天使の息吹を込めて



「おお!あったあった!お宝お宝〜!」





かぱっと箱を開けた。
中を覗き込めば、そこにあったのはキラキラのお宝。

それはグリーンの、多分マジもんの宝石がついた綺麗な冠だった。





「はー…キラキラでめっちゃ綺麗だ」

「流石はウォール・マーケットのドンが所有するお宝ってとこだろうな」

「うん。それ聞くとめっちゃ腹立つけどね」





箱から取り出してくれたクラウドと話す。

ほひーほひー言いながらお金や宝石に囲まれるコルネオとか想像しただけでド突きたくなるわ。

ミレイユさんからの情報を頼りに、探し出したコルネオの財宝。

その後もふたつ、合わせて3つの宝冠を見つけた。
色的に多分…ルビー、ダイヤ、エメラルドかな?

どれも美しく、素人目から見ても相当価値のあるモノだというのはわかった。





「コルネオの財宝はこれで全部だな」





すべてを眺めていると、後ろでバレットが言った。

聞いていた話では、神羅が押収しようとしていたコルネオの財宝は3つだった。
つまりはこれで全部回収し終えたはずだ。





「で、どうするよ。売ったりなんだり結構時間かかるぜ?」

「だーよねー。結構手間だよね、それ」





バレットの言葉にあたしは頷いた。

言うことは最も。
こういう値打ちのあるものって、査定とかも結構かかるだろう。

するとそれを聞いたティファが閃いたように手を叩いた。





「そうだ!七番街の復興に役立てるなら、マーレさんに預けようよ」

「あ!マーレさん!ティファ、ナイスアイディア!」

「でしょ!」





それだ!!とあたしが賛成すれば、ティファもニコッと笑ってくれた。

マーレさん!
確かに預けるならこれ以上の適任もいない。





「マーレさん、どこいるかな?」

「公園じゃないか?七番街との境の」





マーレさんと最後に会ったのは崩壊した七番街を見に行った時。
その後はどうしただろうかと考えると、クラウドが答えてくれた。

あの公園は七番街との隠し通路があるから、一時的に避難してきた人たちの溜まり場となっている。
いる可能性が一番高いのは確かにあの公園だろう。





「んじゃ、スラムエンジェル参上してこよっか!」





あたしたちはなんにでもなれる。
コルネオの財宝を手に入れて配れば、あたしたちはスラムエンジェルだもんね。

そうと決まれば善は急げ。

あたしたちは宝冠を手に、マーレさんを探しに公園へと向かった。





「あ!マーレさん!」





公園につくと、マーレさんはすぐに見つかった。
あたしが手を振りながら声を掛ければ、マーレさんもすぐにこちらに気が付いてくれた。





「おや、ナマエ。あんたたちも」

「マーレさん、お届け物ですよ〜!クラウド、お願い」

「スラムエンジェルからだ」





クラウドは運んでいた包みをマーレさんの前に置いた。
布を広げれば、3つの宝冠が目の前に並べられる。





「七番街の為に使って、だって」





そして伝言と称してティファがそう伝えれば、マーレさんの顔はぱっと明るくなった。





「スラムエンジェルって、あのスラムエンジェルかい?あんたたち、会ったのかい?」

「いや、人づてに受け取った」





クラウドは首を横に振った。

その正体は、ベールに包ませたまま。
勿論疑われるはずもない。





「へえ、スラムエンジェルがねえ。ありがたいねえ。うん、大事に、使わせてもらうよ」





マーレさんは感謝に目を細め、宝冠を大切に受け取ってくれた。

公園の様子は、惨事の直後に比べるとだいぶ片付いてきているように見えた。
必死に、精一杯生きようと、スラムの人たちの逞しさが眩しい。

このコルネオの財宝も、きっとその手助けになるだろう。

それから、あたしたちはこの一連の件にきっかけをくれたデマンさんの元へも一応報告に行った。
報告と言ってもスラムエンジェルの正体とかを言うつもりはないから、デマンさんのご期待に沿えることはきっとないんだけどね。





「あっ、なんでも屋さん!聞きましたか!」

「デマンさん、どうしたんです?」

「スラムエンジェルがコルネオの財宝を七番街に配ったんです!くう〜っ、さすがスラムエンジェル!!」





デマンさんの元に着くと、彼は既にコルネオの財宝が七番街に配られたことを知っていた。

情報早いな…。この辺は流石記者さんってとこなんだろうか。
いやでもミレイユさんが凄すぎるだけで、この人も情報集めに関しては優秀な人なのかもしれない。





「私ね、決意しました。活力新聞やめてフリーになります!スラムエンジェル専属記者になるんです!」

「え、専属?」





そして、またも見事に宝を配ってみせたその様にデマンさんはフリーになる決意をしたらしい。

これは、またなんとも。
すっかり魅入られちゃった言うか、なんというか。





「というわけで、またなんでも屋さんの力を借りるかもしれません!その時は、よろしくお願いしますね!」





デマンさんはクラウドとあたしにそう言いながら、「スラムエンジェルに…会いたいっ…!」とぐっと拳を震わせていた。
いつかデマンさんがその正体にたどり着く日は来るのだろうか。

なんにせよ、フリーになるほど熱中するその覚悟は潔くて清々しいというか。

なんとなく、少しだけ応援したいような気持ちになった。
まあ、余計なことは言わないけどね。





「七番街に宝を配ったのはあたしたちだってことは、秘密にしてたいね〜」

「夢を壊しそうだな」

「いやあ案外喜んでくれたりして」

「喜ぶ?」

「うーん、結構頼ってくれてるっていうか、なんでも屋に対しての期待値高そうだったし!言うほど夢壊さないかもよ?もしかしたらいつか、なんでも屋さんが!?ってつけ回されちゃったりして」

「それは勘弁だな…」

「あははっ!」





デマンさんと離れてから、クラウドとそんなことを話す。

でもスラムエンジェルも大変だ。

痛い目を見そうになっても、めげずに食らいついていく。
結構厄介な記者さんに目を付けられちゃったかもね。

スラムエンジェルの方も、そう簡単には尻尾を出さないだろうけど。





「ん、あれ?」

「ナマエ?」





そうして歩いていると、あたしは道端に何かが落ちているのを見つけた。

どうした、というクラウドの声を聞きながら近づいて拾い上げれば、それは一通の手紙とマテリアだった。
その手紙の宛名は…。





「なんでも屋へ、だって」

「なに?」





なんでも屋に宛てられた手紙。
あたしは拾い上げたそれをクラウドに手渡した。

それは、スラムエンジェルからの手紙だった。

スラムのみんなが世話になった。
あたしたちが助けた人たちを代表してお礼を言うという、そんな感謝の手紙。

一緒についていたマテリアはスラムエンジェルからの贈り物。





「スラムに笑顔が増えた。あんたたちのおかげさ、だって」

「ただ仕事をしただけだ」

「まーたそう言う〜」

「事実だ」

「あはは、まあ、そうだね」





捻くれたクラウドは素直にお礼を受け取らない。
ま、らしいというか、そう言うだろうな〜とはあたしも話を振った時点で思ってたけど。

確かに報酬をもらって、仕事をしただけ、だね。





「でもね、助けた人たちが笑顔になってくれたのは、確かにそうだと思うんだ」

「……。」

「クラウドのおかげ。あたしもお財布見つけてもらって、助けてもらったからわかるよ。あたしもスラムの一員だし、お礼言うね。ありがとう、クラウド」





にこりと笑って。
でもその笑顔は自然とこぼれたもの。

そうして伝えれば、クラウドはこちらを見る。

でも、そうしてゆるやかに首を横に振った。





「…その礼は、あんたにも向けられたものだろ」

「え?」

「俺だけじゃない。ナマエにも向けられてる」

「うん」

「…それに礼なら、俺の台詞でもある」

「え?クラウド?」





きょとんとした。

クラウドの台詞?
礼って…。

そう不思議に思っていると、クラウドはぽつりと呟いた。





「…手伝ってくれて、感謝してる」





たった、一言。

手紙を見つけて立ち止まって、少し先を行ってるバレットやティファにも届いてない。

あたしは目を丸くした。
するとそんな言葉とあたしを残し、クラウドは先に歩いて行ってしまう。





「あ、クラウド…!」





呼びかけても振り向かない。

でも、今…。
今確かにくれたのは、あたしへの感謝の言葉。

夜の花畑で、これからも手伝ってくれると助かるって言ってくれた。
一緒にいること、許してくれてる。

やっぱり、嬉しい。

そう思ってくれること。
傍にいていいって、わかること。

スラムエンジェル。
追いかけて、手のひらの上で転がされて、手を貸して。

色々あったけど、振り返るとなんだかいい思い出になったなって、そう思った。



END



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