未来に幸あれ



「やばかった…結構やばかった…」

「やられても死にはしない」

「そうだけども!でもヤバかったでしょあのロボ!何あのロボ!召喚獣との連戦の後にあのロボ!」





ぺたん…と座り込んでワーッと叫ぶあたし。
それを見てクラウドはやれやれみたいな顔をした。

あたしたちはチャドリーくんの頼みで神羅の最高位バトルシミュレーターに挑戦した。

その名も、トップシークレッツ。
召喚獣との戦いの後、神羅の巨大兵器を相手にする5連戦。

最高位…その名は伊達ではなく、いざ戦ってみるとその強さに納得した。

確かに肉体的なケガはない。
だけど、あれはなかなか心臓に悪くて精神的にもくるものがあったぞ…。





「クラウドさん、ナマエさん、お疲れさまでした!」





シミュレーター内にチャドリーくんが入ってきた。

彼もあの戦いの様子は見ていて、勝利したから来てくれたのだろう。

それならちゃんと立ちますか…。
あたしもぺたんとついていたお尻を上げて、よっこらしょと立ち上がった。





「チャドリーくん〜…頑張ったよ〜、あたしたち」

「はい。流石でした!クラウドさんに秘められた力が、完全に開放されましたね!」





チャドリーくんは嬉しそうだった。

クラウドに秘められた力…。

このシミュレーションに挑む前、チャドリーくんは言っていた。

彼の研究テーマはクラウド。
クラウドの秘められた力が引き出せれば、それは神羅に立ち向かう力になると。

今の戦いは確かに何か掴めるものがあったかもしれないけど…。
クラウドに目を向ければ、クラウド自身も己の手を見つめていた。





「これで、僕の研究も完結です。今こそ真実をお話しできます」

「真実?」




チャドリーくんはどこか穏やかに言う。
あたしが聞き返すと、彼は微笑んだままゆっくりと頷いた。

そして語り始める。





「僕は、宝条の研究をサポートするために創られたサイボーグなんです」

「えっ…!?」

「!」





サイボーグ。
そう言われ、あたしもクラウドも驚きを隠せなかった。

そしてその時、チャドリーくんの周りにホログラムのような光が浮かび上がった。

…前々から、解析とか検知とか、なんだか機械的なことを言うなぁとは思っていた。
でもまさかサイボーグだったなんて誰が思うだろう。





「研究に必要な能力を極限まで強化された一方、宝条の意思に背く行動を取れないようにプログラムされていました。でも、クラウドさんと出会った時、僕を縛る制約を無効にする仮説を検知したのです。クラウドさんのような可能性を秘めた存在を独自に研究することは宝条の意思には反しないのです」




あたしもクラウドも、その話を黙って聞いていた。

宝条博士から逃れる為に、チャドリーくんは今まで動いたいたのか…。
そしてクラウドに出会った事で、一気に彼の世界が回り出す。




「僕はクラウドさんを利用することにしました。クラウドさんが模擬戦に勝つ度に、僕自身に適用する機能向上パッチを実行するように、仕込んでおいたのです。すべての研究が終わったときに、僕が宝条から自由になれるように」

「そうか」

「へえ…あの模擬戦にそんな意味があったの」

「はい。そして、ナマエさん。クラウドさんとナマエさんの気持ちの変化も、僕にとっては興味深かったのです」





あたしの名前も出てきた。

興味深い。
それは今までも何度か言われたことのある言葉だったけど。

クラウドと、あたしの気持ちの変化?

気持ち…。確かにチャドリーくんってこちらの考えてる事を機敏に察っするというか、そう言うことって結構あった。
でも、気持ちの変化って…。





「おふたりは少しずつ、互いを思う気持ちが変化していました。一緒にいる時間の高揚、惹かれていくその様子はとても興味深かったです」

「…!」

「惹か…っ」





惹かれていく…!?
それを聞き、ぶわっ…と体が熱くなった。

ちょちょちょ!この子は一体、クラウドの前で何を言っているのです!?





「ちゃ、ちゃ、チャドリーくん!!惹かっ、惹かれって、そんな別にね!?」

「僕には縁のないものだったから、でも、誰かを大切に思うって素敵なことだなって、おふたりを見ていてそう思いました」

「へ…」





まあ惹かれって色々意味あるし!?
そう咄嗟に訂正しようとしたけど、チャドリーくんの言葉にぴたりと止まった。

縁がないだなんて…。

誰かを大切に思うこと…。





「今まで、ありがとうございました。クラウドさんとナマエさんのおかげで、僕は僕自身になれそうです」

「…これからどうするんだ?」





クラウドが尋ねる。
チャドリーくんは首を横に振った。





「わかりません。自分のこと、未来のこと…」





その顔は笑っている。

チャドリーくんは出口に向かって歩き出す。
その背中は、希望に満ちている気がして。





「わからないって、楽しいですね」





最後、扉の前で一度だけ振り向き、そう言って微笑むと、チャドリーくんはシミュレーター内から出て行った。

誰かを大切に思う。
それは、研究においてはいらないモノなのかな。

でも、宝条博士の支配から解けた彼は、これから自由に生きていく。
したいことをして、思いたいように思う。

それは、素敵なこと…。

うん、あたしも、そう思うよ。





「クラウド」

「ん…?」





チャドリーくんの背中を見送って、あたしはクラウドに振り返った。
クラウドもこちらを見てくれる。

そして見上げて、ぽつっと口にした。





「…うん、あたし、クラウドに惹かれてるかも」

「えっ…」





ふふ、と笑ってそんなことを言ってみる。
するとクラウドは目を丸くした。




「だってねー、なんでも屋手伝いたいな〜とか、突拍子もなく思っちゃったりしてね。なんだろうね、なんかピンときちゃったっていうか!どこまでもお供しますぜ、ボス!」

「…ボスって言うな」





クラウドはため息をつく。
あたしはまた笑った。

惹かれてる…。

その真意は、やっぱり言えないよ。
そんな勇気はないから。

だけど。





「そう、最初はなんとなく。でも、そうして良かったって、今は思う。手伝えて楽しいよ。少しずつ、そういう気持ちが増えていくって、そういうのってなんかいいね」

「ナマエ…」





今は、少しそんなことを伝えたくなった。
少しだけでも。

信頼したり、されたり。
誰かを大切に思う、それは素敵なことって、きっと共感したから、かな。

すると、クラウドも小さく頷いてくれた。





「そうだな…。俺も手伝いなんていらないと思ってたけど、今はあんたがいて良かったと思う。まあ、それは…良い、気持ちの変化…かもな」

「…そっか!」





クラウドもそんな風に言ってくれた。

あ、なんか思わぬ贅沢貰ってしまったかも。
うん、すごく嬉しい。

チャドリーくんの研究は、これで完結。
なんでも屋として色々なレポートを提出したし、こっちとしても感慨深い。

彼の未来に幸あれ。

あたしはそう、心の中で祈った。


END



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -