怪我の功名



訪れた手揉み屋の店。

マダム・マムにオーディション推薦の話を聞いてもらうため、まずこちらの誠意を見せろと言う話になった。
その誠意とは、クラウドが手揉みを受けること。

100ギルコース、ごぶごぶ揉み。

あたしとエアリスは雑談しながらそれが終わるのを待ち、数十分。
施術を受けたクラウドが奥の部屋から戻ってきた。





「あ、クラウド帰ってきた!おかえり〜!」

「どうだった?」





あたしたちはソファから立ち、クラウドを迎える。
だけどそうして見た彼の顔は…なんだか、どんより元気ない…?





「すまない。何も話したくない…」





クラウドはそう言って部屋の隅に歩いていく。

何も話したくないて…。
手首も押さえてて…これは…。





「うん…真っ青」

「く、クラウド…」





エアリスの指摘した通り、クラウドの顔は真っ青だった。

クラウドはぐったりと壁に寄りかかる。
そんな彼を心配したあたしたちもその傍に歩み寄った。





「少し休めば大丈夫だ」





ふたりで心配そうに見ていると、それに気づいたクラウドはそう答えてくれる。

でも…正直あんまりそうは見えないって言うか。
だって顔は、いまだに真っ青のままだ。





「ホントに?」

「うん、本当に大丈夫なの…?」

「…そう、信じたい」





ああ、本音が漏れた。

信じたいって…これマジでガチのやつじゃん。
クラウドがここまで消沈するとか絶対やばいやつじゃん…!!

そうこうしているとマムも戻ってきた。
マムはつかつかとクラウドに近づき、ニヤリと笑う。

そして扇子でクラウドの顔を仰いだ。





「癖になりそうかい?」

「……。」





クラウドは視線を逸らした。
ていうかむしろ逃げた?

もう本当、さっき言ってた通り何も話したくないって感じ。

そんな反応にマムは「ふっ」と笑い、離れていった。

な、何をされたんだ一体…。
もしかして一番安い100ギルのコースにしたのが良くなかった?

上は3000ギルだし…、普通に考えると多分待遇は結構違うんじゃないかなって思うんだけど…。





「クラウド…痛い?大丈夫?ケアルとかする?」





相変わらず、手首を押さえたままのクラウド。
それを見かねてあたしはそう聞いてみた。

いや、ケアルでどうにかなるもんなのかわからんけども。

でもこんな真っ青なクラウド見て何もしないのは心苦しいというか…。
気休めでもなんでも何かしてあげたいというか…。





「…ああ。…頼んでもいいか?」

「うん!よしきたっ」





クラウドは頷いた。

お!
それならいたわり度MAXでケアルしちゃうよ!

いや効果に違いはないけども。

まあとにかくやってあげるべし。





「このへん?押さえてるあたり?」

「ああ…」





位置を聞いて確認する。
包み込むように触れて、集中。





「ケアル」





癒しの光が溢れる。

グローブで見えない…というか、外したところで傷とかがあるわけじゃないだろうからよくわかんないけど。

とりあえず、どんなもんでしょ?
あたしは伺うようにクラウドを見てみた。





「ど?」

「ああ…、少し楽になった気がする」

「お!やった」





手首を軽く動かすクラウド。
どうやら効果はあったらしい。

しかめていた表情も和らいだ気がする!

するとそれを見ていたマムはちょっと鬱陶しそうな顔をした。





「なんだい、クラウド。怪我の功名とでも言いたげじゃないか。でれでれするんじゃないよ、まったく」

「でれっ…、…別に」

「なるほどね、本命はそっちなのかい」





マムは「はーん」みたいな反応。
クラウドはそんなマムから視線を逸らす。

でれでれ…。
本命…。

って、いや何の話だ。

いやわかるけど、意味は!
でもそれはないから!ありえないから!っていう!

なんかちょっと虚しくなるけど!!ちくちょう!!





「ナマエ」

「え?」





なんか微妙に凹みかけていると、クラウドに声を掛けられた。

多分あらぬ疑いをマムに掛けられ、でも言い返しても負けるから逃げ場を探す感じ。
現に顔、ちょっと戸惑ってたし。

でもそこで嬉しい一言。





「…ケアル、ありがとう。助かった」

「え、あ、うん。ど、どういたしまして…?」





こくんと頷く。
するとクラウドも少しだけ微笑んで頷き返してくれた。

…クラウドは、結構律儀だよなあって思う。

その時、後ろでエアリスがクスッと小さく笑った声が聞こえた。



END



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