間に合えと祈りながら



「ねえ、クラウド。ウォール・マーケットに来たなら一応マムのところに寄りたいな」

「ああ…」





プレートの上に行く方法を探すに当たり、訪れたウォール・マーケット。
目的は裏ルートを知っていそうなコルネオだけど、ここに来たならとりあえずマムには顔を見せに行くべきだろう。

あたしが提案すれば、クラウドも頷いてくれる。

こうしてあたしたちはコルネオの屋敷に向かう前に、一度手揉み屋に寄ってみることにした。





「あ、マム〜」

「おやナマエ、クラウド」





手揉み屋に来ると、マムはちょうど店の前に出ていた。
あたしが手を振りながら駆け寄ると、マムはすぐこちらに気が付いてくれた。





「なんだい、ナマエ。やっぱりうちで働いてみたくなったのかい?」

「え?いや、違う違う違う…」

「あんたなら雇ってもいいよ。この前さわりは教えてみたけど筋が良かったからね。色々仕込んでやろうじゃないか。仕込み甲斐もありそうだし」

「へ。やー…そりゃま、手揉みスキル身に着けるのは魅力的だとは思うけど…」

「おや。だったらやってみたらいいじゃないか。クラウドの助手なんかさっさとやめちまえばいいのさ」

「えええ…」





するっ…と頬に手を添えられながら、そんなことを囁かれる。
いや、だからこの手つきホントちょっとえろいんだってば…!

迫られ動揺。

するとそんな様子を見ていたクラウドが小さく息をついた。





「…マム。ナマエはやらない。手を放してくれ」





そして、止めてくれる台詞。
それを聞いたマムは「おやま」とか言いながら目を丸くしてた。





「なんだい、ずいぶんと素直になったものじゃないか」





マムの手が頬からゆっくり離れる。
でもあたしも驚いた。

ナマエは、やらない…。

え!?なにその素敵台詞!?
なんかの御褒美!?

あ、勝手に脳みそが繰り返し再生を…!





「あんたも嬉しそうな顔してんじゃないよ」

「あたっ」





ぺしっとマムに扇子で引っ叩かれた。
でも正直、頬が緩んでる自覚はあった。





「えへへ〜、だってクラウドが必要としてくれるのは嬉しいもん〜!うん、助手やめる予定はありません!」

「……。」





ああ、やばいやばい。
にやけた頬が締まらない。

クラウドはちょっと反応に困ってるぽかったけど否定はしないのでやっぱり嬉しい。

だって最初はいらないって言われてたんだぞ。
だけど少しずつ少しずつ、頼ってくれることが増えて、必要としてくれることが増えて。

そんなん嬉しいに決まってるでしょうよ!!

でもそうしていると「いい加減その緩みなんとかしな」ってまたマムに引っ叩かれた。…痛い。

というかそんなやり取りに一緒に来てるバレットとティファがぽかんと呆気に取られてる。
こりゃちょっといかんでしょってなワケで、そろそろちょっと真面目に話をすることにした。





「あのね、マム。ちょっと聞きたいことがあるだけど」

「プレートの上に行く方法を知らないか?」





あたしとクラウドはマムにも一応聞いてみることにした。

もしマムが知ってたら、それが一番有難いし。
だってコルネオのところに行かなくて良くなるもん。

でも、やっぱりそう簡単にはいかないのが常ってなもんで…。





「今はどこも厳戒態勢さ。ネズミ一匹通れやしないよ」

「だーよねー…」





返ってきた答えにあたしはがっくり項垂れた。
いや、わかってた…だろうなとは思ってた。

ただ、上に行く方法はわからなくとも、マムはまたちょっと別の情報をあたしたちに教えてくれた。





「ウォール・マーケットでもコルネオの手下どもがアバランチ狩りとか言って騒ぎだしてね。…ん?右腕が銃の男」

「ん?なんだよ」





アバランチ狩りの話。
銃の腕に気が付いたマムはバレットをまじまじと見る。

突然見られたバレットは別に怪しかねえぞ的な目でマムにガンを飛ばした。

いや、それ怪しい怪しい…。
まあアバランチ狩りとか言われたから身構えたんだろうなとは思うけど。

だけどそんなもんでマムがひるむはずもなく、マムはそのまま話を続けた。





「アバランチのひとりがそういう男らしくてね。コルネオの手下どもが探し回ってるのさ。アバランチには今、神羅の懸賞金が掛かってるからね。小遣い稼ぎでもするつもりなんだろ」

「やることは他にいくらでもあるだろうが」

「右腕が銃の男を伍番街で見たっていう情報があってね。花がいっぱい咲いている家に出入りしていたらしい」

「へえ…、なっ!」





反らしつつ、とぼけつつ…。
自分は無関係だというスタンスで話を聞いていたバレットだったけど、流石に最後の噂だけは聞き逃せなかった。





「ダメ、それはダメ…!」





ティファも慌てた様にバレットを見る。
今の話だけは見て見ぬふりをしてはいけない。





「クラウド…」

「ああ」





あたしもクラウドに声を掛けた。
するとクラウドも頷く。

エアリスの家に出入りしてること、まさか噂になってたなんて思わなかった…。

このままじゃエルミナさんやマリンが危ない…!





「戻るぞ!」





そう言っていち早く駆けだしたバレットに全員で頷く。
アバランチの当事者であるティファもマムに軽く頭を下げるとすぐにそれを追っていく。

あたしもそれに続こうとしたけど、でもその前に一度マムに向き直った。





「マム、ありがとう!というかごめんなさい…なんかバタバタして申し訳ないけど…」

「あんた達いつだってバタバタしてるじゃないか。厄介ごとに首を突っ込むのが趣味なのかい?」

「あー…あはは、いや別にそんな趣味は持ち合わせてないけど…。じゃあ、クラウド」

「ああ、行くぞ」





クラウドもマムに「悪いな」と一言だけ口にし、あたしたちもその場を掛けだした。

早く戻らないと…!
間に合えと祈りながら、あたしたちは伍番街に向かったのだった。



To be continued



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