃないか?」
そう言われ、少し、反応に困った。
別に…と言いかけて。
でも、止まった。
打ち解ける…。
気を許している…。
それは俺自身、その自覚があったからかもしれない。
「ま、ナマエもお前のこと気に入ってるみたいだし、上手くやれてるみたいでよかったよ。助手やりたいとか言い出した時は何事かと思ったけどな」
そう言ってビッグスは笑う。
ナマエが、俺を気に入っている…。
…どうなのだろう。
まあ…確かに、好感は持たれているとは、思う。
初めて会った時、財布を探して、助けてやったのが大きいのだろうが。
でも、そう言われて、悪い気はしなかった。
いや…むしろ。
「っと、悪い、長話しちまったな」
「いや」
じゃあな、と言ってからどれくらい経っただろう。
確かに少し長く話し込んでしまった。
今度こそ互いに別れを告げ、俺はビッグスの家を後にした。
あとはジェシーの家、か。
ビッグスが家にいたなら、恐らくもう戻ってきているだろう。
ナマエも、きっと。
なんでも屋…。
今日の手応えは、悪くなかった。
明日、ナマエは暇だろうか。
また一緒に依頼をこなせたら…と考える。
アパートに戻ったら、顔を見るついでに聞いてみるか。
そんなことを考えながら、俺は再びスラムの街を歩き出した。
END