無くした財布には敏感です
神羅が押収するはずだったというコルネオの財宝。
その財宝が隠されている場所の鍵は何者かによって盗まれてしまったという。
それはスラムエンジェルの仕業なのか、それともまったく別の誰かなのか。
あたしたちはその噂を追い、ミレイユさんからの情報を頼りにキリエという女の子を探していた。
「あっ!兄貴!ティファ!ん?ナマエもか。無事だったんだ、良かった…」
伍番街スラムの駅の側。
こちらに気が付いて声を掛けてきたのはジョニーだった。
なんかあたしオマケっぽい扱いされてない?
そこが若干気になったけど、七番街が崩壊してから会うのは初めてだし、無事を確認出来てほっとしているのは本音だろう。
というかそれよりも今…。
正直オマケ扱いよりも気になったことが…。
「兄貴…?」
あたしはちらっとクラウドを見た。
クラウドは頭を抱えてた。
「その呼び方はやめろ…」
その様子を見て確信。
…やっぱ今の、クラウドに言ったんだよね?
兄貴…。
ジョニーがクラウドを、兄貴!?
あたしはギュンッとすごい勢いでジョニーを見た。
「は!?ちょ!ジョニー!あんた何クラウドのこと兄貴とか呼んでんの!?」
「あん?んなもん兄貴は兄貴だからに決まってんだろーが!」
「いや、意味わかんないよ!?」
「…ナマエ」
一体いつの間に…!?いや多分ウォール・マーケットなんだろうけど。
でも、何がどうしてそうなった…???
訳が分からず混乱していると、クラウドに肩を叩かれた。
振り向くと突っ込むなって顔をしてた。
どうやらクラウドの方は兄貴呼びをされるのは嫌らしい。
確かにその呼び方はやめろって言ってたけども。
けど、ジョニーの方はその辺お構いなしだ。
「兄貴…折り入ってお願いがあるんですけど、聞いてくれます?」
ジョニーはそう言って項垂れた。
やめてくれなんて聞いちゃいない。
そんなんだからクラウドの方も、もはや諦めモードっぽい。
「…言ってみろ」
でもそのお願いとやらは聞いてくれるらしい。
流石。優しい。
「実は俺、色々あって街から出ることにしたんです。そしたら…くっ、うう…全財産をすられちまったんですよ〜!!ああっ、なんて不運で可哀想な俺…!途中まで追いかけたんだけど、逃げられちまってもうお先真っ暗!助けてくださいよ、兄貴〜!」
話し始めたジョニーはクラウドに泣きついた。
それを見たあたしはティファに近づき、そっと耳打ち。
「…その街を出ることになった理由、目の前の兄貴だよね」
「…まあ、そうなんだけどね…しーっ」
目隠しされたジョニーに街を出ろと脅したのはクラウドだ。
ティファは苦笑いしながら、そっと人差し指を唇に立てた。
まあね、話ややこしくするだけだからジョニーには言わんけど。
でも、スリかあ…。
多分ぼけーっとしてるところをやられたんだろう。
うーん…。
正直、あたしはお財布の事に関しては敏感かもしれない。
だから今回はちょっとだけ、クラウドに口を添えた。
「うーん、クラウド…今回はちょっと、手伝ってあげたいかも」
「ん!?ナマエ!お前、俺の味方してくれんのか!?」
なんかジョニーに感動された。
ナマエ…!お前ってやつは…!とかなんとか。
うん、鬱陶しい。
でも、わざわざそんなこと言うのも不思議に思ったのかクラウドにも聞かれた。
「…どうした?」
「いやあ、お財布落とした事のある身としては、その辺の絶望は痛いほどわかるんだよねえ…」
ははは、と苦笑いしながら言えばクラウドは「ああ…」と妙な納得を見せていた。
いや、あれね。
お財布は本当、その節はクラウドありがとうって言うね…。
クラウドは小さな息をつく。
そしてジョニーから詳しい話を聞いてくれた。
「犯人の特徴は?」
「兄貴…!」
聞いてくれたクラウドに目を輝かすジョニー。
大変わかりやすい。
いやあたしが言うなって言われそうだけど。
ジョニーは涙をぬぐう仕草を見せると聞かれた質問に答えていった。
「ええと、犯人の特徴ですよね。黒髪の可愛らしい女の子で、帽子を被ってて、あと…そうだ!しましまの靴下を履いてました!」
並べられた犯人の特徴。
それはなんだかものすごーく聞き覚えのある感じだ。
「クラウド、それって…」
「ああ、キリエか」
「どっちにいった!」
その特徴はミレイユさんの言っていたキリエとぴったり一致する。
そうとわかれば今までちょっとつまらなそうに欠伸までしていたバレットも食い気味に話に入ってきた。
「ええと、教会の方に!」
バレットの勢いに押されるように、ジョニーは慌ててさっき追いかけたらしい道を指さした。
教会…。
ってことは、エアリスと初めて会ったあの教会の方か。
道は、まあクラウドと確認しながらならわかるだろう。
ジョニーも不憫だし、盗んだのがそのキリエなら一緒に用を片付けてあげますか。
こうしてあたしたちはキリエを追い、教会の方へと進んだ。
でもその途中、やっぱり気になった。
「ねえ、クラウド。クラウドってさ…もしかして兄貴って呼ばれたかったりする?」
歩きながら、クラウドに聞いてみる。
やっぱりこう、どうも引っかかったのはさっきの兄貴呼び。
するとクラウドはものすっごい顔をしかめてあたしを見てきた。
「…どうしてそうなる。何聞いてたんだ」
「えー、でもさあ、ウェッジにも呼ばれたって言ってたよね?」
「…偶然な。むしろどいつもこいつも何なんだと俺が聞きたい」
クラウドは「はあ…」と大きめのため息をついた。
でもウェッジにしろジョニーにしろ、なんというか、慕ってるからそういう風に言うんだろうね。
まあその気持ちはちょっと、わからんでもない気がするのがこう…ねえ。
「ふーむ、あたしも兄貴って呼ぼっかなあ」
「やめろ」
「即答!!えー、だってなんか楽しそうなんだもん。でもじゃあやっぱボス?」
「それもやめろ。普通に呼べ」
お許しはもらえなかった。
いや貰えると思って聞いてるわけじゃないんだけど。
理由はこんなやり取りが楽しいから、かな。
こうやって構ってくれるのが嬉しいというか。
「…何笑ってるんだ」
「いや楽しくて」
「そんなことで楽しむな」
「あははっ!」
笑った。
クラウドはまた溜め息。
だけどそうして笑っていると、それを見たクラウドの表情も徐々に和らいでいく。
溜め息混じりで、ちょっと呆れ気味。でも、ふっ…と柔らかい笑みを零してくれた。
それを見て、あっ…て思う。
それはいつかジェシーが言ってたみたいな、良い顔。
うん、良い顔。
こうやってクラウドが笑ってくれるのがあたしは大好きだなぁと思う。
その後は、互いに顔を合わせて、自然と。
こういう瞬間。
それがたまらなく好きなんだよなぁと…あたしはちょっとした、そんなあたたかい幸せを覚えていた。
To be continued